558 八十二歳で腰

 父親と息子が畑の畝を耕していた。耕しているうちに息子が「父っつあん、俺、腰が痛くなった」と言った。すると父親は「若造のくせに、腰だと?そこは体の上下を繋ぐ間(アイダ)と言うんだ、八十二歳になってやっと腰と言うんだ!」と言った。息子は言葉を返せず、黙って父親と一緒にまた畑の畝を耕した。

 畑の端までひと畝耕すと、そこから引き返してまたひと畝、端まで耕す、その繰り返しである。父親はしばらくして草履が邪魔になり、ひと畝、畑の端まで耕すと草履を脱ぎ、畝と畝の間に置いて、はだしになりまた耕し続けた。息子はそれを見て、“うちの畑の畝は長い、こんな所に草履を置けば誰かに持って行かれ、父っつあんははだしで帰らなければならなくなる”と思い、黙って父親の草履を腰と帯の間に挟んだ。

 畑を耕し終わって、父親はさっき草履を置いた畑の端まで行って見たが、アレ?ない。「おい、わしの草履を知らないか」と息子に聞くと「アイダにあるよ」と言うので父親はまた畑の端まで走って行き、畝と畝の間を見たがやっぱりない、「ないな、わしが草履を脱いだのはどの畝の間だったかな?」とまた戻って息子に「おい、お前、何処へ持って行ったんだ?」と聞くと息子は「アイダだよ」と言うので、父親はまた畑の端まで走って、畝の間を見たがない、父親は不思議に思ってまたこっちに戻って見たがやっぱりない、父親は何度もあっちへ行ったりこっちへ来りして捜したがない。

 見ていた息子はプッと吹き出した。「お前、何を笑うんだ、わしが大汗をかいてあちこち走り回り、足が棒になっているのに、笑うとは何だ!」「だからアイダにあると言ったじゃないか?」「何処の畝の間だ?」すると息子は自分の腰を指した、なんと草履は息子の腰に挟んであるではないか!父親は怒って「こいつ!わしをからかっているのか?お前何故腰に挟んであると言わないんだ、わしを何度も行ったり来りさせやがって!」と怒鳴った、息子はすまして「だって父っつあんはここはアイダで八十二歳になってやっと腰になるんだと言ったじゃないか、俺のはまだ腰になっていないんだ」と答えたとさ。                                     (撫順市巻下)