524 笛吹き二郎

 昔、ある家の二男なので人々から二郎と呼ばれる若者がいた。二郎は兄夫婦と一緒に暮らし、弾く吹く歌うのが好きで上手であったが、嫂に邪魔にされ仕方なく、好きな笛だけを持って家を出た。北に向かって真っ直ぐ歩き、遠い山里に着くとそこに掘建て小屋を作って住んだ。
 ある晩、火を焚いて酒を飲み、笛を吹いた、その美しい笛の音は本当に人の心に響くほどであった。やがて笛の音が佳境に入った時、その美しさに惹かれたのか、一人の老婆と娘が訪ねて来た。二郎が「あなた方はどちらから来たのですか」と聞くと老婆は「この山の麓の者です、あなたの吹く笛の音に魅せられて参りました、これはわたしの娘で楊梅と申します」と答えた。二郎はますます嬉しくなって酒を飲み笛を吹いた。

 こうして老婆と娘は三夜続けて二郎の掘建て小屋へやって来た。三日目の晩、二郎老婆娘の三人で火を囲んで話していると、突然大きな男が入って来た、身のたけ一丈あまり二郎よりはるかに大きい。その大男を見ると老婆は娘を連れていなくなった。二郎が不思議に思っていると、大男は盃の酒を飲み、もっと大きな妖怪になり二郎はびっくり仰天、妖怪の顔は火鉢のよう、手はまるで箕のように大きく口は人を呑むほどだ。これはいったい何の妖怪だ、俺が退治してやろうと、二郎は大きな碗に酒を注いで妖怪に差し出すと妖怪は一気に呑みほし、二郎がまた一杯また一杯と酒をつぐと妖怪はぐいぐいと呑む。二郎は酒を注ぐ間に大きな板に炭火をのせ、酔った妖怪の頭にぶちあけた。すると妖怪は「ウアー」と叫んで走り出し姿を消した。

 二郎は眠れないままに朝をむかえると昨夜妖怪の頭にぶちあけた炭火の灰のあとをつけて行った。すると山の奥の一本の柳の枝に炭火の残りが挟まって柳は枯れていた。二郎は「あいつは柳の精だったのか、それであんなに大きかったのだ」と独り言を言った。夜になって二郎はまた火を起こし酒を飲み笛を吹いていると、また老婆と娘が来た。
 老婆は二郎に「あなたはわたしたち一家の恩人です、わたしたちは救われました」と言った。二郎は何のことかわからず驚きながら「わたしがあなたたちの家族を助けたってどう言う意味ですか」と聞いた、すると老婆は「あの妖怪はあたしたちの家族を食べたのです、その妖怪をあなたが退治してくれたのですから本当にあなたに感謝しているのです」「妖怪を退治するのは当然です、お礼を言うことはありません」「いいえ、いいえ、わたしは感謝で一杯です、あなたはまだお独りのようですが、わたしの娘を嫁にしてくれませんか」と言った。二郎は手を振って「いいえ、私はまだ独りでいたいのでどうか別の人を考えて下さい」と答えた、すると老婆は少し不満そうに「あなたがこの結婚に同意してもしなくてもこの結婚は決まりです」と言って楊梅を二郎の胸に押しつけた。二郎は仕方なく同意して二郎と楊梅は老婆に礼を捧げ結婚し二人は深い山里の掘建て小屋で暮らし始めた。

 一年が過ぎて楊梅は男の子を生んだ。二郎は兄の様子を見に行こうと言うと、楊梅は笑いながら「それなら、あなたがこの子を負ぶい目をつぶっていればあたしがあなたを背負って連れて行ってあげる」と言った。二郎がそうすると果たして楊梅は雲に乗って風の中を飛ぶように走った。「目を開けて」と言う楊梅の言葉に二郎が目を開けると兄の家の前で兄と嫂が出て来た。兄弟は一年会っていなかったので懐かしかった、二郎は別れてからの事を話した。嫂は食事の支度をして団欒のひとときを過ごした。
 朝になると嫂は二郎夫婦に「あんた達は帰って来たが、木は枝分れするもの、あんた達分家しなさい」と言った。兄は「二郎、何を持って分家するか」と聞くと嫂はすぐ「一年も帰って来なかったのに何にも持って来ない弟に何をやると言うの」と言った。楊梅が「兄さん、嫂さんあたしたちは麦の干し場の土地があればいいです、あとは何もいりません」と言うと嫂は承知した。二郎は赤ん坊を抱いた楊梅を連れて、固い土の麦の干し場に小屋を立てて一夜を過ごした。二郎は楊梅に「こんな固い干し場の土に何を播けばいいかな、何を植えても育たないだろう」と言うと楊梅は「明日あんた市場で鋏と五色の紙を買って来て」と言った。

