544 包公の霊験  

 むかし、暁望村という村に三人の清廉な官吏、包公、寇准、海瑞の像を祭る“三忠廟”と呼ぶ廟があった。その村に無一文で寝る場もない独り者の張三という男がいて、昼間はこの“三忠廟”の包公像の後ろでぐっすり眠り、夜中になると村のあちこちの家に忍び込み盗みを働いていた。

 ある大雨の晩、張三は包公像の後ろで横になったまま、眠るか眠るまいか、盗みに行くか行くまいかと考えあぐんでいると、カタッと廟の扉が開いてずぶ濡れの男が二人、入って来た、一人は背高で一人は小男だ。背高男が「相棒、今夜はうまくいったな、だが、この大金のために人を殺したと分れば俺たちは人殺しの罪だ」と言うと小男が「分るものか、宿遷県の神業李小鬼(リィショウクイ)が何を怖がるのだ」と言い、背高は「田搗蛋(テンタオタン)、俺はお前の腕にはかなわない。だが相棒、雨がどんなに降ろうが俺たちは今夜のうちに此処を離れなければ駄目だ。明日誰かが殺人事件だと訴えれば、俺たちは逃げられなくなっちまう」と言った。そして二人は早々に廟から出て行った。“道端のお喋りを草むらの人が聞く”(壁に耳あり障子に目あり)包公像の後ろにいた張三がこれをみんな聞いていた。
 翌日、この殺人事件は県に届けられ、県知事は全県に殺人犯を捕らえろと命を下した。しかし何時になっても犯人を捜し出せない。そこで、県知事は雑貨売りの行商人に姿を変え、密かに村々を巡って犯人を捜したが、何日経っても“大海に沈んだ石”声も音もない。ある日の夕方、県知事は荷物を担いだ行商人の姿で暁望村に入り、宿を探していると廟があったので、今日は此処に泊まり明日また探そうと思った。            

 県知事は廟の中に入って横になったが、いろいろ考えて寝つけず、「この事件を解決しなければわしは県知事の責を果たせない」と独り言を言った。丁度この夜、包公像の後ろで寝ていた張三がこれを聞き、行商人が実は県知事だと知り、張三は俺は盗みで暮らしているが何時までもこうしているわけにはいかない、思い切ってこの県知事に今までの事を話し、この事件の解決に糸口をつけてやれば、俺に良いように計らってくれるかも知れないと考えた。だが俺が泥棒だと分ればたちまち捕まってしまう、それじゃあ自分で罪をかぶるだけだ、ああだこうだと考えて心を決めかねていたが、ふと包公像を見て良い事を思いついた。そうだ、俺が包公の霊になりすまし、この事件の解決を助けてやれば、あとできっと県知事は包公にお礼の供え物をするに違いない、そうすれば俺はやすやすとその供え物を頂戴する事ができる。            

 真夜中、県知事は廟の神像を眺めながら溜息をついていると、突然神殿の包公像が「県知事殿、嘆くな、この事件はすぐ解ける、宿遷県の李小鬼と田搗蛋を捕らえろ。それで強盗殺人事件は解決し、清廉潔白な県知事になれる」と言った。県知事はこれを聞いて驚き喜び、心の中で“包公様、包公様、あなたは生前から民の苦しみを除き、死してまた霊験により私の殺人事件解決を助けてくれました、私はこの事を決して忘れません”と呟いた。県知事は夜の明けるのも待たずすぐ行商の荷を担いで役所へ帰り、すぐ宿遷県に捕り手の役人をやり李小鬼と田搗蛋を捕えさせた。調べると二人の仕業に間違いないと分り、二人は断罪された。

 県知事は事件が包公像の霊験に助けられて解決した事を感謝し、礼服に身を正し供を従え供物を捧げて三忠廟へ行き包公を祭った。県知事が包公像の前に進み跪いて礼拝すると、張三は慌てて包公像の後ろから走り出て県知事の前に跪き「わたしは罪人です、罪人です」と叫んだ。県知事は何事かとびっくりしたが、よく見ると乞食が跪いている、県知事は張三に手を差し伸べて「何故そんな事をする?」と聞いた。張三は「県知事様、先ずわたしの罪を許して下さい、そうしなければわたしは顔を上げられません」と言った、県知事が「お前に罪はない、顔を上げろ」と言うと張三は何度も地に頭をつけて叩頭の礼をしてから顔を上げ、今までの事をすっかり話した。

 県知事はそれを聞いてそうだったのかと納得し張三に「お前これからは盗みをするな、それより捕り手役人になったらどうだ?」と言った、張三が「いいえ、なりません」と答えると県知事は「それでは金をやろう、それで暮らしを正せ」と言った。すると張三は「県知事様、金もいりませんそれよりわたしにあの雑貨行商の荷と道具を褒美に下さい」と願った。県知事はそれを聞くと「よし!」と言って行商の荷を張三に賞として与えた。

 それから張三は悪事を改め、一日中行商の荷を担いで町を回り商売を始めた。張三は真面目な商売をしたから繁盛し、何年も経たないうちに女房を娶り所帯を持って幸せな日を送った。                                                                              (宋宗科故事集)