540 一生貧乏な人はいない
人は誰も貧乏は嫌いだ。ある大きな屋敷に三人の娘がいた。長女の夫は官吏、次女の夫は軍人、三女は貧乏な農家に嫁いだ。
ある凶作の年の暮、三女は夫に「どうすればいいの、鍋の上にも下にも何もないわよ、あたしの実家へ行って年を越そう」と言ったが夫は行きたがらない。二日経ち、三日経ち三女夫婦はどうしようもなくなってフラフラしながら三女の実家へ行った。「門番さん、三女夫婦が来たと伝えて」と言うと門番は「三女夫妻が見えました」と奥へ向かって叫んだ。
すると母親は「早く門を閉めて、あの貧乏たれが来ると死神が家に入る」と門を閉めさせ、何を言おうと門を開けさせなかった。そして母親は「三女が東の棟へ行けば長女の官吏の家が貧乏臭くなるし、西の棟へ行けば次女の軍人の家が貧乏臭くなり、厨房へ行けば竈神様が貧乏臭くなる」と言った。
暗くなって夕食の時になってもまだ門は開かない、それでも三女夫婦は表門の前に座って待っている。料理人は仕方なく門を開けて三女夫婦を粉挽き小屋へ案内し、高粱粥を大鉢に盛り持って行ってやった、だがそれを見た三女の夫は怒ってその高粱粥の大鉢をバサッとひくりかえしてしまった。そして夫婦はその夜、粉挽き小屋で一夜を明かし、翌日下男が門を開けるとすぐ出て家へ帰った。
家へ帰ると妻は鎌を持ち籠を抱えて野菜をとりに行き金銀財宝の出る宝の盆を見つけ、夫は箕を持って柴を刈りに行き銀貨の入った壷を掘り当てた。二人は宝の盆と銀の壷から出た金銀財宝や銀貨を金に替え、家は栄え一年経つと男の子が生まれ、それから三年経つてまた男の子が生まれた。この兄弟は一年ごとに大きく育ち、七、八歳になると学校に入り毎日勉強した。こうして子供たちは一年一年よくなり、家は下男や料理人を雇うようになりますます栄えた。あの宝の盆と銀貨の壷から出る金銀財宝は余るほどだ、だが、実家からは何の連絡もない。
実家はどうなったのか?長女は短命で二十五歳で黄泉に旅立ち、次女も短い寿命で二十三で死んだ。親の老夫婦はどうなったのか、ある年、実家は火事に遭い丸焼けになって何もかもなくなった。老母は「どうしよう?あたしたち老夫婦は年をとったから三女の家へ行こう」と言った、老父が「行けるか?三女はわしら老夫婦を相手にしまい」と言うと、老母は「何言っているのよ、娘がこんなに年とった両親を世話しないわけないでしょう」と言い、老夫婦はああだこうだといろいろ言い合ってから、やっと立ち上がり三女の家へ行った。
老夫婦は三女の家の門に着くと門番に「義父母が来たと伝えてくれ」と言った、門番が「奥さんの両親が見えました」と言うと三女の夫は慌てて飛び出し「義父さん、義母さんいらっしゃい」と言って客間に案内し、お茶を出した。「これは…」「これは…」三女は客間に夫と誰かの声がするので行ってみると父と母であったので「あら、うちへ何しに来たの、貧乏の臭いがつくわよ」と言った、夫は「おいお前、なんということを言うんだ、義父さん義母さんはお年寄りなんだぞ、美味しいものを食べて貰い、よいものを着て貰わねば」と言った。
三女は料理人に「夕飯が出来たらあたしがあの二人に運ぶからね」と言って、うどんが出来ると三女は両親にうどんを持って行き「食べて、すまし汁とうどんよ、うちには高粱粥の大鉢はないのよ」と言った。それを聞くと夫は「お前は本当に恥知らずだ、義父さん義母さんはお年寄りなんだぞ、美味しいものを食べて貰い、よいものを着て貰わねば」と言って三女と口喧嘩した。
夕飯が終わると三女の夫は二人の自分の子を呼んだ。「なに!」「お前たちのおじいさんとおばあさんが来たんだ」と言うと子供は「え!、俺はかあちゃんから俺たちのおじいさんおばあさんがいるなんて聞いてないよ。何処から来たおじいさんおばあさん?俺知らないよ、かあちゃんから聞いてないもの」と言って行ってしまった。 後にこの老いた両親が死ぬと三女夫婦は両親の墓を建てた。この話はよい時は人は薄情なものだと教えている。 (四老人故事集)