522 猟師の娘
昔、ある処に猟師の夫婦と阿米という可愛い娘が住んでいた。妻は心優しかったが夫の猟師は心が曲がっていた。
ある日、猟師がリスを捕って来た、妻が「このリスは阿米に食べさせよう」と言うと、猟師は「俺が食べる」と言って、火を起こしリスを焼いて食べてしまった。また、猟師が雉を捕まえて来た時、妻が「雉はとって置いて阿米に食べさせよう」と言うと、猟師は「俺は腹が減っている」と言ってこの雉を食べてしまった。
ある時、夫婦で山へ柴刈りに行き何でか夫婦喧嘩になり、猟師は妻を殴り、崖から突き落としてしまい、家へ帰ると阿米に「おっかさんは転んで崖から落ちて死んでしまった」と言った。阿米は死ぬほど泣いて、毎日毎日、村の崖の大きな石の上から下を眺めて泣いた。阿米が今日も泣いていると足もとがモゾモゾする、見ると一頭の山羊が目にいっぱい涙をためて阿米の足を舐めているのだった。阿米はこの山羊はきっとおっかさんの生まれ変わりだと思い、夜暗くなるまで山羊を抱いていた。それから毎日阿米は夕方になると村の端の大きな石の下に行き、この山羊と遊んだ。
やがて猟師は娘を連れ子した後妻を娶った。後妻の娘は阿米と同じ年だったが器量が悪く、顔中あばただらけ、肌は松の皮のよう荒れ、目は桃の種のようだった。後妻と娘は美しい阿米に嫉妬して口惜しがり、阿米に朝早くから水汲み、炊事、洗濯など辛い仕事をさせては罵った。阿米は死んだ母を慕い、暇があれば村の端の大きな石の下で山羊に後妻に苛められていることを訴えた。
後妻は阿米が毎日毎日何処かへ行くのを怪しみ、ある日、そっと阿米の後をつけ、阿米が山羊を抱いて泣いているのを見つけた。そして山羊はきっと阿米の母親が変わったのだと思い、家へ帰り猟師の前で「アイヤヤ、あたしは死ぬほど体が痛い、目は眩み、手足は痺れ、お腹がひっくり返る、アイヤヤ……」と転げ回った。猟師は薬を沢山用意したが後妻はそれを飲まず、「あたしの病気は山羊の脳みそを食べれば治るから、早く山羊を捕まえて来て」と言った。猟師は急いで山羊を捕まえに出かけ村のはずれを通りかかると、阿米が山羊を抱いているのを見て走り寄り、山羊を打ち殺してしまった。後妻は猟師が山羊を打ち殺したことを知ると床から起き上がり「あたしの病気はもう治った、この山羊は犬に食べさせてやれ」と阿米に言った。阿米は山羊を抱いて外に出ると、山羊を自分の服で包み自分の部屋の下に埋めた。
翌日、山羊を埋めた処から一本の芭蕉の木が生え芭蕉の葉は太陽の光を浴びキラキラと金色に輝いた。人々がみんな見に来ると芭蕉の葉は全部金であった。これが噂になって広がり、もっと大勢の人がこの不思議な芭蕉を見に来た。皇帝もこれを聞いて大象に乗って見に来て、「この芭蕉は誰が植えたのか、植えた者に褒美をとらせる」と言った。すると後妻は自分の娘を指して「わたしの娘が植えました」と答えた。皇帝は「それでは娘に芭蕉の葉を十枚摘ませてわしに持って来させよ」と言った。後妻の娘が芭蕉の木に近寄ると、芭蕉の金の葉はたちまち枯れて、みるみる牛の糞に変ってしまった。皇帝は怒って「この醜女はなぜわしに嘘をつくのだ、お前が植えたのではあるまい」と言った。
その時、阿米が恐る恐る皇帝の前に進み「わたくしが植えました」と言うと、皇帝は「それでは芭蕉の金の葉を十枚わしに持って来い」と言った。阿米が芭蕉の木の下に立ち手を伸ばすと芭蕉の金の葉は自然の阿米の手に落ちた。それを見た皇帝は喜び「この木を植えたのはこの娘だ、娘を連れ帰って将来はわしの妃にする」と言って兵士に命じ阿米を皇帝の乗った大象に抱き上げ皇宮へ帰った。
後妻は自分の嘘が暴かれて怒り、金の芭蕉を伐り倒そうとした、猟師は慌てて止めようとしたが逆に後妻に斬り殺されてしまった。そして芭蕉の木が伐り倒された時、一羽の金色の金糸鳥が木の根から飛び立った。 それからまた後妻は悪だくみを考え、皇宮の阿米を訪ね「家はあんたがいなくなって寂しくなってしまった、泊まりに来ておくれ」と言った。優しい阿米は後妻の言葉を信じ、兵士に守られて元の家へ行った。その晩、後妻はわざとらしく鶏を料理して阿米をもてなし毒を入れた酒を勧めた、何も知らずにそれを飲んだ阿米はたちどころに死に一羽の美しい鳥となって飛び去った。
