550 犬のしっぽの話
宏橋郷に凋(diao)という新しい郷長が赴任した。彼は何時も仕事に大鉈を振るい、問題の解決には快刀乱麻であった。それに何時も刀で斬るようにキッパリとした話し方をするので人々は凋(diao)を刀(dao)と読み替えて、彼を刀郷長と呼んだ。
刀郷長は三十を越えた血気盛んな男であったが不慣れな新しい任地宏橋郷で大事なのは着任第一番の仕事にあると思っていた。それは京劇で主演の役者が舞台で大見得をきるのと同じで着任第一番の仕事を上手くこなせば郷の信望を集め、先々の自分の威信や前途に繋がると心得ていた。さて、着任第一番の仕事は何であったか。
彼が第一の仕事が何であるかと心配している矢先に、都合よく赤い印のついた一つの重要案件の文書が上級機関から送られて来た。彼はそれを受け取るとすぐにそれが“犬”に関する事だと分ると直ちに犬の調査を決め、自転車で先ず大樹村へ行った。ここは小川に橋がかかり、緑の萌える風光明媚な小さな村である。 刀郷長は村の大きな家の門の脇に自転車を置いて門をくぐると突然“ワンワンワン”と一匹の赤犬が彼の前に飛び出た。刀郷長は“オー、お前たちの様子を見に来たらお前のほうから来たか”と塀に立て掛けてあった柴刈り鎌を振り上げ「お前また吠えたらこれだぞ」と言った。ところが犬は鎌を見ても少しも恐れず却って歯を剥き出し、刀郷長に向かって来た。刀郷長は少し怒り「お前なんぞ怖くない、お前この鎌の切れ味を知らないのか」と一歩前に出て犬の首を掴もうとすると、犬は急に頭を下げ刀郷長の足に噛みついた、刀郷長は「アイヨー」と叫び犬の尻に鎌を振り下ろすと、犬のしっぽが切れて落ちた。赤犬は“キャンキャン”と鳴いて奥へ逃げた。刀郷長はズボンの裾を上げ足を見ると「ゲエ!」犬の歯のあとが深くついて血が滲んでいる。刀郷長は慌てて自転車に跨り病院へ走った。
刀郷長は病院から役所に戻り、あの重要案件の書類を取り出してもう一度よく読み直し、「ヨーシ」と机を叩きペンをとって、村名・戸数・人口・人を噛んだ犬の数・犬に噛まれた人の数と回数を調査する『飼犬状況調査表』を作り、この文書を配布して三日以内に正確な数を把握しようと、すぐ調査表を印刷配布しそれが集まると三日のうちに集計して『飼犬状況調査表』を完成させた。そして明日午前八時に村長緊急会議を召集すると通知した。郷の村長たちは新しく赴任した刀郷長の仕事振りを噂に聞いていたから、八時十五分前には十ヶ村の村長は全員集合した。
刀郷長は開会を告げると「今日の村長会議の主要案件は犬の問題である、調査の集計によれば全郷人口一万七千人、飼犬の数は一千百三十六匹、平均十五人に犬一匹がいる勘定である。こんなに多く犬がいては農村の『四化』(機械化・電気化・水利化・化学肥料化が1945年に提唱された)の推進に邪魔だ。犬の餌は食料の浪費、大小便は環境汚染、至る処で犬が“ワンワン”吠えて騒音を撒き散らし、追い払えば畑を荒らし、家で叩けば瓶を落として割る、それに犬は人を噛み人の心身健康を害する。特に犬の伝染病を指摘しなければならない」と言ってあの赤い印のついた重要案件の書類を振り上げ「これは上級機関から発せられた案件である、我々は直ちに狂犬病の撲滅に行動を起こさなければならない。」
「狂犬病とは何か?これは非常に恐ろしい急性伝染病で、犬がこの病気に罹ると狂犬になり人を見ると噛みつく、狂犬に噛みつかれた人は誰でも犬と同じように人に噛みつくようになる。私は何日か前、大樹村へ行って犬に噛まれた、幸いこの犬は狂犬病でなかったからよかったがもしこの犬が狂犬病であったら、私は狂犬になっていたかも知れない。もし私が狂犬病になっていたら今日あなたたちに噛みついてあなたちも狂犬病になり、あなたたちが家へ帰りまた人を噛み……、これは笑い事ではない、これから先ないとは言えない事だ!我ら共産党幹部は民衆の心身健康に気をつけるべきであり、上級機関の指示は固く実行しなければならない。直ちに行動を起こし、犬を全て殺害し、宏橋郷を全県第一の犬なし郷の先進的手本とならなければならない」と刀郷長は拳を振り上げ、会議を終了させた。
