575 夫の知恵と妻

 むかし、ある村に一言半句も人の悪口を言ったことのない柔和な優しい農夫がいた。それで村人はこの農夫を“好好夫”と呼んでいた。だが妻は反対に悪賢く意地悪で親不孝であった。姑に力仕事をさせ、きつい言葉で罵り、美味しい物も食べさせず、何時もプリプリして顔つきも憎憎しい。村人はこうした妻を噂してはみんな怒っていた。

 柔和な夫はこの妻の性質をよく知っていたが、自分から意見し叩いたり罵ったりもできず、村人の噂を恥じてどうしたらいいかと昼も夜も悩んでいた。そうして最後にある方法を思いついた。

 ある日、好好夫は妻に「米の餅が食べたいけど作ってくれるかい」と聞いた、好好夫は日頃から妻に優しくしていたから、夫が米の餅を食べたいと聞くと妻は機嫌よく「お米があるからできるわよ」と答えた。好好夫はわざと嬉しそうに粉挽き小屋へ米の粉を挽きに行った。

 その日の夕飯、妻がいい匂いの炊きたての米の餅を食卓に出したのに、好好夫は一口も食べようとしない。妻は不思議に思って「あんた米の餅が食べたかったんじゃない、作ってあげたのにどうして食べないの」と聞いた、すると好好夫は「実は俺が米を挽いていると米の上に蝿が沢山たかって、追っても追っても逃げずちょっとの間に挽き臼の中にはいちまったんだ、それを思うと吐きそうになってどうしても食べられないんだ」「マアずるい人、あたしだって食べられないわよ」と妻は持っていた米の餅を放り出した。すると好好夫は「こんなに沢山の米の餅を食べずに捨てるなんてもったいない、お前おっかさんに持って行ってくれ、おっかさんも蝿が入っていると知れば食べないから、そのことは黙って美味しいからと丁寧に言うといい」と言った。妻もそう思って米の餅を姑の部屋へ優しそうな顔をして持って行った。実は米を挽く時、蝿なぞいなかったのだ、好好夫は妻が優しい顔で母親の部屋へ米の餅を持って行くように仕向けた計画だったのである。

 それから数日して好好夫は市場から帰ると妻を呼んでおもむろに「市場へ行ったら役所の高官の家の手伝い老婦を募集していた、募集というが本当は高い金で買うらしい、俺はおっかさんをやろうと思うがお前どう思う」と聞いた。それを聞くと妻は大喜びして「もちろんいいわよ、姑さんも高官の家の手伝いさんになれば幸せだし、あたしたちにも高いお金が入るから一挙両得だわ」と言った。好好夫は心の中で怒ったが、顔と声には出さず「でもおっかさんは痩せて貧弱だ、高官は太った健康な手伝いを求めているから、まずおっかさんに一二ヶ月よく食べさして太らせてからにしよう、金はかかるが後で高い金がはいるから採算はとれる、お前どう思う」と言うと妻はちょっと考え、夫の言い分には理があると喜んで承知した。好好夫は更に言葉をついで「人が太るためには心が豊かでなくてはならないから、お前これからおっかさんに優しくしてくれ」と言った。妻は翌日から姑に美味しい物や飲み物を出し、力仕事もさせず言葉も優しくし、なんとか早く姑を太らせようとした。

 好好夫の母親はそんなことは知らず、ただ息子の嫁がだんだん優しくなるのを喜び、嫁の用事を手伝い、用事がなければ孫の女の子の面倒をみたりして、会う人ごとに息子の嫁がどんなに優しくなったかを話して嫁を褒めた。それで村人の好好夫の妻の印象はよく変っていった。好好夫の妻は村人が自分ことを褒めているのを聞いて、家で姑と楽しく話したり笑ったりして、前よりよく姑に仕え孫の女の子もお祖母ちゃんになついた。そのうちに妊娠していた妻は月満ちてまるまる太った男の子を生んだ。好好夫の母親はますます嬉しくなり、息子の嫁の産前産後の面倒に心をこめた。好好夫の妻は姑が実家の母と同じようにしてくれることを喜んだ。

 好好夫は母親と妻がまるで実の母女のように仲良くなったのをみて機が熟したと思い、ある日、市場から帰ると難しそうな顔を妻にむけ「役所の高官がまた老婦の募集している、今晩あのことをおっかさんに話そう」と言った。すると妻はハラハラと涙をながし「そんなことできない、あたしたちはお姑さんなしにいられない、僅かばかりのお金のためにお姑さんを売るなんて人の徳に欠けることだわ」と言った。好好夫は妻の言葉は心の中からでた本当の言葉だとわかり、妻の心が変ったことを信じ何も言わず、わざと難しそうな顔をして同意し妻の言葉に従った。

 それから好好夫の妻は賢く優しい妻となり、家族みんな睦まじく幸福に楽しく暮らし好好夫の母親は九十九歳まで長生きした。

 語り手 金尚浩 男 朝鮮族 六十四歳 蘇家屯大淑堡郷新興屯村の人

 流伝地区 東北朝鮮族居住地区、特に沈陽一帯

 採録者 蘇文 蘇家屯区文化館創作員

                中国民間文学集成遼寧巻沈陽市巻中