554 霍のぼんぼん
昔、沈陽の西に一日中飲んだり食べたりして遊び呆ける霍という大金持ちがいた。一番好きなのが美味い物を食べることで霍は毎日山海の珍味を食べて暮らし、不味い物を嫌い、料理はひと箸ふた箸食べるだけ、餃子はひと口食べると捨て、捨てた物を誰にも食べさせなかった、見栄を張っていたのである。こうして世間知らずな霍を人はみんな“霍のぼんぼん”と呼んでいた。
世間知らずの霍が食べる料理を作るのは周老寛という板前で、霍の祖父の時からの使用人であった。霍の祖父はいい人で誠実な周老寛にいろいろな家事も任せていた。やがて世間知らずの霍が家を継いでからも周老寛はずっと霍家に仕え、年老いても霍家の板前を続けていた。周老寛は先代からの霍家の恩義を忘れず、何時も霍のぼんぼんが霍家を潰しやしないかと心配していた。周老寛は霍のぼんぼんが残した料理やご飯をみんな豚の餌にしてしまうのを惜しみ、家へ持ち帰って食べ、食べられない分は屋根の上に干し保存食にしていた。
ある年、遼河が氾濫して多くの県が水に浸かり、霍家の伯母の家も水に浸かったので、水が引いてから霍のぼんぼんは様子を見に行くことにした。周老寛はこれは霍のぼんぼんを諌めるよい機会だと思い、霍のぼんぼんを馬に乗せ、自分も保存食を袋半分に詰め、小さな驢馬に乗って行った。人は家を背負い鍋を持って旅はできない。だが旅人も昼は食べ、夜は宿を探さなければならない、霍のぼんぼんは何時ものように美味しい物を食べたいのだが何処も洪水が引いたばかりで、みんな水に流され何処にも美味しい物を食べられる所はない。霍のぼんぼんは腹が空いて我慢できず粗茶と味のない物を仕方なく食べた。
やっと伯母の家に着いて霍のぼんぼんは伯母の家は金持ちだから今度は美味しい物が食べられると思っていた。だが誰もが洪水に遭ったのだから誰も美味しい物なぞ食べられない、鍋釜もないのだ、霍のぼんぼんは大金を持って来たが品物がないから金は役に立たず疲れ果てて体を壊してしまった。周老寛はこの時とばかり持って来た袋の保存食を湯に入れごった煮を作って出すと、霍のぼんぼんはとても美味しいと食べ、周老寛に「何処からこの料理を持って来たのだ?」と聞いた。そこで周老寛は今までのことを話してやり、これからは倹約して暮らすようにと諌めた。それを聞くと霍のぼんぼんは周老寛が霍家の面目を汚したと罵り、周老寛を殴った。
それから十年が過ぎ、霍のぼんぼんは先祖から受け継いだ財産を無くし、美味しい物どころか食べるにも事欠くようになり、やっと周老寛を思い出したが時すでに遅く周老寛は世を去り、霍のぼんぼんはあのごった煮も食べることなく飢え死にした。 (薛天智故事選)