560 火葬場の出来事
この出来事があったのは沈陽だ、鞍山だ、遼陽だ、と言われているがはっきりしない。つまるところこの三つの場所でそれぞれあった出来事なのであろう。
親不孝な若い夫婦がいた。亭主は結婚後、女房に「実家にお袋がいるから実家に引っ越す」と言った。すると女房は「結婚する前あんたは母親はいないと言っていたのに」と責めた、亭主は「お袋は病気で、俺は早く死ねばいいと思ってるんだがなかなか死なないからしょうがない。だから病気を治して何か俺たちの手伝いをさせる」と言った。それを聞くと女房は「あんた本当におっかさんがいるの、どうだって構わないけど結婚したんだから一度見に行くわ」と夫婦は少しばかりの手土産を持って亭主の母親に会いに行った。
実家に着くと老母は床の上に寝ていた。骨は痩せ枯れ枝ようでやっと生きている様子、部屋の中は嫌な臭いが充満している、女房は鼻をハンカチでしっかりふさぎ、嫌な臭いが鼻の中に入らないようにした。亭主も息を吐き出しながら「おっかさんどう?」と聞くと老母は息をハアハアさせ「アイヤー、息子かい、わしはもう駄目だ、もう何日も生きていられない」と言った。これを聞くと夫婦は心の中で“これはいい、これで面倒が一つ減る、死んだら幾らか金を払って火葬場へ運べばそれで終わりだ”と喜び、しばらくして帰った。
それからも亭主は何もしてやらないが老母が気にはなっていた、実の肉親の母が気にならない子が何処にあろうか?だが女房は駄目、そばで亭主に余計なことをたきつける「お前さんはもうおっかさんに孝行したんだから、死にそうなっているおっかさんの病気は治してやらなくてもいい、死にゃあ終わりなんだから何も薬なんかいらないよ」「でも俺を育ててくれたんだ、何もしなければ他人にだって笑われる、生きてる何日だけはみてやろう、どうだい?」と話し合った。
何日かして、ますます老母の病気は重くなり危篤だと、近所の人が手紙を寄越したので、亭主は仕方なく老母の所ヘ行ったが女房は夜になってからやっと来た。亭主はそばに寄って老母を見ながら心の中で“おっかさん、早く死んでくれ!死にゃあ火葬場へ運んで俺たちの仕事は終わるんだ”と言っていた。だが老母は息をしたり、しなかったりを繰り返しながら生きながらえている。女房はやきもきして、「お前さん、車を借りて来ておっかさんを連れて行きなさいよ」と言った。そこで車を借りて来て、車に布団を敷き老母を乗せると車を押して行った。
亭主は老母を乗せた車を押して行きながら「おっかさん、どうだい?」と言うと老母は「アイ、外の空気はいいよ」と答えた。「もう少しで病院へ着くから、おっかさん声を出さないで、一言でも喋ってはいけないよ」女房は亭主に「おっかさんに喋らしては駄目、火葬場に着いたら、あたしたちは一番に母が死んだと言って、火葬場の中へ運び、焼いたら終わり、それで面倒がなくなるんだから」と告げた。亭主は心が痛んだが女房が怖くて女房の言う通りにしないわけにはいかず「おっかさん、喋ちゃ駄目だよ、何を聞かれても声を出さず、目をつぶって息をつめていないと医者は病気を診てくれないよ。こんなに年とっている病人を医者は治したがらないんだ」と言った、老母は驚いて「うん、そうする、お前、そこへ着いたら一声咳払いしておくれ、それでそうするから」と老母は答えた。亭主は火葬場へ車を押して行った。
火葬場へ着くと女房は駆け出して中に入り、すぐ焼き場に登録した、番号は五番目だった。一人一人担いで中に入る。三番目の人が担いで行かれると、家族が「オンオン」泣きながら出て来た。老母はそれを聞くと、そっと息子に「どうして病院へ来て泣く人がいるんだい?」と聞いた、亭主は身をこごめ唇を近づけ人に聞かれないように「声を出さないで。泣いているのは重病だからだ、声を出さないで」と言った。四番目が終わって五番目になった。火葬場の係りが車を押して入った。係りが掛けた布団を開くと老婆が大きな目を開けている、「アレ!このお婆さん死んでいない!」と声を上げた。老母は「あんたたち、あたしの病気を診てくれるんじゃないの?どうしたの?」「 いいえ、ここは火葬場です」「あたしは病院へ来たのにどうして火葬場へ運ばれたの?」
その時、亭主と女房は叫びながらそこへ走って行った。「どういうわけだ?」亭主は泣きながら老母を抱き、今までの事情を話した。「ア!おっかさんは生きていたのに、あんたたちは火葬場へ運んで来たんだ!分かった。あんたたちは公安局へ行け!」
これは火葬場であった話である。 (撫順市巻下)