533 他人の風水を借りる

 昔、広大な田畑を持つ金持ちの長者がいた。ある年、南方人がこの長者の家に来た。喋っているうちに二人はうまが合ったのか親しくなり、長者はこの南方人をしばらく滞在させた。南方人は毎日あちらこちらを見物していたが、しまいに山の中に普通の石とは違った石を見つけた。形はほかの石と変わりはないのだが、石の表面に小さな穴があいていて、そこから毎日金粉が出て来るのだ。この南方人はこの石を見つけると豚の固い毛で作った刷毛と赤い布の袋を用意して、一日一回、この刷毛で石から出る金粉を掃き集めて赤い袋に溜めた、こうして金粉が赤い布の袋一杯になると南方人は帰り支度を始め、帰る時に長者に「いろいろお世話になりましたから、いいことを教えて上げます」とこの金粉の出る石のことを話した、そして金粉を全部刷毛で集めて取ると、翌日はまた金粉が出て来ることもよく教えた。

 長者はこの石のある処と金粉の取り方を教えて貰うと、金粉を掃き集めに通ったが、一日に取れるのほんの少しなので長者は欲を出した。「一日に取れるのが耳かき一杯分じゃあしょうがない、この石の穴が大きければもっと取れるんじゃないか、よしこうしょう」と、次の日、長者は石を削る鑿を持って行った、先ず金粉を全部掃き取ってから持って来た鑿でこの石の穴を酒の盃ぐらいに深く大きくした。“こうすれば明日から一回に盃一杯分取れるから早く儲かる”と考えたのである。ところが翌日行ってみると、金粉は少しも出ていない、どんなに悔やんでも後の祭りだ。

 それから何年か経ってまたあの南方人がやって来た。そしてすぐ「わたしが帰ってから今までに金粉はずいぶん溜まったでしょう」と言った。長者は「いやそれが駄目でした、あなたが帰ってから三日目に金粉は出なくなりました」「それはおかしい、詳しく話して下さい」「わたしは金粉を早く沢山取ろうとあの石の穴を酒の盃の大きさに広げたのです、まさかそれで金粉が出なくなるとは思わなかったのです、本当にがっかりです」  南方人は長者と一緒に山へ行き、あの石を見ると膝を叩いて「アー、あなたは風水を壊してしまった、それで金粉が出なくなったのです」と言った。長者はこれを聞いてこの南方人は風水を判断できる人だと気づき南方人に「わたしの子孫が栄える宝の風水を選んで下さい」と頼んだ、南方人が承知すると、長者は「風水のよい処に祖先の墓地があると栄えると言いますから、やがて我が家から状元(国家試験一位合格者)が出る祖先の墓地をあなたの力で選んで下さい」と言った。それから長者は南方人を自分の持つ山林に案内してよい風水の場所を探して貰った。やがて南方人はここを祖先の墓にすれば家族の二人が状元に合格するという風水の場所を見つけてやった。長者は喜んで南方人の言う通り、ここに祖先の墓を移した。

 長者が祖先の墓を移すと、南方人は“わしが選んでやったこの土地は風水のよい処で長者の孫が状元に合格するがそれは二十年も先の話だ、長者は孫が状元に合格する前にわしに礼金を出さんだろう、仮に長者から厚い礼を貰ったとしても、状元に合格するのは他人でわしの家族ではない”と考えつくと南方人は一計を案じ、“そうだ、わしは長者のよい風水を借りて、状元を盗んでやろう”と考えた。南方人はそれを早速実行に移すことにして、家へ帰ると妻に「北方の友人に家族から二人の状元が合格する風水の墓地を選んでやったのに、わしには何の得もないから、わしらで状元を一つ頂戴してしまおう」と言った、妻が「どうすればいいの」と言うと、「お前がわしの言う通りにしてくれればいいのだ」と言って、南方人は妻を連れてまた長者の家へ行った。

 南方人が妻を連れて長者の家へ行くと、長者は南方人は一回目は“金粉の石”を教えてくれた、二回目は家族が状元に合格するという祖先のよい墓地を選んでくれた、三回目は妻も連れて来たからまたいい事を持って来たに違いないと思い、前よりももっと手厚くもてなした。南方人は妻と長者の仲が悪くないのを見ると、「今度来たわけはわたしが二三ヶ月か半年かかる大きな商売する間、妻をあなたの家へ預けておけば安心だし、妻に北方を見物させることも出来ると思って来たのです、どうかわたしが留守の間、妻を宜しくお願いします」と言って商売に行ってしまった。長者はそれを別に何とも思わず、南方人が商売に出かけたあとも、その妻には美味しい料理でもてなした。

 ところで南方人の妻は器量よしで、長者を甘い声で「兄さん、兄さん」と馴れ馴れしくああだこうだと言い寄って、色目を送り長者の心をくすぐった。それに女として男に迫るのが巧く、長者は次第に南方人の妻の誘惑に惑わされて、二人はとうとう親しい仲になり、二三ヶ月して南方人の妻は長者の子を妊娠した。これが南方人の計略で、実はちょくちょく妻と連絡していて妻が長者の子を妊娠したと分るとすぐ引き返して来た。長者は南方人が帰って来ると恥かしくてまごまごした。昔から“友の服は借りても、友の妻は寝取らない”と言うし、またこの事を南方人の妻が夫に告げるかも知れないと心配したのである。けれども南方人は何時もと少しも変わらず、数日泊まって妻が確かに妊娠している事を確かめると長者に別れを告げ、妻を連れて南方の家へ帰った。

 南方人とその妻が家へ帰り、妻が子を生むと、前後して長者の息子の妻が子を生んだ。この子は二人とも聡明で、七、八歳から書を読み、それぞれ私塾で学習したが一度学習すればすぐ理解し、半年で私塾をやめ別の優れた師について学習した。二人は二十歳になると科挙を受けに都に行き、南方人の子は一席の状元、長者の孫は二席の榜眼に合格した。                                  
                                                          (李占春故事選)