536 人参商人の恨み

 昔、ある人参商人が有り金をはたいて上等な薬用人参を仕入れ、これを港町で売りさばこうと人参を持って行商の旅に出た。
 これに目をつけた二人の追剥ぎが途中で奪ってやろうと商人の後をつけた。商人は何日かするうちに、二人の追剥ぎに狙われているのに気づき“このままでは身に危険が迫る”と思い、二人の追剥ぎのすきを見て、人参を通りがかりの村の富豪の屋敷の中へ放り込み、空手で村を出た。

 二人の追剥ぎは商人が空手で村を出たので、商人が村で人参を売り払ったと思い込み、商人を殺しても無駄だと考え、後をつけるのをやめた。人参商人は尻尾のようについて来た追剥ぎがいなくなったと知ると、また村の富豪の屋敷に戻った。
 この富豪の老夫婦には子供はなかったが富豪の上にも富豪という大富豪であった。商人が人参をこの富豪の屋敷の中に放り込んだ丁度その時、この富豪の主の老夫が出て来て庭に赤い布の包みが投げ込まれるのを見て、拾って広げると上等な薬用人参、急いで隠してしまった。

 しばらくして人参商人が屋敷に来て、どうして人参を屋敷内へ投げ込んだのかを説明し、返して欲しいと言った。しかしこの屋敷の老夫は知らないと言うばかり、しまいにはきっぱりとそんな物は無かったと言い切った。商人は何度もこの富豪の主の老夫に事情を説明し、「その人参を売ったらその代価の半分を差し上げます、どうか人参を返して下さい、人参が戻らなければわたしは死ぬしかないのです」と言った。しかし富豪の主の老夫はやはり見なかった、人参は無かったと言うばかりであった。人参商人は全財産をはたいて仕入れた人参だから、家へ帰っても何もない破産するだけだと、村の外に出て具合よく枝のでた木を捜し、首を吊って死んだ。 

 人参商人は死んだが富豪の老夫婦の暮らしは順調で今まで子供がなかった老妻が急に身ごもった、老夫も大喜び、十ヶ月経って臨月を迎えると産婆を呼んだ。年老いてからやっと恵まれる子だから男だって女だって、子供が生まれればそれでいい、これから財産を誰に譲るか、死んだら誰が葬式をしてくれるかなどと心配しなくていいと富豪の主の老夫は喜んで顔を上げると、あの人参商人が外から庭に入り真っ直ぐ産屋へ向かったかと思うと消え、同時に産屋から産声が上がり男の子が生まれた。

 老夫婦はこの子をたいそう可愛がった。この子は利発で話ができるようになるとすぐお金を使うことを覚え、幾らやってもすぐ使ってしまって足りなくなる。この子が七、八歳の時、屋敷の表門と二の門の間にある目隠し塀を修理した。
 この目隠し塀は磨き煉瓦を積んで築くが一個の煉瓦の下に四枚の銭を石灰で練り込み頑丈に築く。それを見たこの子は富豪の老父に「塀の中に練り込んだお金をあたいが大きくなって欲しくなったらどうやって取るの?」と聞いた、これを聞いた老父は思いをめぐらし、“この子はあの人参商人が転生し、わしに報復に来たのではないか”といったんは思ったが、この子が可愛くてしょうがなかった。この子が欲しがれば星だって月だってとってやりたいと思うほどであった。

 やがてこの富豪の老父がなくなると、この屋敷の主はこの放蕩息子になりどうなったか?息子は一回の賭博に油屋の店、質屋の店舗を賭け、相手に「あんたの負け」と言われても「よし」と言って油屋でも質屋の店舗でもみんな人に渡した。こうして三年も経たぬ間にこの富豪の財産は全て賭博の抵当になって失われ、この放蕩息子の行方も分らなくなった。こうして富豪の財産は人参商人が転生した放蕩息子に弄ばれて尽きた。                                                          (李占春故事選)