564 寡婦の妊娠
地主の周に周環旦という一人息子がいた。これがワル(悪者)で村人はこの息子を暗に周壊蛋(腐った卵)と呼んでいた。誰かの家にいい娘、いい女房がいると無理やりに押しかけ、乱暴狼藉を働くのであった。
やがて土地改革が起こり、人々はワルの周壊蛋を掴まえようとした。そこで父親はオンドルに穴を掘りそこに一人息子を隠しその上に茣蓙を敷いて隠した。だが壊蛋はこの中に隠れているのが我慢出来ず、麻の蓑を紅色と緑色で染めて身につけ、鬼や妖怪の格好になって夜になると、あちこちの家の門を叩き恐ろしい声で村人を脅かしていた。
村人は「周の爺さんは息子は死んだと言っているが、籠を持った息子の女房はお腹が大きいみたいだ」「何言ってんだ、寡婦のお腹が大きくなるか」「あれは周の爺さんが手をだしたのだ」「あの壊蛋は鬼や妖怪の格好をしているらしい」などといろいろな噂をしていた。やがて村人はみんな周家の寡婦が妊娠していることを知った。
ある晩、また鬼が出たというので、もとは豚飼いで兵士になり除隊して村へ帰り村の民兵の連隊長になっていた男が「俺がどんな鬼か見てやる」と銃を持って出かけ、鬼が村の古い廟からユラユラと出て来ると“パン”と一発、銃を打った。慌てて逃げて行く鬼を男が追いかけて行くと、鬼は地主の周家に入った。
鬼の格好をした壊蛋は女房がオンドルの口を開けるとそこに潜り込んだ。男が追いかけて来て「鬼が入ったが見なかったか」と聞くと女房は「鬼なんぞ見なかったわ」と言ってオンドルの床に座って動かない、男が「下りろ、下りろ」と言うと地主の周爺さんが来て「駄目だ、嫁は妊娠しているのだ」「嫁さんは寡婦じゃないか、寡婦がどうして妊娠するのだ、下りろ」
下りろと言えば言うほど壊蛋の女房は下りない。オンドルの上には板の蓋がしてあり、その上にはいろんな物が散らかっている、男はそれを片付け女房をどかし、オンドルの上の板を上げ、「出て来い、出て来なければ打つぞ」と言った。するとあの蓑をかぶって鬼の格好をしたままの壊蛋が出た来た、蓑を脱ぐ暇もなかったのだ。
それで壊蛋が生きているのが分かり、村は集会を開き、村人に寡婦が妊娠したわけを明らかにした。
<付記> 語り手はこの話は本当にあった事だと言った。 (撫順市巻下)