泣いた松の大木
昔、山の上に幹は太く、枝は伸び、葉の茂った大きな松の木が一本ありました。旅人はこの松の木の下で休み、茂った葉や枝には空飛ぶ鳥が巣を作り、地上の獣は太い幹で爪を磨き腰を伸ばすのでした。
この山の上に仲のいい蛇と虎が住んでいました、蛇は自ら兄貴分を気取り、虎は弟分に甘んじていました。蛇と虎は何時もこの松の木の下で、おしゃべりを楽しみました。蛇が弟の虎を尋ねる時にはこの松の木の上でとぐろを巻きそれから腰をのばして出かけ、弟の虎が蛇の所に行く時はこの松で爪を綺麗にしてから行きました。
松の木は蛇と虎をまるで同居する肉親の兄弟のようだと思い、何時も互いに行き来して「俺、お前」と仲がいい蛇と虎を妬み、蛇と虎の仲を引き裂いてやろうと思っていました。
ある日、蛇は長い間、弟の虎に会っていないので、病気しているのか、それとも何かあったのか行ってみようと家を出ました。松の木の所に来ると何時ものように松に這い上がって、木の上でとぐろを巻き腰を伸ばし、さて行こうとすると、松が「蛇さん、あんた虎の所に行くのですか」と言いました。
「そうだよ、何日も弟に会ってないから、おかしいと思って、行ってみるんだ」すると松が「あんたが行くのはいいですが、わたしは行かない方がいいと思いますよ」と言うので、蛇は松に「それはどういうことかね」と聞きました、「いつかあんたの弟の虎が、ここで『あいつは友情のない奴だ、もうあいつには会いたくない』とあんたを罵っていましたからね」
蛇は松のこの言葉を聞いて怒り「俺はあいつに誠心誠意尽くしてやった、それなのに俺を罵るとは、この俺だってそんな奴には一生会いたくない」と言って息をハアハアさせて帰ってしまいました。
蛇が行ってしまうと暫くして虎がやって来ました、虎は松に登り爪を綺麗にして行こうとするとまた松が「虎さんどこへ行くのですか」と尋ねました「俺は蛇の兄貴の所に行くのだ、兄貴は何をしているのかちっとも来ないからどうしてるかと思ってね」すると、松は唆すように「あんたはまた蛇の奴の所にいくのですか、この間蛇はあんたのことをとても悪く言っていましたよ、虎の奴いろいろな鹿を取っても俺によこさないとか、あいつは恩知らずだとか」と言ってましたよ」と告げ口しました。
「蛇の兄貴がそんなことを言ったなんて、信じられない」「信じても信じなくても、あんただけに言っておきますよ」 「蛇の兄貴は本当にそう言ったのか」 「絶対にこう言いましたよ、わたしは一言半句も嘘を言っていません」これを聞くと虎も怒って息をハアハアさせて帰ってしまいました。
松は蛇も虎も怒って帰ったのを密かに面白がりました。
蛇は家に帰ってからまた火のように怒り、あいつは俺を裏切った、明日俺は虎に問い質してやると思いました。虎は虎で家に帰ると考えれば考えるほど癪にさわって「俺は鹿を捕まえると、半分は蛇にやっていたのにあいつは礼も言わない、文句をつけに行こう」と独り言を言いました。
翌日蛇と虎は朝早くそれぞれ家を出ました。ちょうど松の木の下で二人は出会い、蛇が「お前はどうして俺の悪口を言うのだ」と言えば、虎は「お前俺に聞くのか、俺の方こそお前に聞きたい」と言い、蛇と虎はああ言えばこう言うでますます怒り、虎が蛇に「俺はお前を兄貴と呼んでいるが、別にお前が怖いわけではない」と言うと、蛇は「それなら、俺はお前の力を見たいものだ」と言い返しました、言い合いをしているうちに蛇と虎は殴り合いの喧嘩を始めました、どちらも日頃の力をだしきって乱闘になり、力つきてよろよろと倒れてしまいました。
松の木はこの有様をみて、蛇と虎は死んでしまったと勘違いして、自分の企みが効を奏したと、ハハハと大声で笑い出して「これでよし、わしの修行は終わった」と言うと、息も絶え絶えの蛇と虎はこれを聞いて、ハッと自分たちが騙されていたことに気がつきましたがもう間に合いませんでした。
ちょうどこの時、農夫が通りかかり、大きな松の木の下で蛇と虎の死んでいるのを見つけ「蛇の肝も虎の髭も貴重だし、蛇は肉が旨い、虎の皮は防寒になる」とばかり蛇と虎を曳きずって家に持って帰りました。
皮を綺麗に剥がし、肉を鍋で煮ようとすると薪がありません、どうしょう、農夫は蛇と虎の死んでいた所に大きな松の木があったのを思い出し斧を持って松の木の下に行って、いくらか枝を切ろうと思って斧を振り上げ切ろうとすると、松が「お前さん、わしを切るならその前にわしの話を聞いてほしいがいいかね」と言いました。
農夫は心の中で、アレ、木が話せるのかと思って、「話があるなら話してみろ」と言いますと、松な悲しそうに涙を流し、「二人は仲がよかったのに、二人を唆して引き裂いた、もし蛇と虎がいたら、このわしを切り倒したろう」大きな松は言いながら泣き出し、泣きながら「お前さん、わしを切ってくれ、切られる痛みは堪え難いが、わしがしたことは悪いことだ、当然の報いだ」と言いました。
姜淑珍故事選 1993・3・5