578 父は十七、息子は十八

 昔、天秤棒に篭をかけ甕、碗、盃などを売って歩く趙という行商人がいた。ある冬の小雪の舞う夕方、篭を担ぎ峠を越して一つの村に入ると二人の若者が大きな狐を木に縛りつけ、花びらのような雪が散りかかるその毛皮を剥ぎ取ろうとしていた。趙は狐の哀れむような目を見て可哀相になり、若者を説得して二十文で狐を買い山へ放してやった。もともと心の優しい趙はみんなに趙爺さんと親しまれ老妻も賢く、真面目に商売していたから暮らしもよかったが、子供に恵まれずそれだけを苦にしていた。

 さて、この日、趙爺さんは狐を助け、いいことをしたと家へ帰り何杯かの酒を飲んで寝ると、紅色の長い衣を着た白髪の老人が現れ「今日は老いた命を救って下され有難うございます。そのお礼のものを差し上げますが一番困った時の外は開けないで下さい」と言って姿を消した。趙爺さんは今のは夢であったかと目を覚まし、身の回りを見ると小さな青い布の袋があった。趙爺さんは老妻に今日あったこと、さっき見た夢のことをすっかり話すと老妻も驚いて不思議がり、袋を宝物のようにしてしまった。

 そうしているうちに不思議なことに長年子に恵まれなかった老妻が身ごもり、十月十日で大きな男の子の趙子が生まれ趙爺さんと老妻は大喜びした。趙子は葱のようにすくすく育ち、頭もいい。何を教えてもすぐ覚え、書塾の誰よりも賢かった。

 やがて趙子は十七歳になり、もう近隣に趙子が学べる書塾はなくなった。だが遠く離れた書塾に学識豊かな老師がおり、その書塾の寮生としてなら学ぶことができると分かった。趙子はその書塾で学びたかったが、老いた趙爺さん夫婦は書塾があまりに遠く息子を家から遠く離すのが心配で趙子の言うことを聞かなかった。老父母と趙子が互い困り果てた時、趙爺さんはあの夢の中で老人が困った時の外は開けるなと言った言葉を思い出し、老妻にあの袋を出させ開けてみると、中から一枚の薄い白い布と三寸くらいの折り畳んだ扇子がでてきた。扇子には十六の虫のような小さな字が書かれていた。“端坐布中 折扇生風 啓飛閉落 任爾西東”(白布に座し、扇風生じ、開いて飛び、閉じて降りる、東西自由)趙子はこの字句の解釈を老父母に話し、庭で試すとその通りであった。老父母は大喜びし、それから趙子は扇子を使って朝早く遠くの書塾へ飛びその日のうちに書塾から帰り、学習に励んだ。

 話し変って、趙爺さんの村から五里離れた李家村に李長者夫妻が可愛がっている美しくて聡明な十七歳の一人娘小李がいた。夏のある夕方、小李が女中の小紅と庭に出て涼んでいると、東の方から一人の青年が空中に正座したまま自在に飛んで来るのを見て驚き、庭の砂を空に向かって投げた。砂は青年の目に入り、青年はアッと庭の外の道に落ち、「痛い、痛い」と声を上げ両目をこすっている。小李はびっくり、人に見られたら大変と小紅に庭の裏門を開けさせ、青年を庭石の上に座らせ目の砂を払ってやったが青年はますます痛がって砂は取れない、日は落ちて暗くなり、このままではもっと大変なことになると小李は小紅にそっと青年を自分の部屋へ案内させ、灯りをつけて青年の目の砂を丁寧に拭き取りやっと綺麗に取ることができた。目を開けることができた趙子は目の前にいる花か、月かと見まがう美しい小李を見て心の中で喜び、小李は青年に惚れ、二人はたちまち相愛の仲になり、小紅の気遣いで二人は閨を共にし、夫婦になった。

