523 黒息子
昔、子供のない老夫婦がいた。老夫婦は毎年息子や娘を夢みて大晦日になると老婦は餃子を作り大きなお碗に盛り、流し台に置き、笊やお鍋を叩きながら「白娘、黒息子、早く出て来て餃子をお食べ」と唱えた。子がなく寂しい老婦は若い時から大晦日の晩にこうしてきたがとうとう子供は授からなかった。
ある年の大晦日の晩、老婦がまた餃子を大きなお碗に盛って、流し台に置き、笊と鍋を叩きながら「白娘、黒息子、早く出て来て餃子をお食べ」と唱えていると、餃子を盛ったお碗の後ろの壁の隙間から太った可愛い手が出て来て“サアッ”と餃子のお碗をさらっていった。それを見た老婦は大喜び、小さな手があればきっと小さな子がいるに違いない、これは神様があたしたち夫婦に授けてくれた黒息子だと嬉しくなって「お前さん、お前さん早くおいで、あたしたちの息子がいるよ」と叫んだ。
老夫はちょうど庭で福の神を迎える爆竹に火をつけようとしているところで、老婦の大きな声に驚き「お前、何だ大きな声をだして?」と聞いた。「あたしたちの息子だよ」老夫はからかわれたと思い「ふざけたこと言うな、お前は子供を生んだことないじゃないか、それとも石の割れ目から子供が出て来たというのか」と言った。すると老婦は壁の隙間を指して「石の割れ目じゃない壁の隙間だよ、この壁の隙間から小さな手が出て餃子を持っていったんだよ」と言った。老夫は「ハハハ、壁の中に鼠の親玉でもいたんだろう、お碗はきっと鼠がくわえて逃げたんだ」と笑った。
老婦は「お前さんも頑固だね、嘘と言うならもう一度試してみようか」と言って、また餃子をお碗に盛って、流し台に置き「白娘、黒息子、早く出て来て餃子をお食べ」と唱えた、するとまた小さな手が壁の隙間から出て来た、その時、咄嗟に老夫がその手を掴んで引っ張り出すと、テカテカ光る眞裸な小さな子が笑いながら飛び出して来て老夫婦にピョコンと頭を下げ可愛い声で「おとっつあん、おっかさん」と呼んだ。老夫婦は喜びのあまりに言葉も出なかった。その日から黒息子は老夫婦の息子になり、老夫婦に孝行しますと言い、老夫婦もこの息子を可愛いがった。
瞬く間に翌年になったがその年は日照りで凶作、小作人は地代を払えば食べる物がない。ところが地主の大白眼は腹黒で小作人の食べ物のあるなしなどおかまいなく、ならず者を引き連れて一軒一軒の小作人の地代を取りに回った。それでどの小作人の家でも子供は泣き、女房は悲しみにくれた。ある日、黒息子が薪を取りに行った留守に大白眼はならず者を連れて老夫婦の家に来て、地代の穀物を取り上げ、地代の不足分として戸棚、鍋、碗、盆などを馬車に乗せて持って行ってしまった。
黒息子が帰ると老母は床に座って泣き老父は涙を拭いていた。黒息子は何があったのかすぐわかり「悪者は生かして置けない、俺がケリをつけて来る」と言って走り出した。
黒息子が大白眼の屋敷に駆けつけた時、ちょうど三日月が出た。黒息子は人の二人分の高さの塀を乗り越えて庭に入り厩舎から四頭立の馬車を牽き出した、そして穀物倉から高粱八石を出して馬車に積み、手を上げて表門を指すと門が開いた。それから黒息子は棗の種くらいの小人になり馬の耳の穴にもぐり込んで、走れと叫ぶと四頭馬車は走り出してたちまち我が家へ帰った。これに驚いた老父母は「息子や、白家は大金持ちで役人をとりいれればわしら力のない者ではかなわない、早く馬車と高粱を返した方がいい」と言った。しかし、黒息子は「おとっつあん、おっかさん、心配ないよ、俺はあいつをやつけてやる」と言った。
そのうちに大白眼は手下を連れ、提灯で四頭馬車の轍を照らしながら追い駆けて来た。そして黒息子の家で四頭の馬、車に積んだ高粱を見つけると「やい黒息子、よくもわしの馬車と高粱を盗みやがったな、みんな黒息子をひっ捕まえて役所へ引き立てろ」と叫んだ。すると黒息子がならず者たちを指さすと男たちは立ったまま固まって動けなくなった。黒息子はケラケラ笑いながら大白眼に向かって「なくなったお前の馬車はどんな馬車だ?」と聞いた、「花駕籠馬車だ」「いなくなった馬は?」「白馬だ」「盗まれた穀物は?」「紅高粱だ」「よーく見ろ、お前の目は節穴か」と黒息子が馬車に息を吹きかけた。するとアーラ不思議、白馬は黒馬、紅高粱は雪のように白い粳米、花駕籠馬車は一輪車に変わっていた。大白眼はびっくり、壁の隙間から出て来た黒息子の呪いにはわしは負ける、明日役所に訴えてやっつけて貰おうと考えた。
