土も金に変わる
“心ひとつになれば土も金になる”という諺があるがこれには一つの昔話がある。
昔、父と三人の息子の張という家があった。月日が過ぎて三人の息子はそれぞれに妻を迎え、子供も生まれ、張家の家族は増えてきたが、父親は年毎に老い、弱りもしたので三人の息子の中から一人を選んで家督を譲ろうと考えた。
しかし三人の息子の中にしっかりした者がいない、老父は息子たちに計画性がないのが不安で、誰に家を譲ろうかと心が揺れていた。
月日は過ぎ、誰に張家を譲るかを決めなければならない。そこで老父は三人の息子の妻たちはどうかと試してみることにした。
ある日、老父は三人の息子の嫁をみんな呼んで「ここに椀にいれた豆がある、お前たち一つづつ持って行って何かに使え」と言って渡した。三人の嫁はみんな自分たちの部屋に豆を持ち帰った。
長男の嫁はその豆をしばらく戸棚の上に置いておいたが、邪魔になったので、塩で炒って子供たちに食べさせてしまった。
次男の嫁は持ち帰った豆をそのまま目につかない所に置いて、すっかり鼠に食べられてしまった。
三男の嫁は豆を持ち帰ったあと小さな袋を縫って豆をいれ、風通しのいい所に置いて春になってからその豆を畑に播き、秋には大きな袋に豆を一杯収穫した。
ある日、老父はまた三人の嫁をみんな呼んで「わしがお前たちにやった一椀の豆はどうした」と聞いた。長男の嫁は「塩で炒って子供たちに食べさせた」と言い、次男の嫁は 「とっくに鼠に食べられた」と言った。三男の嫁は「わたしはあのお椀の豆を畑に播いて袋一杯豆をとった」と答えた。老父はこれを聞いて「お前たち三人、一人は意地汚く、一人はだらしがない、三男の嫁だけがしっかり者だ、“人は先見の明”が大切だ」と言った。
その夜、張老父は家族を集め「わしは老いてもう働けぬから、しっかりした三男の嫁に張家を譲ることにする」と宣言した。長男と次男の嫁はただ目を丸くするばかりであった。三男の嫁はしばらく考えてから、「わたしが張家を継ぐなら、一つ願いがある」と言った、老父は「どんなことだ、言ってみろ」と言うと「明日の朝から張家の家族は大人も子供もみんな庭に入る時、土を一掴み持って来て庭の中に積むこと」と言うとみんなは「それはなんでもないことだ、できる」と言うと三男の嫁は「みんなが心を一つにすれば、張家はきっと栄える」と言った。
三男の嫁が張家の主になってから、大人も子供も外から帰る時にみんな一塊の土を持って来て庭に置いた。月日が経って三年すると、積んだ土はだんだん大きくなって山のようになった。
ある日、太陽が山に沈もうとする時、二人の南方人が張家の前を通りすがり、庭の土の山を見て、庭に入ってきて「この家の主人は誰か、この土の山を売らぬか、わしらが銀百両でこの山を買おう」と言った。三男の嫁は土の山が銀百両と聞いて「この土の山を何に使うのか」と聞いた。「わしらが何に使うかより、売るのか売らないのか」「家の者に相談してから、明日の朝早く知らせる」南方人は「それでもよい、わしらは明日また来よう」
三男の嫁はあたりを見回して「すぐ暗くなるから、わたしの家に泊まったらどうか」と言うと、二人の南方人は暗くなり、泊まる場所がなくなるのを案じ、これを聞くと喜んで 「それでは世話になろう」と言った、そこで別の部屋に布団を敷いて二人の南方人を泊まらせせた。
夜、三男の嫁は横になっても寝つけなかった、「あの二人はこの土地の者ではない、土を買ってどうするのだろう、それにあんな土にどうしてあんなに沢山の金をだすのだろう」と考え、三男の嫁はそっと南方人を泊めた部屋の窓の下に行ってみると話し声がする、「あの土の中には金の小馬がある、夜になって小さな箕の中に高梁を入れて土の山の周りを左から三回、右から三回、回って口の中で『金の小馬、早く出て来い』と言えば金の馬が跳びだすのだ」と言っていた。
窓の下にいた三男の嫁はこれをはっきり聞いて、二人の南方人が鼾をかきはじると、急いで部屋に帰り、箕をだして高梁をいれ、月の上がるの待った。 深夜、人が寝静まって月が高く上ると、庭の土の山が月の光ではっきりと見えた、三男の嫁は小さな箕を両手に持って土の山を左に三回、右に三回まわり、口の中で「金の小馬、金の小馬早くでて来い」と唱えるとキラリと光る金の小馬が本当に跳びだした、三男の嫁は急いで金の小馬を箕で押さえ、持って帰って戸棚にいれ鍵をかけた。
翌日朝早く、二人の南方人は土の中の金の小馬を三男の嫁がとりだしたの知り、何も言わずに帰って行った。 これが、正に“心ひとつになれば、土も金になる”である。
姜淑珍故事選 1993・2・11