馬鹿な亭主  

 ある金持ちの長者に一人っ子の男の子がいました。この子は生まれてからずっと、食べるって言えば口を開けるだけ、着るって言えば手を伸ばすだけの暮らしをしていました。長者はこの子が人より優れた人間になることを望んでいましたが、この子はただ大きくなるだけで、喰ちゃあ寝、喰ちゃあ寝という馬鹿の中の馬鹿でした。けれども長者は金持ちだったのでこの馬鹿息子も結婚して女房を迎えることができました。

 ある日、この馬鹿な亭主に女房が「明日はあたしのお父さんの誕生日で、あたしは先に行って手伝いをするからから、お前さんは明日あたしの実家にきておくれ」と言いました。
 「うん」 「馬づらを洗ってくるんだよ」 「うん、俺は何を着て行けばいい」 「着物は箪笥の中のすべすべのを着ておいで」 「わかった、行っていいよ」
 「まだ行けないよ、あたしはまだお前さんに言っておくことがあるんだから。実家に行ってみんなが『子供は元気かね』って聞いたらお前さんは『はい、祖先の徳のおかげです』って言うんだよ」 「うん」 「ほかの人が『お年寄りはいかがですか』って尋ねたら『はい、お粥、軟らかい御飯をさしあげています』って言うんだよ」 「うん」 「人が『家畜は丈夫ですか』って聞いたらお前さんは『干し草をやっております』って言うんだよ、『あなたの家はよくできましたか』って聞かれたら『みなさんが手伝ってくれましたっから』って言うんだよ」 「うん、わかったよ」女房は馬鹿な亭主に何度も何度も教え、何度も何度も言わせて覚えさせました。
 馬鹿な亭主が「俺はもうみんな覚えたから、もう行ってもいいよ」と言いましたので女房はやっとでかけました。

 翌日、馬鹿な亭主は朝早くから、熱いお湯を沸かし、小屋からロバをだして熱いお湯でロバの顔を洗ってやりました、ロバは洗われる度に跳びはねました。それから馬鹿な亭主は家に入って、箪笥から着物をだして手でなでてみましたがすべりません、ほかの着物をだしてなでてみましたが、やはりすべりません。「すべる着物を着て来いと言ったけれどどれがすべる着物なんだろう」と考えながら、自分の体をさっすてみますと、とてもすべすべしています「これだ、これで行こう」と着ている物をみんな脱いで、ふんどしだけになり、ロバを小屋につないでからでかけました。

 馬鹿な亭主が女房の実家について、庭に入って行きました、女房が亭主を見ますと亭主の顔はまるで竈にもぐりこんだように真っ黒、それに何にも着ていません。慌てて庭にあった大きな味噌の袋に馬鹿な亭主をいれて「あたしが行く時にあんたの馬づらを洗って来なさいって言ったのにどうして洗って来ないの」 「洗ったよ、洗ったよ、俺は朝早くから鍋に湯を沸かして、俺んちのロバの顔を洗ったよ、嘘だと思うなら見に行ってごらん」 「ああ、あ、誰がロバの顔を洗えと言ったのよ、わたしゃあ、お前さんの顔をよく洗っておいでと言ったのよ」 「お前、ロバの顔を洗えって言ったのじゃあないのかい」 「あったりまえよ、あんたはもうどしょうもないわ、あたしはすべすべの着物を着なさいって言ったのに、まる裸で来るなんてどういうつもりなの」 「お前は俺にすべすべの着物を着ろと言っただろう、見てごらん、この俺の肉の皮とてもすべすべだよ」 「お前さんたら…… あたしはあんたにあの絹の着物を着なさいって言ったのよ。早く行ってあたしの弟の着物を着なさい」馬鹿な亭主は着物を着て顔を洗い、家の中に入り女房の父親に挨拶をしました。

 部屋の中にいたお客が馬鹿な亭主に尋ねました「お宅のお年寄りはお変わりありませんか」 「はい、干し草をやっております」お客はハハハと大笑いしました。「お宅のお子さんは元気ですか」 「はい、みんな手伝ってくれましたから」お客はハハハとまた大笑いしました。「お宅の家畜は丈夫ですか」 「はい、お粥、やわらかい御飯をさしあげております」 「お宅はよくできましたか」 「はい、祖先の徳のおかげです」  部屋の中のお客は笑いましたが、女房は怒るにも怒れませんでした。来る時に亭主が話せないといけないからと、よくよく教え、何遍も覚えさせたのに、馬鹿な亭主の答え方が目茶苦茶になるとは思いもつかなかったのです。

 女房は馬鹿な亭主が作法がわからず、またみんなに笑われるといけないと思ってまた亭主に教えました。「暫くして、御飯を食べる時になったら、お前さん料理をつづけて食べるんじゃあないよ、みんなに笑われるからね。わたしが外でドラをたたいたら、ひと口料理を食べ、たたかなかったら食べるんじゃあないよ、わかったわね」と女房が言うと馬鹿な亭主は太い声で正直そうに「わかった」と言いました。

 女房の父親の誕生日を祝う挨拶がすむと、暫くして料理が並べられ、大勢の親戚や友人が、どうぞあなたが先に、いいえ、あなたが先にと互いに譲り合いながら入ってきて席につき、馬鹿な亭主も席をみつけて座りました。料理を食べる時、女房が外でドラをたたくと馬鹿な亭主はすぐ料理をひと口とって食べました。この時、また外にお客が来ました、女房が急いでお客を案内する間に、そばにいた子供があきてしまって、ドラをみつけると、タン、タン、タン、と力一杯たたきはじめました、馬鹿な亭主はそれにつれて食卓の料理をパカパカ食べて、口の中に料理が一杯つまり、体ぢゆうに大汗をかいてしまいました。

 女房が戻って来て、これを見るや慌ててドラをとりあげました。こうして女房はまた嫌になってしまいました。  食事が終わると夜になってしまいましたので、女房は馬鹿な亭主に「今夜は帰らないで、実家に泊まるから、夜中におしっこがしたくなったら、あたしに声をかけるんだよ」と言いました。真夜中になって馬鹿な亭主が「おしっこしたい」と言いました、「戸を開けてして」馬鹿な亭主はそれを聞くと、戸を開けてするのかと、戸棚の戸を開けて小便をしてまた寝ました。翌日、女房が朝起きて、着物をとろうと戸棚を開けてみますと、中の物がみんな濡れていました。女房はびっくりして、慌てて「早く帰ろう、もうみっともないことしないで」と言いました。   

       姜淑珍故事選                               1993・2・9

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