何日か過ぎて阿米が恋しくなった皇帝は兵士を迎えにやった。後妻は娘に阿米の衣装を着せ、紗の被り物であばたの顔を隠し、金銀で飾られた大象に乗せ兵士に守らせて皇宮に帰した。皇宮に着き皇帝が阿米の被り物をとると、ヤヤ、これは何処から来た醜女だ!とびっくり、「お前は誰だ、どうして阿米の衣装をつけているのだ?」と聞いた。「皇帝、わたしがあなたの阿米、将来の妃です」「違う、お前はわしの阿米ではない、わしの阿米は仙女のように美しい、そんなあばたの顔ではない」「アア、不幸せなわたし、家に帰ったら顔にあばたができてしまったのです」「違う、わしの阿米は美しい柔肌で、お前のような厚く硬い松の皮の皮膚ではない」「村で毎日毎日、貧しい家へ行き炊事したからこんな皮膚になってしまったのです」「違う、わしの阿米の瞳は美しく澄んでいるのにお前の目は濁って桃の種だ」「わたしは毎日皇帝が恋しくて沢山たくさん涙を流したから、涙で目が腫れてしまったのです」と後妻の娘はさんざん出鱈目な事を言った。
そこで皇帝は「それでは今晩わしに十色の糸で織り込んだ頭巾を編んでくれ」と言った。皇帝は十色の糸を織り込んだ頭巾を編めるのは世界に阿米しかいないと思っていたのだ。後妻の娘は皇宮の機織の部屋に入ったが十色の糸を織り込んだ頭巾をどうして織ったらいいかわからずぼんやりしてしいると美しい鳥が入って来て、機織の上で羽ばたきながら巧みに十色の糸を織り込んだ頭巾を編み始め、とうとう夜明けまでに十色の糸を織り込んだ頭巾を編んでしまった。すると後妻の娘はその美しい鳥を棒で叩き殺して外に投げ出してしまった。夜が明けると後妻の娘はその頭巾を持って皇帝の前に進み「皇帝、わたしは昨夜、皇帝の求められた頭巾を編みました」と言った。皇帝は頭巾を見て目を疑った、その美しい頭巾は正しくあの阿米が編んだものであったからだ。実はあの美しい鳥は阿米で皇帝が頭巾を求めているのを知り、わが身の不幸も忘れ、すぐ皇帝の頭巾を編んだのだ、まさか編みおわって後妻の娘に殺され外に捨てられるとは……
ある日、貧しい老婆が道端に五つの光、十の色に輝く小さな石を見つけ、拾って家へ帰り袋に入れて壁に掛けておいた。翌日畑から帰ると何時も汚い家の中が綺麗に掃除され、水瓶には水が満ち、鶏、豚の世話もおわり、竈にはご飯が炊き上がっていい匂いがしている……老婆は物干し台に上って「誰がこんな親切にしてくれたんだい、その人はあたしの家にご飯を食べに来ておくれ!」と近所に向かって叫んだが、村人たちはみんな「犬も入らない汚い婆さんの家に誰が飯なぞ食いに行くか」と笑って答えた。でもこれが何日も続くので老婆はこの親切な人が誰なのかつきとめようと思った。
ある朝早く老婆は弁当を持って畑へ行くふりをして家を出ると、遠くまで行かずそっと家に戻り薪を積んだ後ろに隠れ、様子をうかがっていた。すると陽が山に落ちかかり、美しい夕日が老婆の家の壁に掛けた小石を入れたあの袋を照らすと、暗い老婆の家の中は昼のように明るくなり、袋から光とともに仙女のような美しい娘が躍り出ると箒を持って掃除をし火を起こし、豚に餌をやり鶏小屋を閉めた。娘は阿米であった。老婆は急いで後ろから近づき阿米の手を握り、道端に落ちていた小石がどうして娘になったのかを聞いた。阿米は自分の不幸をみんな老婆に話した。老婆は阿米の不幸を悲しみ一晩中抱き合って泣いた。朝になって阿米は「わたしはもう帰る家がありません、どうかわたしをお婆さんの娘にして下さい」と言った。老婆は「あなたがわしの娘になってもわしには何もしてやれない、やはりあなたは皇宮へ帰りなさい」と言った。
さて、皇帝はあの後妻の娘が来てから一日中気持ちが優れず病気になってしまった。ある日、皇帝は床に横になっていると、外から阿米の声が聞こえた、皇帝は何もかも放り出して「阿米、わしの阿米は何処にいるのだ?、何処にいるのだ?」と叫んだ、阿米は「皇帝、阿米は帰りました」と叫んで皇帝の傍に走り寄ると皇帝の病気はいっぺんに良くなった。しかし後妻の娘は阿米を押し出して、「皇帝、あの女に近づいてはいけません、あれは妖怪で皇帝は食べられてしまいます」と言った。阿米は「違います、わたしが本当の阿米です、天はその是非をお見通しです」と言った。
するとあの老婆が出て来て「皇帝、定めに従い二人のどちらが阿米でどちらが勝つか、槍で勝負させるべきです」と言った。皇帝も「そうだ、二人に槍を持たせろ」と命じた。しばらくして兵士が一本は鉄、一本は木の槍を持って来ると後妻の娘はすぐさま鉄の槍を掴み取り、木の槍を持った阿米を突き刺した。だが鉄の槍が阿米に当たると、鉄の槍は髪の毛のようにグニャグニャになり、後妻の娘は慌てて外に逃げ出した。それを見た阿米は木の槍を後妻の娘に向かって投げると、槍は後妻の娘の体に深く突き刺さり死んだ。
こうして阿米は再び皇宮に戻ったが阿米は何時もあの老婆の暮らしを助け、老婆の恩義を忘れることはなかった。そして一羽の金糸鳥を飼い、夜寝る時も離さず大事に育てた。
(西双版納哈尼族民間故事集成)