542 月を射る
太古の昔、月の光りは太陽より強かった。月は九つのつの、八つのかどを持ち、月が出ると人は月の光りに晒されて顔が真っ赤になり畑の作物は焦げて大変であった。
ある処に妻はジガ、夫はアラという夫婦がいて人々の暮らしを心配し、ジガは「月は九つのつの、八つのかどを持ち人を光りに晒して害毒を与える、あんたは弓の名手だからあの月を射落とすことが出来るんじゃない?」とアラに言った。「俺は何時も大山の頂上に立って月を射るのだが駄目なんだ」「あんたが真剣にやらないからよ、早く月をやつけて来なさい」
そこでアラは朝早く起き月を射ようと弓矢を持って出かけ、月を射たがやはり射落とすことは出来なかった。アラががっかりしていると、後ろの大きな山が音を立てて裂け、長い髭を生やした老人が現れ「月は北山の猛虎の尾で弓の弦を張り南山の大鹿の角で作った矢で射れば丸くなる」と言うと何処へ行ったのか姿が見えなくなった。
家へ帰ったアラはジガに「俺は今朝早くまた月を射て失敗した、すると長い髭の老人が現れて『月を射るならまず北山の猛虎と南山の大鹿を捕らえ、鹿の角で矢を、虎の尾で弦を作りそれで射れば月は丸くなる』と教えてくれた」と話した。
それを聞くとジガは「あんたは弓の名手だから、南山の大鹿だって北山の猛虎だって射殺せるでしょう」と言うとアラは「あの大鹿と猛虎の皮は長い年月で厚くなり、矢が通らないのをお前知らないのか」と言った。「それならどうするの?」「大きな網を編んで北山の猛虎と南山の大鹿の退路を塞いで生け捕りにするしかない」「その網は何で作るの?」「俺もそれで困っているのだ」「じゃあ、あたしの髪の毛を使って編めばいい」
こうしてアラとジガの夫婦は一緒にジガの髪の毛を一月かかって網に編み、その大網で北山の猛虎と南山の大鹿を捕らえ、鹿の角で矢を虎の尾で弓の弦を作り、月を射た。
矢は刀のように“ビュウ、ビュウ、ビュウ”と月に向かって飛び、一気に月の九つのつの、八つのかどを切り捨て丸い月になったが、やはり光りは人を強く晒した。ジガは「これじゃあまだ駄目だわ」と言った。アラは「大きな錦の布を矢の先に結んで射て、月を覆えば月の光りはなくなる」と言うと、ジガは「そんな大きな錦はどこを探してもないが、上に一本の娑羅双樹、下に白兎、白羊の大きな錦をあたしが織ってまだ機にかけたままになっているからそれを持って行きなさい」と言った。
アラは機にかけてあるジガが織った大きな錦を切って矢の先に結び付け“サッ”と月に向けて射ると上に娑羅双樹、下に白兔、白羊を織った大きな錦は月に着いて月を覆った。そして月が空に昇る時、ジガもゆらゆらと月に向かって飛んで行った。これを見たアラは慌てて東山から走って西山に登ったが、空には昇れず「ワアワア」泣いた、これを聞いたジガは自分の頭の髪を解いてアラに下ろしてやった、アラはこのジガの髪の毛を伝って空へ昇った。 後にジガは月で錦を織り、アラは錦の白兎を放してやり、ジガとアラの夫婦は月の世界で幸せに暮らした。そして地上の人も強い月の光りに晒されることはなくなった。 (四老人故事集)