534 十個の金塊
山東に住む作男が貧乏で暮らしていけなくなり、ほかの土地で暮らしたいと主人に言った。主人は作男が日頃から真面目だったので外へ出て行くことを止め、新たな荒地を耕すように言った。そこで作男はその荒地を畑にしょうと土を掘った。
すると、延板になった七個の金塊を掘り当てた。こんな大儲けをした作男がまだここに残るわけがない。作男はすぐ主人に作男をやめてやはり外の土地に行くと言った。主人は作男がやめたって困ることもないからすぐ承知した。
作男は主人に今までの労賃を清算して貰い、それで荷車と行李を買い、外の土地へ行く旅支度をした。先ず車に茣蓙を敷きその下にあの金塊を隠し、その上に行李を載せて縄で縛った。だが、それでも心配で懐に隠そうと思った。でも、夜、布団を被って寝る時に金塊が懐からはみ出してしまわないかなどと、いろいろ考えた末、最後に七個の金塊を車の荷台の板の下に隠し、やっと安心して山東の家をあとにした。
山東から外の土地へ行く道のりは遠い。作男は一ヶ月ほど歩いても、住む家は定まらず途中で宿に泊まることにした。ある日、“董家老店”という宿を見つけて中へ入ると、宿の番頭はひと目でこの作男の車には金塊が載せてあると見抜いた。昔から重さ二両の金塊を持てば足に土がつき、半斤の重さなら腰まで土の埃がつく、もし重さ一斤を越せば頭まで土埃を被ると言い伝えられている、この客はその通りだ、“こりゃ、大変なお客だ”と念いりに様子を探り、作男の車に金塊が載せてあることを突き止めた。人は宿の中、車は外に置くのだから、作男は車を宿の中に入れることはできない。真夜中になって宿の主と番頭は荷車の台の下から七個の延板の金塊を盗み出した。
翌日、作男は何も疑わず車を引いて宿を出たが昼になっても別に疲れも出ない、そこで作男はふと、“今日は車を引いているのに汗も出ない、車には金塊の重さがかかっているのに車が軽がる引けるのはどうしてだろう”と、車の台の下に隠した金塊を見ると一つもない。作男は盗まれたとは気がつかず、落としてしまったのかとがっかり、“俺は福の神に見放されてしまった、これでは外の土地へ行っても無駄だ”とまたもとの山東に引き返した。
もとの主人は作男が戻って来たので「お前どうして戻って来たんだ」と聞くと、作男は慌てて、氷が張った河に行き当たって前に行けなくなったと嘘をついた。主人は「わしの処は作男が一人ぐらい多くても少なくてもどうってことないから、お前、戻って来たならまたあの荒地を耕せばいい」と言った。そこで作男はまたもとの荒地を掘り出すとまた金塊が一つ出た。
作男はすぐ作男部屋に戻って金塊を行李の中に隠した、ところが丁度この時、主人が作男の様子を見ていて「お前、行李に何か化け物でも隠したのか」と問い質した。男は「いいえ、何でもないですよ、ただのおもちゃです」と答えると、主人は「何でもいいから、わしに見せろ」と迫るので作男は仕方なく掘り出した金塊を出した。「へえ!金塊じゃないか、何処にあったんだ?」と主人が責めるので作男は荒地から掘り出したと本当のことを話した。主人は「本当か、明日は二人で一緒に掘りに行こう」と言った。
そこで翌日、作男は主人と一緒に荒地を掘りまた一つ金塊を掘り当てた。これを見て主人は「こりゃ順に前へ掘り進めばまたきっと出て来る」と言った、するとまたすぐ一つ出て来た、主人が金塊を拾い上げて見ると、延板になった金塊の上に“金塊十個”と字が彫ってある、主人は嬉しくなって「金塊十個なら、三個掘っただけだからまだ七個あるわけだ、頑張ってまた掘ろう」と言うと、それを聞いた作男は掘るのをやめ、ツルハシも放り出して「やめた、やめた」と言った。
「どうして掘らないんだ」「もうありません」「もうない?ここにはっきり金塊十個と書いてある、まだ三つ掘っただけだからまだある」と主人は作男に続けて掘れと言いながら、金塊をあちこちひっくり返していると裏側にまだ字が彫ってあるのを見つけた“董店七個、主人二個、作男一個”「この董店七個の分はまだ掘ってないからわしらで半分づつ分ければいいんだ、お前早く掘れ」すると作男は「掘っても無駄、俺がもう董店へ七個持って行ってしまった」と言った、主人はそれで作男がどうして作男をやめてまた戻って来たのかが分った。 (李占春故事選)