 ある日、小李が突然大声で泣き出した。驚いた小紅が駆けつけてみると小李と秘かに夫婦になったあの趙子が死んでいた。小李の泣き声を聞きつけた李長者夫妻も娘の部屋に入ってびっくり、娘の華やかな寝間に一人の青年が死んで横たわり、娘が青年にとりすがって泣いているのだ。これはいったいどういうことだと問い詰めると、小紅が今までのことを話した。夫妻は青年が西の村の趙爺さんの一人息子の趙子だと分かり、悲しみはしたが、心の中ではこれが世間に伝われば大変だ、役所に知られればもっと大変なことになると思った。だがこうなってしまったからには娘を責めても仕方がないと娘を慰め、李長者は「趙子が空中を飛べるのは普通ではない何かの力が趙子にあるのだ、樟の木は腐るのを防ぐというからしばらく西の棟にある樟の木箱に入れて置き、後のことはまた考えよう」と言った。こうして、人に見つからないように趙子の死体を西の棟の箱に安置して鍵をかけた。夏の暑い日が八日ほど過ぎると、西の棟の部屋から絶えず清らかな香りが洩れて来た。李長者夫妻や小李は不思議に思い趙子の死体をそのままにして置き、小李は趙子の死体と一緒に一喜一憂しながら生死不明の日を過ごした。

 たとえ一夜の妻でも結ばれた縁は解けない。しばらくして小李は身ごもり十月臨月を待って男の子を生んだ。長者の妻は涙を流し「天はお見通しだ、趙家は絶えなかった」と喜び、いろいろ考えた末、ある晩の真夜中、男の子を小紅に抱かせて趙爺さんの家の窓の下に送り届けた。さて、趙爺さん夫婦は息子の趙子の行方が分からなくなってから刀で心を切られるように悲しみ、毎晩寝つかれずいた。すると真夜中に窓の外で赤ん坊の泣き声がする、趙爺さん夫婦は急いで寝巻きに上着をかけ外に出てみると窓の下にバタバタ動く赤ん坊が毛布にくるまっている、夫婦は驚き急いで生まれたばかりの赤ん坊を抱いて家に入り、老妻が喜び「息子がいなくなって孫が来た、すぐ名前をつけなくちゃ」と言うと趙爺さんも喜びの声で「そうだ、趙天生にしょう」と叫んだ。親戚や近所の人がこの喜びを聞いて祝いに来てくれると趙爺さん夫婦は賑やかに酒や料理みんなにふるまった。このことが伝わると李長者は心の中でそっと喜んだ、小李も喜んだが心配で何時かきっと子どもの様子を見に行こうと思っていた。

 二年経った四月十八日、趙家村の祭りがあったので小李は祭り見物にかこつけ小紅を連れ趙家村へ行った、村の西の端にあるのが趙爺さんの家である。二人は趙爺さんの家の前に立ったが門を入るわけにはいかず黙って嘆いていると、突然、門が開いて五十半ばを過ぎたような老婆が左手にピョンピョンはねる元気な男の子の手を引いて出て来た。小李はあれがあたしの子だと思わず目を赤くしてほろりと涙を落とした。するとそのまだ三歳にならないような子が駆け寄り「お母さん」と叫んで小李の足に抱きついた。趙爺さんの老妻は慌てて男の子を引き離すと、男の子は「お母さん、お母さん」と泣き叫んで小李に抱きついた、小李は涙と声を忍んで思わずわが子を抱き上げると男の子は泣き止んだ。この時、趙爺さんが出て来て趙天生を抱き上げたのは東村の李長者の一人娘だと分かり、小李と下女の小紅を家に入れお茶をだした。趙爺さんの老妻は李長者の未婚の一人娘に向かって天生が「お母さん」と呼んでしまったのに驚きどうしていいかと慌て、捨て子を孫として育てた今までの事情を細かく話し、「どうかこの父、母のない子の無礼を許してやって下さい」と懇願した。小李はこれを聞いて心を割かれる想いで天生を抱きしめ、思わず涙を流した。小紅も慌て「うちのお嬢様は心優しいお人でこの子の悲しい事情を聞いて涙したのです」と言ったが天生は小李から離れず、小李もまた天生を離さなかった。それを見た小紅は「これは何かの縁でしょう、これから何時も行き来して親しい親戚になり、李お嬢様は趙爺さん夫婦の養女になればどうでしょう」と言った。趙老夫婦はこんな優しい人が自分たちの養女なればと喜んだ。小李もまた嬉しくなりすぐ老夫婦の前に伏し養女になったが、その夜は小李と小紅、趙老夫婦と天生は涙の別れをした。 

