567 借花献仏

 むかし、昔の大昔、天上の救世仏は九百年も穏やかに天下を治めていたが疲れてきたので、天下を三人の息子に任せることにした。救世仏は三人の息子をよび寄せ、「わしはもう一日一日老いていくばかりだ、わしに替わってお前たち一人ずつ六十年毎に天下を治めてもらいたいがどうだ」と言った。もちろん三人の息子は承知して、その先を争った。

すると、救世仏は「わしに考えがあるから喧嘩はするな。ここに同じように育った鉢植えの木がある、この植木をそれぞれ持ち帰り、最初に花を咲かせた者が初めの六十年を治めるのだ」と言った。三人の息子はそれに同意して争いを止めた。

 俗に“同じ生母の九人の子でも、みな性格が違うものだ”と言うが本当だ。救世仏のこの三人の息子も、生母は同じだが三人は全く性格が違う。長男は怠け者で木を育てるのは嫌いで、植木鉢を持ち帰った二三日は木に水をやったが何日もしないうちに面倒がって構わなくなった。しかし次男は利巧で働き者、植木鉢を持ち帰ると毎日、植木を日向に出し水を欠かさず大切に育てたので、しばらくして鉢植えの木は枝が伸び緑の葉が茂った。

さて三男は年はまだ十五六だが働き者で鉢植えの木を次男と同じように大切に育てた。

 やがて、十二支甲子の年が来ると先ず初めに次男の植木に美しく香りのよい花が咲いた。次男は喜んで花の咲いた植木鉢を父の救世仏のところへ持って行った。救世仏はこの花を見ると非常に喜び、「お前は本当に真面目な息子だ、初めの六十年の天下はお前に任せる、わしもこれでひと安心だ、今日からお前は天下の生きとし生きるものを治めよ」と言い、救世仏は次男に金印を授けた。それから六十年は次男が普く天下を治め、自然は順調で災害もなく天下泰平で人民はみな喜んだ。

 たちまち六十年は過ぎ瞬く間に次の甲子の年になる時、こんどは三男の鉢植えの木に蕾がついた。これを見た長男は驚き、心の中で“俺の植木鉢の木は干からびて葉っぱも出ていない、これじゃあ次の十二支六十年は末弟が治めることになり、俺はまた六十年待たなければならない、どうしよう”と想いをめぐらし、ある考えを思いついた。

 翌日、長男は三男の家へ行くと弟は本を読んでいた。長兄はにこにこしながら弟のそばに寄り「弟よ、兄さんはお前に借りたい物があるんだが貸してくれるかい」と言った。弟の三男は何も考えずに「兄さんがいる物なら何でも貸すよ」と答えると、長兄は「じゃあ遠慮なく言うよ、実は外でもないがお前の植木鉢の花を借りたいんだ、お前も知っているとうり俺はせっかちだし年もお前よりうえだから次の十二支六十年の天下を早く治めたいのだ。お前はまだ年が若い、次の次の十二支六十年を待って治めるのが丁度いいだろう」と言って三男の弟の返事も聞かず植木鉢の花を抱えて行ってしまった。

 長男は喜んで蕾のついた植木鉢を自分の家に持ち帰ると、数日して花が開いたので、嬉しくなって早速、父の救世仏に捧げ「父上、わたくしの植木鉢に花が咲きました、どうぞわたくしを下界へ遣わして天下を治めさせてください」と言った。救世仏は植木鉢をちらりと見ると「これはお前の植木鉢ではない、三男のものだ、わしはお前たちに授けた植木鉢にちゃんと印しをつけておいたのだ。年下の弟を騙し“借花献仏”するとは何事だ。お前のような心の曲がった者にどうして天下が治められるか」と叱った。それでも長男は救世仏に「父上は私には天下を治められないとおっしゃいますが、それは分かりませんよ。もしかすると上の弟より私の方がよく天下を治めるかも知れません。信用できないなら試しに私に何年か天下を治めさせ、もし悪ければ私を呼び返してください」と言った。救世仏は長男がそこまで言うなら任せてみようと何度も長男に「天下の邪悪を正し、貪欲、色欲を戒め、世間の大事を誤るな。分からないことがあれば次男に聞け」と諭した。長男は面倒くさそうに「分かった、分かった」と言うとさっさと下界へ下った。

 だが、救世仏が予想したとおり、長男が天下を治め始めると天下に悪事が蔓延し、長男は毎日毎日酒に溺れ、天下の事はほったからしにした。こうして長男が天下を治めていた十数年の間、世間には毎年のように災害が起こり、盗賊が各地にはびこり人々は困り果て救世仏に線香と祈祷文を捧げ、長男による天下の乱れを告げた。

 これを知った救世仏は激怒して直ちに天兵を下界に下し、長男を捕らえ天界に連れ戻して天界の牢に閉じ込め、永遠に下界へ下ることを許さなかった。後に人々は初めから救世仏が長男の“借花献仏”を許さなければ天下は乱れることはなかったのだと言った。

中国民間文学集成遼寧巻沈陽市巻(中) 

註・借花献仏 他人が供える花で自分の願いを仏に祈る。他人の物で義理を果たす。

       他人の念仏で極楽へ行く。