544 鶏裁判

 ある貧しい農夫が金持ちの家の鶏の雛を踏んで死なしてしまった。金持ちは怒って農夫に「弁償しろ」と言った。そこで農夫は「この雛の値段を弁償しますが幾らですか?」と聞くと金持ちは雛の値段ではなく大きくなった鶏の値段でなくては駄目だと承知せず、二人は争いになった。周りで見ていた人々もみなそれは不公平だと思っていた。そこへ丁度県知事の段広興が通りかかり、二人の争いを裁判することになり二人を裁判所へ連れて行った。人々は県知事の審判の行方を見守った。

 裁判所に着くと、県知事は法廷の壇上から金持ちに「この農夫がお前の鶏の雛を踏んで死なした、当然弁償しなければならぬが、お前は幾ら弁償して欲しいのだ?」と聞いた。すると金持ちは「わたしは五十銭要求します」と答えた。「こんな小さな鶏の雛にお前はどうして五十銭も要求するのだ」「わたしのこの雛は育ちもよく、もしこの農夫に踏み殺されなければ重さ九斤の鶏になります。だから当然この金額になるのです」

 これを聞いていた農夫は「わしは確かにあんたの一羽の雛を踏み潰してしまったが、雛は高くても三銭か四銭、どうして五十銭も弁償しなければならないのだ?」と言うと、金持ちは「この雛は一年で九斤に育つ、五十銭でも安いもんだ」とうそぶいた。県知事はそれを聞くと堂木をパアンと叩き、「その通りだ。農夫、お前が雛を踏み殺さなければ、確かに雛は鶏に成長して九斤になり、その値段になるのは道理に合っている」と判決した。

 だが貧乏な農夫はそんな大金、出せないからもっと軽い処分にしてくれと哀願すると県知事は「五十銭が出せないなら、本官が立て替えてやる」と言って役人に裁判所の奥から五十銭を持って来させた。それを受け取った金持ちは得意満面で裁判所を出ようとした。周りの人々はその審判を聞くと「何だ、段広興は間違っている」と言った。  

 金持ちが法廷からゆうゆうと出て行こうとすると、県知事はまた堂木を響かせて「まて!まだ審理が終わっていないのに出て行くとはなにごとだ」と叫んだ。金持ちは「鶏の賠償金をわたしにくれたのでは?」と言うと、県知事は「ではお前に尋ねるが、この審判通りなら鶏は何斤米を食べるのか分っているか」と聞いた。金持ちが「分りません」と答えると県知事は「鶏は一斤大きくなる毎に一斗の米を食べる。お前の鶏の雛は見たところまだ二両の重さもないようだから、九斤の重さに育つには九斗の米を食べる、いま農夫は九斤の鶏の代価をお前に払ったのだから、今度はお前が九斗の米の代金をこの農夫に支払え」と言って法廷の書記に九斗の米の代価を計算させ、七十銭とはじき出した。金持ちは勿論支払おうとはしない。

 すると県知事は「それはならぬ。雛は風や霧を食べて育つのではない、米を食べてやっと育つのだ。農夫が鶏の代価を払ったからにはお前は農夫に鶏が食べる米の代価を払わねばならぬ」と言った。金持ちは罪に問われるのを恐れ米の代価を支払うしかなかった。それでこの農夫は県知事が立て替えてくれた分を返してまだ二十銭を得した。
 それから段広興の審判を正しいと言わない人はなかった。                      (李占春故事選)