村長たちはこの刀郷長の話を聞いて唖然とし、一人一人が互いに見合い誰も何も言わなかった。するとこの時、杖をつき手に紙包みを持った白髪の老婆が入って来て、いきなり「誰が刀郷長ですか」と聞いた。刀郷長が「私ですが何か用ですか」と答えると、老婆は刀郷長に向かって紙包みを開いて犬のしっぽを出し「あんたが郷長かい、どうしてあたしがいない時にうちの犬のしっぽを切ったのかね。『四人組』(文化大革命時代の江青、張春橋、姚文元、王洪文のグループを指す)のしっぽを切ったら今度は犬のしっぽを切りに来たのかい!聞くけどね、うちの犬が何をしたと言うんだい?」と言った。刀郷長はやっと老婆の言うことが分かり、心の中で我々が犬の問題を討議している時にこの婆さん何を文句つけに来たのかと癪にさわったが怒りを顔に出さず「この犬は私に噛みついたのですよ、それでも何もしないと言うんですか」と言った。「出鱈目を言わないで、あたしはこの犬を十年も飼っているけど人を噛んだことなぞないよ、嘘だと言うならわしらの村へ来て調べておくれ。誰だってあたしの犬は人を見ればしっぽを振るんだから。あたしが呼べばこの犬は喜んであたしに駆けよってしっぽを振るんだから!それをあんたはこの犬のしっぽを切ったんだ、これからうちの犬はしっぽが振れない、どうしてくれるんだい?あんたが郷長だろうがなかろうがあたしは怖くない、あたしの犬のしっぽを弁償しておくれ」と言いながら老婆は泣き出した。
これで刀郷長の心はめらめらっと火のようになり、“お前の犬のしっぽを弁償しろだって、俺はお前の犬を殺してやるんだ”と心の中で言いながら手を振って「婆さん、帰ってくれ、我々は会議をしてるんだ、明日あんたの村の村長に話すから」と言った。何人かの村長が笑ったり喋ったり始めると、やっと老婆は帰った。 だが、この老婆の騒ぎで却って会議が盛り上がり、大樹村の村長の金阿祥が「刀郷長、良いか悪いか私の考えを聞いて下さい。犬を皆殺しにするのは少し行き過ぎでまた困難でもあります。これは二つに分け、先ず第一に狂犬病の犬を殺害すべきです」と発言した、外の村長もこの考えに賛成したが刀郷長は反対し「その方法がいいかね。じゃあどの犬が狂犬病だと分かるのかね。全郷一千匹あまりの犬を全部病院へ送り、まず登録してから調べ、血液検査をするのかね?それに肝機能検査、心電図もとるのかね?それは出来ない。それに今日検査して異常のない犬が明日病気にならないと誰が保証するのかね。それにこれは抜け道が容易で、それが出来ればあとの者はみんなその隙に乗ずるようになる。だからこれは徹底的にやらなければならない。病気の犬、元気な犬、良い犬、悪い犬、番犬、それに狆も一刀両断、根こそぎにするんだ」と言った。
「ヤア、郷長、それは言い易く行い難しです」「どんな困難があるのかね。先ず村人を集めこの道理をよく説明し犬の飼い主に自ら殺させればいい。もし不服なら村民の規約にこの一条を加えればいい。そして同時に犬殺し隊を結成し、犬を見たら即殺す、強制手段に出るのだ」と刀郷長が言い終わると若い村長が立ち上がり「私は羅小華と申します、青山村の村長です。飼犬の数は全郷中私の村が一番多いと思います。以前、人は私たちの村を悪犬村と罵り、動物もこそ泥も浮浪者も敢えて村へ入って来ませんでした。あの“文革”の時の“火つけ隊”すら私たちの青山村に火を放そうとはしませんでした。こうして犬が多いから冬になると青山村を犬肉の里と呼んで犬を食肉として買い付けに来る人が絶えません。それで犬を飼うのが青山村の長い習慣になったのですが、今の郷長のお話の犬の六つの大罪を私たちは意識していませんでした。上級機関の赤印の重要案件であれば私たちは犬を消滅させなければなりません。私たちは一刻の猶予も待たず、この案件を実行しなければなりません。私は如何なる困難があろうとも三日のうちに刀郷長が出した任務を遂行します」と言った。刀郷長は嬉しくなって「よろしい、これは八十年代の幹部のやり方だ、私たちは青山村を手本とし一週間のうちに任務を完成しよう。この案件を第一に完成させた村は推奨し、施行を遅らせた村は必ず罰する。それではこれで解散」と言った。
