528 首吊り横丁
小南関を下がった処に“首吊り横丁”と呼ばれる路地がある。人は首吊り横丁と聞けばびっくりするだろうが、その由来を聞けば何も恐ろしい処ではない。
昔、小南関のはずれに老母と息子が住んでいた。息子は野菜の行商人で毎日、朝早く出て夜遅く帰る真面目な働き者であった。老母も他人の縫い物や洗濯をして幾らかの金を稼いでいた。やがて息子は成人して地元の人の世話で女房を貰った。なかなかいい女房で朝早くから夜遅まで何でもよくやり、亭主を愛し老母に尽くした。それで暮らしは日ましに楽になっていった。
ある日もうすぐ夕飯だと言う時、女房の実家の母が重病で娘に来て貰いたいという言伝を人が告げに来た。女房はそれをすぐ老母に話すと、老母は嫁の実母が病気ならと何も言わず、女房に急いで夕飯の支度をさせ、息子が帰ったら夕飯を済ませてからお前を送らせると言った。
その頃の人は幽霊、妖怪がいると信じていたので、夜暗くなると怖がってみんな外に出ない、それでも急な用事のある人は仕方なく暗い道をビクビクしながら幽霊に会わないように行ったものだ。だから老母は女房を一人では行かせたくなかったのだ。
それで女房は早々と夕飯を作り亭主の帰るのを待ち、夕飯を食べ一緒に実家へ行くつもりにしていた。けれどもいくら待っても亭主は帰って来ない、もうすぐ夜半だというのにやっぱり帰って来ない、これはもう帰って来ない、何時ものように野菜の商売が忙しくあっちへ泊まって、明日の朝一番で商売するつもりなのだろうと老母は女房に話した。
その夜はちょうど月の初めの闇で月はなく驚くほど真っ暗、でも女房は実母の病気が心配で気がきではなく家から出たり入ったりしていたが、とうとう老母にあたし一人で行きますと言った、老母は嫁の実母の病気が酷いのに嫁を実家に帰さなかったと後で恨まれてもしょうがない、それに嫁の実家も遠くではないから行かせてやろうと思った。
若い女房はこんな真夜中に外に出るのは初めてで化粧もせず、花柄の袷の上着を着て、老母が持たせてくれた鶏の卵を持って急いで出かけた。
さて、女房はある路地を曲がった時、人にぶつかった、ぶつかったのは行いの悪いならず者で、博打に負け急いで家へ金を取りに行こうとしていた男であった。男はまさかこの夜更けに小奇麗な女が向こうから懐に飛び込んで来るとは夢にも思わず、こいつはついていると女房を抱きすくめた……、女房はいきなり抱きつかれてびっくり、男を突き飛ばして逃げた。男はあおむけに突き飛ばされながら、この若い女のふっくらした唇をぬすんでやろうと、起き上がるとすぐ追いかけた。
女房は男が追いかけて来るのを見ると恐ろしくなったが、素早く驚いてばかりいてはいけない、何かいい方法を考えなければと気がついた。どうしよう、そうだ人は夜中の幽霊を怖がるからここはあたしが幽霊に化けてこのならず者を脅かしてやろうと考え、塀の角に隠れ、思い切って舌の先を噛んで血を出し、その血を頬の回りにこすり付け、頭の髪の毛をザンバラにして、舌を長く伸ばし、両手に鶏の卵を握りしめこのならず者の男を待ち構えた。
一方、起き上がったならず者はこれは“しめた”と走りだしたが、アッというまに女の姿が塀の角で見えなくなった。男がそっと塀の角に近づくと、「グワー」という奇声とともに髪を乱し唇から血を滴らせ長い舌を出した“女幽霊”が出た。ならず者はびっくり仰天、とたんに小便を漏らし、“女幽霊”の手から飛び出した真っ白い丸い球が頭にあたるとひっくり返って気を失った。女房はこれを見ると手早く髪を直し、顔を拭いて、走って実家へ逃げて行った。
翌日の朝、ここを通りかかった一人の爺さんが塀の角に男が倒れているのを見つけ、気になって男の前を行ったり来たりしてみたが男は少しも動かない、爺さんは思いきって傍により様子を見てびっくり、男の顔色は真っ白で血の気がない、それに顔にはねばった黄色いものがついている。爺さんは男の脈を診ると微かに動いているので呼んだり揺すったりしたが男は目を開けない。そのうちに周りに大勢の人が集まり、その中にこのならず者の近所の人がいて大声で男の名を呼ぶとやっと男は気がついて目を開けようとしたが、瞼にべったり卵の黄身がついていてどうしても目が開けられない、ぐったりして「だ……駄目だ、こ……この横丁には、首吊り幽霊が……」と情けない声を出すと、男はまた昨夜の血のついた赤い舌に乱れ髪の首吊り幽霊を思い出し「アッ!」と無惨な声を上げて死んでしまった。
それから、この横丁には首吊り幽霊がいると噂になり、噂が噂を呼んでこの横丁を気味悪がり、夜になるとこの横丁を抜ける人がいなくなり、この横丁を“首吊り横丁”と呼ぶようになった。 (中国民間文学集成遼寧巻沈陽市巻上)