541 お米の話
老母と息子兄弟の夫婦が一緒に住んでいた、兄の女房は老母と住むのが嫌で別居した。
ある時、老母が病気になりお米のご飯が食べたいと言うので、弟の女房は嫂の家に行き「嫂さん、お義母さんが病気になりお米のご飯が食べたいと言うので、お米を貸して下さい」と頼んだが、「うちにお米はないよ」と断られた。
弟の女房はしょんぼり帰り、貧乏は何にもできないものだと悲しみ、涙をふいて桶を担いで水を汲みに出かけた。泣きながら義母が食べたいと言うお米も何もない貧乏を嘆いて歩いていると、アヤメの花のわきで犬がお米の糞をしている。それを見た女房は慌てて水を汲んだ桶を担いで家へ帰ると、すぐ竹ざると瓢箪の柄杓を持って行き、そのお米を柄杓ですくい、河へ行って竹ざるで何度も何度もすすいだが、犬の糞はこれだけでは綺麗にならない、口に入れてゆすごうと思い、お米を口に入れ水を含み、口の中でお米をゆすいで竹ざるに吐き出すと臭いも犬の糞の味もなくなった。
そのお米を持って帰り、炊いて老母に出した。「お前このお米どうしたの?」と老母が聞くと、女房は「お義母さん、どうしたかって聞かないで」と言った。そして「お前の炊いたお米はどうしてこんなに美味しいのかね」と老母は喜んで食べ、病気もよくなった。それからまた「お前、いったいこのお米は何処にあったの?」と聞いた、するとまた女房は「お義母さん食べて美味しければそれでいいのよ、何も言わないで」と言った。
その時、西の空が曇り稲妻が光り雷が鳴った、「アッ!あたしの罰です」と女房が叫んだ「エッ!お前に罰だって」「あたしは犬がしたお米の糞を柄杓ですくい河で洗い、口に入れてゆすいでそれを炊いてお義母さんに食べさせたから、天が雷であたしを引き裂いて罰するのです、お義母さんはここにいて下さい」と女房が言うと老母は驚いて息子の女房を引き止めたが仰向けにひっくり返り、女房はそのまま外へ飛び出した。だがしばらくして女房は上半身に金をべったりつけて戻り、雨も雷もやんだ。女房は体についた金で鶏、魚、肉、卵など食べたい物を何でも買って老母に孝養を尽くした。
これを知った嫂は自分の亭主に「お前の義弟は泥棒をしたんだ」と言った、亭主は「弟が何処から盗んだと言うんだ、出鱈目な事を言うんじゃない」と言った。二日経って嫂はまた亭主に「お前、義弟の家では食事時には何時も“シャアシャア”鍋の音がしているから見ておいでよ」と言った、亭主は「よし、見に行って来よう」と言って弟の家へ行って老母に「弟は何処から美味い物を盗んで来たんだ」と聞いた。老母は「盗んで来た?何処に盗みに行ったと言うんだい、あたしが病気でお米が食べたくて、ここの嫁がお前の家へお米を借りに行っても、お前の嫁は貸してくれなかった。だからここの嫁は犬がアヤメの下にした糞のお米をすくって、水でゆすぎ、それから口でゆすいであたしに食べさせてくれた。そしたら雷が鳴って嫁が出て行こうとしたから、あたしは止めたんだが嫁は出て行き、しばらくして嫁は半身に金をべったりつけて戻って来たんだ」それを聞くと兄は「オー」と言って出て行った。
兄は家に帰り女房に「お前は弟が盗みをしたと疑ったが、実はあいつの女房が拾ったお米をおっかさんに食べさせたら雷が鳴り弟の女房の体に金がついたのだそうだ。お前その時の雷の音を聞かなかったか?」と話した。それを聞いた兄の女房は「エッ、それはたいしたもんだ、すぐうちでも黒犬にお米を食べさせお米の糞をさせ、それをお義母さんに食べさせなくちゃあ、お前さんすぐお義母さんを負ぶっておいで」と言った。兄は弟の家へ行き、嫌がる母親を負ぶって帰って来た。
さて嫂は黒犬にお米の糞をさせようと黒犬にお米を食べさせると神の力が働いたのか、急に黒犬はお腹をすかしお米を食べた。そして犬はお米の糞をした、お米を拾ってかぐと糞臭い、洗ってもまだ臭い、また洗っても臭い、いくら洗っても犬の糞の臭いは消えない、嫂は“もういいや”とあきらめ、犬がしたお米の糞をご飯に炊いて老母に食べさせた、老母は一口食べると犬の糞の嫌な臭いがする、「あんたの炊いたご飯はどうしてこんなにまずいのかね」と老母が言うと嫂は「文句を言わずに食べて」と言う、老母は目をつぶって無理やり食べた。
すると西北に稲妻が光り、雷が鳴った、嫂は「お義母さん、あたしは死ぬ」「あんたどうして死ぬの、やめなさい」「わたしは行くわ」嫂は“義母が仰向けにひっくり返り、あたしが出て行かないと半身に金がつかない”と考えたのだ。
老母が「行くな」と叫んで仰向けにひっくり返ると、嫂は外に飛び出した、すると稲妻が光り雷が落ちて嫂を引き裂いた。
(四老人故事集)