猿の宝  

 昔、もう父も母もこの世を去って、それぞれに別れて暮らす兄弟がいた。弟は村でも一、二の働き者で、畑で作る穀物の出来は上々、穂は馬のしっぽより長く、その粒は金色に輝く可愛い瞳のようだった。気持ちのいい善人で何時も隣近所のあれこれを手助け、村人に喜ばれていた。兄ももとは働き者で百姓仕事をしていたが、だんだん怠け者になって、畑は耕さず、種を蒔いても草も取らないから、一年の収穫は半年食べるにも足らなかった。 

 ある年、畑の作物がもうすぐ熟そうという時になって、猿が群れをなしてあっちの畑こっちの畑を荒らしに来るので、村人は働く手を休めて、畑を守らなければならなかった。弟も畑に行って大きな声で猿をおどかしながら、猿が倒した作物の茎を起こすのだった。しまいには猿が何時も出没する場所に掘立小屋を立てて番をした。  兄は畑に行くと、畑を一巡りしたあと崩れかかった掘立小屋にもぐりみ枯草の上で「グゥグゥ」いびきをかいて寝てしまい、毎日目を覚ますのは太陽がもう西の山の頂きかかっている時で、猿が畑を荒らして逃げたあとだった。

 ある日、兄は崩れた掘立小屋に行くのが遅れ、そのままぐっすり寝こんでしまい、猿の大群が「キャッ、キャッ」と叫びながら掘立小屋に来ても目を覚まさなかった、猿は兄の周りを囲んでこれは死んでいると、匂いを嗅ぎ死人の腐り始めの匂いがするので兄を手取り足取りして、大きな木の上に担ぎ上げてしまった。その時になって兄は目を覚まし「アッ」と声を上げると、猿はびっくりして手を放したから兄は「ドシ−ン」と木から落ちて傷だらけになり、体の骨がバラバラになったようで半日も起き上がれなかった。  

 弟は兄からこの話を聞いていいことを思いついた。何日かのあと弟は匂いがプンプンする一つかみの煎った豆を着物の下に隠して、畑の真ん中に横になって死んだふりをしていた。昼になって、猿の群れは畑に人がいないのを見て喜んで「キャッ、キャッ」と叫びながらやって来た、ずるい猿の王はまず一番利口な小猿を探りにやった。小猿は弟のそばによると、はじめに匂いを嗅ぎ心の中で「しめた」と思い、周りをグルグルッと二回まわり少しも動かないと見ると、弟の頭の毛や着物をひっぱり、腋の下を「グジュグジュ」しても動かないので死体だと思い込み、弟の胸の上に飛び上がり、「キャア」「キャキャァ」と長短二声の合図をして猿の群れを呼び寄せ、よってたかって弟を担ぎあげ、山を越え峰を越えた、林の中を通る時、ボサボサの木の枝がブスブスと着物に刺さり、足、手、顔にあたって痛く、猿のなまぐさい匂いが鼻にズンズン入って吐き出しそうになっても、グッと唇をかんで少しも声をださなかった。

 どの位歩いたかわからないが猿がゆっくり歩きはじめたので弟は崖の上に来たな、もうすぐ猿の洞窟に着くと思い、洞窟の中に運び込まれないように、ゆっくりと両手をひろげた。洞窟の入口に着くと弟はそっと手でしっかりと岩を掴んで放さなかったので猿の王は洞窟の中に入れるのをあきらめて、猿たちに弟を洞窟の入口の石の上に置かせ、金の食卓、銀の椀や箸を出して宴会の準備をさせた。百匹以上の小猿が喉からよだれをたらし、テンテンタンタンと箸で茶碗を叩き、高い所にいる猿の王の命令を待っていた、猿の王は額をなで目を閉じて右手を伸ばすと、一匹の小猿がすぐキラリと光る金の刀を王の手の上に置いた、猿の王は両手で高くあげた刀をチラリと見てから、猿たちに弟の着物を剥がせと命じた、声をあげて猿たちが弟を囲んだ時、弟は猛然と立ち上がり、「ワ−」と一声叫ぶと、猿たちは頭の上で雷が鳴ったように驚き、みんな「ボ−」としてしまった、気がついてみると、“死人”は自分たちの王を掴み上げ、「パ−ン」と石の上に叩きつけたので、びっくりして手に持っていた物を落として逃げてしまった。弟は猿が置いていった金銀の器具を持って帰り、兄や村人に分けてやった。  

       西双版納哈尼族民間故事集成               1993,1,15 

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