 翌日、二郎が市場で鋏と五色の紙を買って来ると、夜になって楊梅は「あなた子供と先に寝て、あたしはしばらくして寝るわ」と言って五色の紙を鋏で剪って家、塀、車、馬、鶏、アヒルなど沢山の剪り絵を作った。それから二郎を起こし「あたしの剪り絵はどう?」「よく出来ている」「あたしたちこれだけ揃えばいいでしょう」「よかったよかった」すると楊梅はその剪り絵を吹くと、不思議、剪り絵はみんな本物になった。二郎と楊梅は子供を連れてその家へ入った。 
 翌朝、嫂は門を出てびっくり、一夜のうちに立派な四棟の家、塀が建っている、これは二郎が法術で建てた家に違いないと夫に知らせた、兄もこれを見てびっくり、夫婦でこれはどうしたのだと二郎に聞いた、「私は法術は使えない、これは妻の法術です」と二郎が答えると兄は「お前の妻に俺たちの家も建てさせてくれ」と頼んだ、すると嫂が出て来て「それよりあたしたちの家と取り換えればいいのよ」と言った。二郎が「私の新しい家と取り換えるならいくらお金をくれる?」と聞くと、嫂は「あたしたちは身内なのにどうしてお金をとるのよ」と言った。そこへ楊梅が来て家を取り換えることに同意し、後で紛糾しないように証文を書いて家を交換した。

 やがて二郎の子の一歳の誕生日が過ぎたある晩、楊梅は「あたしは普通の人間ではありません、あたしは今日、用事で母の所へ帰りますから、子供にしっかり勉強させておいて下さい。もし子供があたしを慕ったら、あたしは一本の糸を繋いで置くからその糸をたよってあたしを訪ねて来て下さい」と言って楊梅は消えた。

 それから七年経ったある日、二郎の息子は「みんなはあたいを母無し子というが、あたいのおっかさんは何処にいるの、あたいはおっかさんに会いたい」と言った。「お前のおっかさんはお前の一歳の誕生日にいなくなった、おっかさんに会いたいなら連れて行くから今日は寝なさい」と二郎は言った。
 翌日、二郎は息子を連れて楊梅の繋いでいった糸をたどって深い山に入った。糸は山奥に続きその先は一つの石に繋がっていた。二郎はその石を押し開けようとしたが動かないない。一休みしてまた押しても動かない、どうしようもなくなって、二郎は息子に「石が開かなければ入っていけない、あきらめて帰ろう」と言うと息子はどうしてもおっかさんに会いたいと泣き出した。

 二郎も万策尽き腰に挟んだ笛を取り出して吹くと不思議不思議、石がひとりでに開き息子も泣き止んだ。二郎は息子の手をとって石の下に開いた洞穴に入って行った、始めは暗かったが行けば行くほど明るくなり、前に家が見え娘が出て来て「誰を探しているの?」と聞いた、二郎は今までの事を話した、すると娘は二郎と息子を門の中の庭に案内した、庭には二十人以上の娘がいた二郎は目をこすって見るとみんな妻の楊梅に見える、二郎はボーとしてしまった、この中の誰が妻の楊梅だろうか、もし間違えれば笑われてしまうと思っていると、その中から楊梅が出て来て「あたしたち夫婦だったのにどうしてあたしがわからないの」「みんな同じでわからなかった」「わたしは一人よ、あんた帰って兄さんと嫂さんに家を取り換えた事は もう戻せないと伝えて」と言って息子を抱いて愛撫すると二郎に渡し、「さあ、行きましょう」と言った。すると一瞬にもとの自分の家に戻った。だが兄夫婦と取り換えた家も塀も馬車も鶏もアヒルもなく、またもとの麦の干し場になっていた。                                            (中国民間文学集成遼寧巻沈陽市巻中)