緊急村長会議後、宏橋郷の仕事は犬殺しが中心になった。犬の肉が市場に出回り価額が下がり、豚肉を売っていた店は犬肉を売るようになった。だがこの犬殺し運動の真最中に大樹村の金阿祥村長は毎日大きな集会小さな集会を開き、一軒一軒に犬殺しの規則を伝え、告示もし、犬殺し隊を結成して大忙しだったが犬殺し隊は犬の毛一本すら抜くことが出来なかった。これは何が原因だったのか?問題は刀郷長に犬のしっぽを切られたあの老婆にあったのである。
この老婆はただの農村の老婆ではなく、息子が県委員会の組織部長だったのである。数年前、この息子が胃を悪くしてなかなか治らなかった。老婆は生まれたばかりの子犬の肉が胃病によく効くと聞いて息子のために生まれたばかりの子犬の肉を手に入れ、息子に食べさせた、すると息子の病気がよくなったので、それから老婆は母犬を飼い毎年生まれる子犬をみんな息子の食用にした。老婆は息子のために犬を飼ってから数年して犬が好きになり、犬に愛情を持つようになった。ある時、老婆は池で野菜を洗っていて池の中に落ちた、周りには人影もなく、もう助からないと思った時、幸いにも池のほとりにいた犬がご主人が池に落ちたと見るやすぐに池に飛び込み、老婆が自分のしっぽを掴むと池の岸に這い上がって老婆を助けた。老婆はこの犬の恩をどうして忘れることが出来ようか。
あの日、老婆が外出して家へ帰ると犬のしっぽが切れているのを見つけ犬を抱いて泣いた。それを今になって犬を殺すなんて出来ない、勿論、老婆は犬を殺すのは反対だ。老婆が犬を殺さなければ外の飼い主も犬を殺さない。金阿祥は打つ手がなくなり、この状況を細かく報告する文書を作り、刀郷長に助けを求めて来た。
金阿祥から報告書を受け取った刀郷長は困り“これはまずい、先ず組織部長の家へ行かねばなるまい”と思っていると、そこへ青山村の羅村長が前に二本の犬の足、後ろにパンパンにふくらんだ麻袋をつけた天秤棒を担いでやって来た。羅村長は入って来るなり「刀郷長、青山村は村の犬を全部殺しました。この二本の新鮮な犬の足は郷の幹部みなさんで食べて下さい」と言った。刀郷長は目を丸くして思わず「本当か」と聞いてしまった、羅村長は「郷長の前で嘘はつけません、嘘と思うならこれを見て下さい」と言って麻袋をひっくり返すと、袋の中から犬のしっぽが山になって出て来た。そして羅村長は「この犬のしっぽが証拠です、どうか数えてみて下さい。それでも信じられないなら私たちの村へ実地検分に来て下さい、もし一匹でも犬が見つかれば郷長、あたしをクビにして下さい」と言った。それを聞くと刀郷長は傍らにいた金阿祥に向かい「聞いたか、外はみんなよくやっているぞ」と言った。金阿祥はしおれた顔で「郷長、私はあの婆さんによくよく話し何度も頭を下げて頼みました、でも駄目でした。あとは郷長にあの頑固な婆さんを説得して貰うしかありません。あの婆さんの犬だけが残ったらどうしたらいいですか」と言うと、刀郷長はしかめ面をして電話器をとり、委員会の組織部長に繋ぎ、犬の状況を詳しく報告してから最後にお宅の犬はどうするかと聞いた。すると組織部長はハハハと大声で笑い「あなたは一郷の長、私はあなたの管理する郷に住む一公民です、一匹の犬を殺すか生かすかはあなたが決めることです」と言うと電話を切ってしまった。