 それから天生が小李を恋しがると趙爺さんの老妻が天生を連れて李長者を訪ね、小李は天生に会いたくなると、養女という理由をつけて趙家へ足を運んだ。こうしているうちに天生は書塾で学ぶようになり、人より聡明であった。趙爺さんの老夫婦、李長者夫妻は大喜びで天生を可愛がった。天生と小李も親子のように慣れ親しみ二人は一日会わなければ寂しがり、食欲不振や寝不足になるので天生は李長者の屋敷に住むようになった。趙爺さん夫婦は自分たちの孫を小李がわが子のように大事にしてくれるので安心して李長者の屋敷に住まわせたのだった。

 月日の経つのは早く趙天生はすでに十八歳であったが何時も人々から父なし子と笑われていた。ある日、天生は小李に「わたしに父がないのはどうして」と小李に聞いた、小李は嘆きながら「あたしはお前の趙祖父母の養女、ほかの事はあたしも知らないのよ」と答えたが心の中では泣いていた。ある時、小李は誰もいない家の中で悲しくなり、そっと西棟の母屋に行き樟の木箱の前に座ると切々と泣き出した、この様子をそっと見ていた趙天生は小李のあとをつけ西棟の母屋に入り、小李の前に伏すと「お母さん、わたしのお父さんは誰、今何処にいるの」と叫んだ、小李はもう隠しきれず、天生を抱き起こすと「お前は間違いなく趙家の子だよ、そしてあたしはお前の真の母、お前が父を知りたいなら逢わせてあげる」と言った。趙天生は喜び涙を流しながら、趙祖父母と李長者の祖父母を呼びに走った。

 趙天生が趙祖父母を連れて李長者の屋敷に来ると両家の祖父母は親しく挨拶を交わした、そこへ小李が駆け込んで来て趙老夫婦の前にひざまずき「お父さん、お母さん、嫁のあたしを許してください」と泣き崩れた。趙老父母は驚き「これはどういう事ですか」と訊ねると李長者の老妻が趙、李家の息子と娘の十八年前の不思議な縁と不幸な出来事を話し、趙子の子が生まれたあと、小李がずっと結婚しないことなども詳しく話した。趙老夫婦はこれを聞いて悲しんだが、また喜びもして、嫁であった小李を抱き起こした。小李は四人の老父母とわが子の趙天生を西の棟の母屋に案内し、あの樟の木箱を見せ、鎖をはずし、箱の蓋を開けると中から清涼な風が流れて来て、清らかな香りが漂った。趙子は死んでいなかった。趙子はあの時のままの絹の布と扇子の二つの宝を胸にのせていたがゆっくりと目覚め両手を伸ばすと「アアよく眠た、眠た」と言って箱から出て来た。この不可思議な光景を目の当たりにした小李たちは驚き喜んだ。小李は悲しみと喜び、驚きながらこの十八年の出来事を趙子に話した。趙子は夢から覚め、老父母と義父母に礼拝を捧げ、趙子と小李、天生は夫婦親子の絆の対面を果たし、この上もない喜びにくれた。これが“父は十七息子は十八”の物語である。

 語り手 王黄氏 女 八十六歳 主婦

 流伝地区遼寧沈陽一帯

 採録者 王乗新 男 六十四歳 大学卒 沈陽市第五中学教師

中国民間文学集成遼寧巻沈陽市巻中

2007728

注 原文の“趙公子”“李小姐”はそれぞれ“趙子”“小李”とした。