翌日、大白眼は黒息子の盗みの一件に尾びれをつけて県の法廷に訴えた。大白眼は始めから県知事は訴えを十分聞いてくれると思っていた、ところが県知事は日頃から大白眼が貢物を持って来ないのが不満だったから大白眼の顔を見ると「お前はわしが着任して何年になるか知っておるか」と聞いた、「二年でございます」「衛門の向きはどっちだ」「南でございます」「ならば嘘をつくなよ」「わかりましてございます。これからは県知事様によくよくお尽くし致します」「何を尽くす?」大白眼は糞の中の豆でも拾うほどの欲張りだから金は出したくない、少しだって損をしたくない、だが県知事が自分に代わって黒息子をやっつけてくれなければ何にもならない、ここは我慢するしかないとさんざん考えやっと「鶏一羽、アヒル二羽、酒瓶三つお送りします」と言った。県知事は大白眼のケチが癪にさわり、堂木を“パン”と打ち「無礼者、わしは民を愛すること子の如く、なのにお前は法廷に賄賂を送ると言うのか、下がれ四十叩きにしてやる」と叫んだ。
慌てた大白眼は県知事の様子を探りながら「清廉潔白なる県知事様、先程は口がすべりました、酒と鶏、アヒルではなく白銀二百両でございます」と言い直した。
それを聞くと県知事はにっこり、下役に命じて黒息子を法廷に引っ張り出し、堂木を“パン”と響かせ「黒息子というのはお前か」「はい、県知事様」「お前は白大尽の馬車と高粱を盗んだな」「盗んでいません、大白眼のでたらめです」「嘘つけ、お前は貧乏な独り者だが金持ちの白大尽がない事を言うわけがない。」「県知事様、白家は大尽ですが我が家はもっと大尽です」それを聞くと県知事は目を光らせ「早く本当の事を言え、お前の家には何があるというのだ」と言った、黒息子は嬉嬉と笑いながら「我が家には良田千町歩、牛馬は群をなし美人美女に溢れております」と答えた。それを聞くと県知事は頬をなで「お前はわしが着任して何年になるか知っておるか」と聞いた、「二年でございます」「衛門の向きはどっちだ」「南でございます、県知事様もう何もおっしゃいますな、わたくしはあなた様に差し上げる物をみんな持って来ました」と黒息子は答え外を指した。
すると大白眼の正妻と第二妻、第三妻が金銀財宝を一杯のせたお盆を捧げて艶やかに県知事の前に進んで跪くと色っぽい作り声で「県知事様に捧げます」と言った。県知事は金よりもっと女好きで三人の妻がなよなよと歩いて来るのを見ると、急いで法廷の壇上から降り、三人の妻の頬やお尻を撫でたりしたが、妻たちは逆らいもせず県知事にまとわりついた。
見ていた大白眼は怒りに震え、県知事が自分の三人の妻を抱き、唇をつけようとした時、とうとう我慢できず、獰猛な虎のように飛びかかり県知事を突き倒してしまった。それから二人は気が狂ったように殴り合い顔中傷だらけ血だらけになり、喧嘩で疲れ果てた犬と兔のようになってやっとやめた、県知事は怒りがおさまらず「大白眼、どうしてわしを殴るのだ」と言った、大白眼はハアハア喘ぎながら「あんたがわしの妻たちに手を出したからだ」「お前の妻は何処にいるのだ」「あそこにいるじゃないか」と大白眼が指すと、さっき県知事が抱いた三人の妻は何時の間にか三頭の雌豚に変わり法廷の壇上でブウブウ鳴き、三つの盆の金銀財宝は糞転がしと蝦蟇になっていた。そばに立っていた黒息子は猿の尻のように顔を赤くした県知事と大白眼を眺めて笑っていた。
県知事はその場を何とか取り繕うとした時、黒息子が地面を指すと地面が大きく裂け、県知事と大白眼がその裂け目に落ちると裂け目は塞がった。
(中国民間故事集成遼寧巻沈陽市巻中)