刀郷長は受話器を置くと『あなたが決めることです』とはどう言う意味だ?と唇を噛み、「公益優先、組織部長の母、委員会書記の父だろうが駄目は駄目。金さん、その婆さんにこれは犬のしっぽの賠償金ですと言って、三十円渡し『犬は必ず殺さなければならない、革命の大義のために多くの人が私情を捨てているのです、組織部長の母親であろうがなかろうが誰でも“犬を殺す大義”に従うべきです』と伝えて下さい。私は青山村の状況を見てからあんたの大樹村へ回ります。羅さん行きましょう」と言って自転車に乗り風のように青山村へ走った。 刀郷長は青山村のあちこちを回り、一巡したが確かに一匹の犬の姿もない。これは犬を何処かに隠しているのではないかと考え、探ってみようと村の後ろの山の林に入り「ワンワン、ワンワン」と犬の声を真似て叫んだ、こうすれば本当の犬がいればおびき寄せると考えたからだ。ところが犬は出て来ず、縄を持ったり棍棒を持ったりした村人が一斉に山を上って来た。刀郷長は慌てて山を逃げ下りまた自転車に乗って、ホッとしながら今度は大樹村の問題解決に向かった。 刀郷長が大樹村に入ると、大勢の村人が犬を殺して形成は逆転していた。刀郷長は金阿祥を見つけ「問題は解決したかね」と聞いた。すると金阿祥は笑って「郷長のあの一言で婆さんの犬は今日死んで婆さんは人に頼んで犬を埋葬しました」と言った、「婆さんに金を渡したかね」「渡しました」「大変だったね、ご苦労ご苦労、あの婆さんには『私たちは上級機関の命令を実施しているのですから了解して下さい』と言っておいて下さい」と刀郷長は言った。
こうして刀郷長は問題の火を消すために走り回り、家へ帰らず家族とも会わず何日かの努力の末、郷の犬を全て処理することが出来た。ある日、刀郷長が『宏橋郷を如何にして犬なし郷にしたか』という報告書を書いていると、郷の事務所の前に車が止まり中から二人の人物が降りて来た。見ると一人は刀郷長直属の上司楊県長である、刀郷長は慌てて飛び出すと二人を応接室へ案内した。楊県長は「君は姓を刀と変えたそうだね」と言うと、もう一人の人物に向かって「刀郷長と言っても刀を振り回すわけではありません、公務には私情を絶つと言う意味です」と言い、刀郷長に「そうだろう」と呼びかけた。刀郷長が「ハイハイ」と答えると、県長は「紹介しよう、こちらはホテル迎賓楼の支配人の張さんだ」と言ってから「ところで、お腹が空いたので、君、ちょっとわしらに何か簡単な料理を用意してくれないかね」と切り出した。それを聞いた刀郷長は羅村長がくれた犬の足の肉二本のうち一本を食べたがまだ一本残っている筈と「ハイハイ」と答え、食堂へ行って聞いてみると残った一本の足肉は昨夜副郷長が犬殺し隊の隊員の慰労会に料理してみんな食べてしまったことが分かった。刀郷長は一度は怒ったもののまだ何百本の犬のしっぽがあると思い直し、郷の事務員を総動員して犬のしっぽの皮を剥き綺麗に洗わせると炊事係りに犬のしっぽ料理をいろいろ考えて作らせた。
しばらくして犬のしっぽ会席が始まった。蒸したしっぽ、茹でたしっぽ、煮たしっぽ、油で揚げたしっぽ、しっぽスープと盛り沢山であった。県長は食べながら顔をしかめ「郷長、しみったれた料理だね、骨付き肉はないのかね」と言った。刀郷長は慌てて「楊県長、ご存知ないのですか、犬の肉の食べ過ぎは胃によくありません、でもこの新鮮な犬のしっぽは毒消しの効能があります。だから私たちは“親父が死んでも犬のしっぽは捨てるな”と言うんです」と言うと、県長は「そうだ、犬の肉は捨てるところがない宝なのに、犬には良いところが一つもないばかりか六つの罪がある、絶滅したほうがいいと言う人がいる、馬鹿な話だ。私たちが今日訪ねたのは観光事業の発展のためなんだ。実はホテル迎賓楼の魚料理、鳥料理が評判よくて、ホテルでは蛇料理、犬料理も出そうと準備しているんだが材料を確保出来る保証がない、宏橋郷は犬肉が豊富だと聞いたのでホテルは宏橋郷と提携したいと言うんだ。犬の飼育を一家の副業にして貰い、ホテルがその犬肉を買い付けて料理し観光の目玉にしようと言うわけだ。これは村のためにもなることだし、どうかね?」と言った。
