577 鯉の報恩

昔、老母と鉄という息子の二人きりの貧乏な母子がいた。鉄は小さい時から母親から人に親切にするようにと教えられ、老母に孝養を尽くし、成人すると村の地主の作男として働いた。地主は十数人の下男や作男を雇っていて鉄は作男の頭であった。

ある年、大雨が降り続き、畑が池のように水浸しになり、鉄は畑の水を河に流していると、水の中に花のようにヒラヒラ泳ぐ大きな鯉がいる、捕まえて家へ持ち帰り老母に夕飯に料理して貰うことにしてまた畑へ戻った。老母はさっそく料理しようと鯉をまな板の上にのせると鯉はポタポタと涙を流した、老母は可哀相になり鯉を河に放し、鉄が帰ると、老母は鯉が目から涙を流しているのを見て河に逃がしたことを話した。鉄もおっかさんそれはよいことをしたと言った。

翌日、鯉は老母と鉄の恩に報いるために紅い服に緑の帯をしめた美しい娘の姿になって老母を訪ねて来た。老母が戸を開けると娘が「お母さん」と呼びかけたので老母は驚き「わたしを“お母さん”呼ぶあなたはどちら様の娘さんですか」と聞くと、娘は「あたしは鉄さんの嫁で、あなたはあたしのお母さんです」と答えた。老母はまたびっくり「娘さん、わたしの家は貧乏であなたのような大家の娘さんと結婚できるわけありません」と言った。しばらくして鉄が帰って来ると娘は鉄を「あなた」と呼びかけた、鉄は突然綺麗な娘から夫を呼ぶように「あなた」と呼びかけられ何のことか分からず、驚きと恥ずかしさで顔から頭まで真っ赤になってしまった。娘(実は鯉の精)は笑いながら「鉄さん、お母さん驚かないで下さい、あたしは数日前にお母さんに河に放された鯉で、命を助けられたご恩を返しにきたのです」と言った。こうして鯉の精は鉄の妻になった。その晩、新妻は夜中に起きると、簪で四棟の家のある絵を描き、それを法術の息で吹くと絵は本物の四棟の家になり、庭では鶏、鴨、アヒル、犬が鳴き叫んだ。

翌日になって、地主は鉄が何処にも働きに来てないのに気づき、下男を探しにやると下男は鉄が住む小さな小屋が地主の屋敷よりも大きく立派になっていると知らせた。それを聞くと地主は一夜のうちに鉄の住む小屋が自分の屋敷より大きくなるわけないと、不思議に思いすぐ鉄の家を見に行った。鉄は地主が自分からヒョコヒョコやって来るのを見ると、酒や料理を用意してもてなし、鉄の新妻は忙しく立ち働いた。地主は天女のような鉄の新妻を見て酒を飲みながら、わしの二人の女房は鉄の新妻の半分にも及ばないとずるいことを考え、酒を飲み終わると地主は鉄に自分の二人の女房と鉄の新妻とを取り替えようと言った、もちろん鉄はそんなことできないと答え、言い争っていると、鯉の精の新妻が「屋敷も一緒に取り替えるならいいわよ」と言った。地主はそれを聞くとそれならもっといいと、家屋敷と女房を全部取り替えることに同意した。先ず何人かの保証人を立て誓約書を書き、鉄と老母は地主の屋敷へ移り、地主は鉄の四棟の屋敷へ引越した。地主の二人の女房と屋敷は鉄のものになった。

夜中になると鯉の精の新妻は鋭い声で「収」と叫び簪を振ると鉄の四棟の屋敷はなくなり、元の小さな小屋になり、鯉の精は河に帰ってしまった。夜が明けて地主は鉄の屋敷は元の小屋になっていることが分かり声を上げて泣いたがどうにもならなかった。こうして鉄と老母はそれから幸せに暮らしたということである。

語り手 肖娘 女 七十三歳 于洪区解放郷十里河村農民

流伝地区 沈陽西部

採録者 郭明貴 于洪区解放郷文化站長

                       中国民間文学集成遼寧巻沈陽市巻中

                               

注 原題は“鉄叶与金叶”であるが鉄叶は“鉄”とし、金叶は名を記さず地主とした。