531 妾で官を失う

 昔、科挙を何度受けても合格せず貧乏暮らしを続ける男がいた。男は貧乏には勝てず、とうとう科挙をあきらめ、不細工な女を娶り所帯を持った、素寒貧で女房の器量がどうのこうのと言ってはいられなかったのである。それでも二人は夫婦になって何とか暮らして行った。

 ある年の正月、夫になった男はふと占い師に人相を見て貰う気になり、占い師を家に入れて見て貰った。占い師はこの夫をじっと見ながら「あなたには官吏になれる運が向いている、今、科挙を受ければ必ず合格する」と言った。夫が「わたしにそんな運があったら、どうして今まで合格しなかったんだ、おだてるなよ」と言うと、占い師は「おだててなぞいません、今度こそあなたに運が回って来たのです、それはあなたの妻が鳳凰の吉相で、あなたにはその妻の福分がついたのです」と言った。夫は半信半疑であったが官吏になりたい気持ちは変わっていないのでまた借金して旅費を工面し都へ科挙を受けに行った。

 すると今度は本当に科挙に合格し、夫は朝廷からある県の高官に任じられた。だが夫は小心で難しい事柄の裁決があるとすぐ妻に頼んで上手く裁く方法を教えて貰い、どうにか面目を立てていた。それが却って朝廷に認められ、三年で夫は県知事に任ぜられた。
 さて、県知事になると更に高い地位の官との交際が多くなり、さまざまな人との応対もあり、妻は県知事夫人の品位を求められ、人前にも出なければならない。夫はその度に妻の不器量が気になって妻が出て来ると嫌気がさした。
 やがて、夫はそれが我慢できなくなり、妻に「わしは今、県知事になって常に部下や上司との付き合いがあり、客人も多い。そこへ不細工なお前が出て来るのはどうも体裁が悪い、わしは別に一軒持ちたいがどうだ?」と話した。妻は“夫が偉い県知事になってそう考えるなら、もうあたしには止められない、夫の考えに従うしかない”と思い、すぐ「あんたの好きにしたら」と返事をした。そこで県知事の夫は美貌で知識もある女を第二夫人として別宅を持った。
 妻は“あたしは本妻、あの女は妾なんだから別にかまうこともないが、何処にでもあの女がでしゃばり、あたしは家に引っ込んでいるなんて本妻として何の意味もない”と考えれば考える程、癪になり夫に「あんたは県知事の仕事を勤めなさい、あたしは年をとって、却ってあんたの足手まといになるから、しばらくあたしは実家に帰る」と言った。
 県知事の夫も実はそれを願っていたから口先では妻を引き止めはしたが、すぐ大金を妻に渡して承諾した。そこで妻は実家へ帰った。

 妻が実家へ帰ってしまうと、県知事はふと“科挙に受かり官になれたのは妻の福分”と言った占い師の話を思い出して不安になり、急いで下役に人相見の占い師を呼びにやってまた人相を見て貰った。占い師は県知事の人相をちょっと見て、夫の運と妻の運の繋がりを見るために夫人の干支、生まれ日と時刻を聞いた、県知事が第二夫人の干支、生まれ日と時刻を告げると、占い師は「あなたは昇進します」と言った。しかし県知事は占い師の言葉に納得せず、「何でも隠さずに言ってくれ」と言うと、占い師は「わたしは何を言えばいいのですか、ないことは言えません」と答えた。それを聞くと県知事はますます不安になって占い師に隠し立てをしないで本当のことを言えと迫った。
 占い師は仕方なく「あなた何軒家を持っていますか」と聞いた、県知事が本宅と別宅の二軒と答えると占い師は「ではさっき言った夫人の干支はどちらのですか」と聞いた、県知事が別宅のだと言うと、占い師は本宅の夫人の干支、生まれ日と時刻を聞き、そして「あなたが前に運がよかったのは本宅の夫人の福分のお蔭です、しかしもう昇進しません。官位が下がり身の危険もあります、一歩譲っても幸せな暮らしはありません」と言った。県知事はそれを聞いて、自分が今まで何年も官運に恵まれていたから、占い師の言う事は出鱈目だと、すぐ占い師を追い出してしまった。

 しかし、それから一年もしないうちに、県知事は間違った裁決を下したことを朝廷に知られ県知事の職を解かれまたもとのただの男になってしまった。男はあきらめきれずまた官職につきたくてもとの妻を訪ねて行った。しかし妻は「あんたは官を追われ、あたしはあんたに追われ村の女になった、これからはそれぞれ自分の道を行くしかない」と言った。こうして、それからこの男は再び官職につくことはできなかった。   
                                                          (李占春故事選)