「県長、お話は尤もな事ですが先日、上級機関から狂犬病撲滅の通達がありまして…」「イヤア、狂犬病撲滅と犬の飼育は別の問題だよ。狂犬病、即、犬の絶滅なら、あの肝炎はどうしますか、即、人の絶滅ですか?それは観念的ですよ。言っておきますが我が県では現在まで狂犬病は発生していません、それに狂犬病は予防でき、衛生部門の仕事です」刀郷長は冷や汗を流し、慌てて「ハイハイ、おっしゃる通りです、協力します」と答えると県長は「協力しますだけじゃ駄目なんだよ、今年下半期に五百匹の犬肉の出荷を保証出来るかね」「ハ、ハイ、よろ…よろしいです」と刀郷長は引き受けてしまった。そして刀郷長は一晩考え、やっと考えがまとまり、翌日、一戸の家に必ず最小一匹の犬を飼育する事を定めた指令書を出した。
この指令書が出るや村の幹部たちは騒然となった。次の日、刀郷長は第二回緊急村長会議を召集した。犬の飼育問題が取り上げられると前回はあんなにおとなしかった村長たちが一斉に刀郷長に対し大声で怨み言や当てこすり、皮肉をぶつけてきた。すると刀郷長は笑って「みなさん、お喋りは終わりましたか?終わったら今度は私がお話します」と顔を固くして厳粛な声で「前の会議で私たちは犬殺しを取り上げましたがあれは上級機関の文書に基づもので間違っていません。今回犬の飼育を強調するのは楊県長の指示でやるのでこれも間違いではありません、これは矛盾の対立を統一する事です。今日の犬の飼育の件で前回の犬の撲滅を誤りにする事は絶対に出来ません。間違っていません!これは状況の変化です」と言っていると青山村の羅村長が息を切って駆けつけた、刀郷長は三十分ほど遅れて来た羅村長に一言文句を言ってやろうとすると羅村長が先に「郷長、報告します。郷通達十三号の犬の飼育数を我が青山村はすでに完遂しました」と言った。それを聞いた外の村長たちは口を開けてびっくり、青山村は犬撲滅で一位、今度また犬飼育で一位、どうしてすぐそんな変わり身が出来るんだ、おかしい?と思い、ある村長が「刀郷長、どうしてそんな事が出来るのか先ず青山村の経過を見に行こうじゃありませんか?」と言った。すると羅村長は「みなさんの見学を歓迎します、そして昼食に犬肉をご馳走します」と言った。
十ヶ村の村長に刀郷長を加えて十一台の自転車が連なって青山村へ向かった。一行が村へ着いた途端、犬の声がしたかと思うと来るは来るは、白、黒、褐色、まだら色、灰色の犬がわんさと列を作って村長たちを熱烈に歓迎するようだ。よく見るとみんな犬の首に札が付いていてどれもこれもみんなしっぽがない、犬のしっぽは何処へ行ってしまったのか?羅村長は笑って「しっぽですか?しっぽは刀郷長の一刀で切られたのです」と言った、「犬の首の札は?」「あれは狂犬病の免疫証です」ここで刀郷長は気がついて、羅村長の腕を掴み「君は俺が調査に行った時、犬を何処に隠しておいたのだ」と言うと、羅村長は「それは簡単ですよ、どの犬にも焼酎と安眠剤を呑ませれば、すぐ死んだように寝てしまいますから」「君は本当にやり手だな、ところでこの犬の肉を売らないかね」「いいえ、一昨日楊県長とホテルの支配人が来て全部予約して行きました」「オー」と刀郷長は口を開けて驚いた。
こうしてみんなで騒いでいると、そこへ組織部長のあの老母が来て、羅村長を見ると「風向きが変わってまた犬肉が美味しく食べられるね。この前はあたしが落ちこぼれであんたにあたしの犬を助けて貰ったが今度はあたしのほうが先進的だね」と言った。するとあの赤犬が来て老母に甘えた、老母は犬の頭を撫でながら「ハイ、お前はしっぽがなくてお尻が丸出しだけど、可愛いねぇ」と言うと刀郷長の前に行き、三十円を差し出し「刀郷長さん、これから刀を振る時は右左をよく見てから振らないと、大勢の人が困るんだよ」と言った。 (新故事大会一等賞)
<注>1980年代の語りである。かなり自由に読み解いたつもりだが辻褄の合わぬところもある。組織部長の老母の赤犬は大樹村の犬で、原文では『老太婆那只狗今天死…』(あの老母の犬は今日死んだ…)とあるが、老母は羅村長に『あんたのお蔭であたしの犬は助かった』と言っているから犬は死んではいなかったのである。大樹村は青山村のやり方を真似したのかもしれないがそこには言及されていない。(ようである)そこは聞き手(ここでは読み手)が想像力を働かせるしかない。それが語りを聞く(読む)面白さかもしれない。