546 月を捕まえる

 昔、梭拍という金持ちが毎月十五元で農夫の阿朱尼を雇い、賃金は一年分まとめて払う約束をした。梭拍はすぐ阿朱尼に穀物の植付けをさせた。阿朱尼はツルハシやクワで畑を耕し種を播き、春から収獲の秋まで毎日忙しく働いた。穀物の刈入れが済むと梭拍は阿朱尼に山の木を切らせ新しい家を建てる準備をさせた。阿朱尼はまた斧や鋸を担いで山に登り木を切り、梭拍の新しい家を建てた。それでもう一年二ヶ月経ったのに、まだ梭拍は阿朱尼に賃金を払おうとしない。

 梭拍は新しい家ができると祝宴を開き、大きな豚を料理して村の金持ちや有力者を招待した。阿朱尼はその人たちの前で梭拍に向かい「旦那、わたしはあんたのとこでもう十四ヶ月も働きました、どうか前に約束した通り一年と二ヶ月分の賃金を払って下さい」と言うと、梭拍はフフンと笑って「阿朱尼、安心しろ。きっと今日清算する、だが清算する前にもう一つ仕事をしてくれ、その仕事がうまくいけばお前に二倍の工賃を払う…だができなければ賃金を半年分にけずる」と言った。

 阿朱尼は心の中で梭拍の意地の悪い企みに腹をたてたが、賃金を払って貰うために我慢して頷き「旦那、早くどんな仕事か言って下さい、一生懸命やりますから」と言った。すると梭拍は意地悪そうに「今日は十五夜で月が大きく丸くて明るい。お前は客人の前で本領を発揮して空の月を捕まえてくれ。成功すればお前に二年分の給料を払う」と言い、心の中では得意になって、これであいつの十四ヶ月の給料を半分にできると密かに笑った。 阿朱尼は口惜しくて歯を噛んだが、機転を働かし梭拍の企みを逆手に取り、明るく「いいですよ、でもわたしが月を大きな盆の中に捕まえたら旦那は月を盆から取り出せますか」と言ってやった。すると梭拍は胸を叩いて「笑わせるな、お前が月を捕まえて盆に入れれば、わしは必ず盆から月を取り出してみせる」と言った。

 「旦那、本当ですね」と阿朱尼が念をおすと梭拍は真面目な顔つきで「わしも男だ、言ったことはまもる、お前が月を捕まえればわしはお前に二年分の賃金を出す、だができなければ賃金は半年分にけずる、これは客人が証人だ」と言うと、阿朱尼も真面目な顔つきで「旦那、物見台に上って下さい。私が月を捕まえますから…捕まえられなかったら賃金はビタ一文もいりません」と答えた。

 阿朱尼が月を捕まえると言うので村の老若男女は面白がり、みんな梭拍の新しい家の前に集まって夜を待った。夜、空高く満月が昇ると阿朱尼はに竹ヒゴで編んだ蓋をした瓦焼きの盆を物見台に置いて「梭拍の旦那、さあ始めますよ。あとでゴタゴタしないようにもう一度みんなの前で決めた事を言って下さい」と言った。梭拍は村の老若男女の前であの阿朱尼との約束事を話すと「始めろ、わしはお前が月を捕りに空へどうやって昇って行くのか見たい」と言った。すると阿朱尼は袖をたくしあげると両手を伸ばして空を掴み体を返し盆の蓋を開け、盆の中へ勢いよく物を投げ入れる格好をして言った、「梭拍の旦那、さあ、月を盆の中に捕まえました、旦那、見て下さい」

 梭拍が瓦焼きの盆に近づいて見ると、中に確かに満月が明るく光っている、梭拍は驚いて盆の中の満月を掬い上げたが月は捕まらず、手が冷たい水に濡れただけだった。明るく光る満月は瓦焼きの盆の中の水に写っていたのだ。ずるい梭拍は阿朱尼の知恵にやられたと思うとすぐ悪賢く「よし、阿朱尼、月を新しい家に持って行ってくれ、わしは家の中で月を捕まえてお客のみなさんに見せたい」と意地悪そうに言った。

 阿朱尼は少しもひるまず、水を張った瓦焼きの盆を持って梭拍の新しい家の中に行くと「アレ、月が逃げてしまった、ちょっと待って下さい、また捕まえて来ます」と言うと、刃物を提げてスルスルと梭拍の新しい家の屋根に登ると屋根に大きな穴を開けた、すると満月はその穴を通ってまた瓦焼きの盆の水に写った。阿朱尼は大きな声で「梭拍の旦那、盆の中に月がありますか、もしなかったら穴をもう少し大きくします」と言った。「やめろ、阿朱尼。新築の家に穴を開けるのは縁起が悪い、早く穴を塞げ」それでも阿朱尼が「旦那、盆の中に月はありますか」と言うと梭拍は力なく「一年二ヶ月の給料をやるから早く穴を塞いでくれ」と言った、阿朱尼は「旦那、また嘘をつくんですか、旦那は二年分の給料をくれると言ったじゃないですか」「やる、やる、男はやると言ったら必ずやる」と言いながらがっかりして、銀貨を出すと二年分の賃金を数えて阿朱尼に渡した。阿朱尼は喜び、「梭拍の旦那は全く言った事を守る人だ、この次また仕事があれば私がやります」と言うと、梭拍は苦笑いして頷き「分った、分った、この次もきっとお前を頼むよ」と言った。梭拍の顔は笑っていたが心は蜂に刺されたようだった。                                                    (西双版納哈尼族民間故事集成)<注> 梭拍の“拍”は原文では“巾ヘンに白”