521 幽霊を娶る
昔、大きな河のほとりに張福という若者が住んでいた。両親は既に世を去り、貧乏暮らしで二十歳を過ぎても嫁の話がない。でも張福は何時も陽気で人つき合いもよく、村人たちが何かにつけて相談に来ると張福はその度に丁寧に話にのってやる。それで村人は張福を他人のように思っていなかった。
ある日、近所の爺さんが「福や、わしは年を取ってもう半分墓に入ったようなものだが、お前さんの結婚の祝い酒を飲むことができるかな」と言った。張福は「お爺さん、俺はお爺さんに俺の祝い酒を飲んで貰うし、孫も抱いて貰うから安心しなよ」と笑った。すると爺さんが「お前、わしの話を無にするなよ、何時お前の固めの盃が飲めるのかね」と聞くので張福は冗談のつもりで「お爺さん、今年の八月十五日に俺の祝い酒を飲んで貰うよ」と答えた。
爺さんはこれを真にうけて誰彼に話して回った。それが一から十、十から百と伝わり何日もしないうちに、張福は嫁を貰うと村中の噂になり、何人かの村人は祝いの品物を張福の家に届ける始末になった。 これには張福は困ってしまった、今になって冗談だったと言えば村人たちに呆きられてしまう、何処からか偽の嫁を借りて来るのも盆や茶碗を借りるような生易しい事ではない。張福はあれやこれやとさんざん考えたあげく、遠くの有名な絵描きに紙人形を作って貰う事に決めた。さて、紙人形はまるで本当の嫁さんのようにできたが、張福は人に見られたら笑われると、夜中にそっと紙人形を担いで帰った。
八月十五日になると張福は紙人形を床の上に寝かせ、花模様の布団を被せた。普通は誰だってどんな花嫁か、初夜の新居はどんな様子かと見たがるものだ。だが張福は花嫁を村人に見せず「花嫁は二三日前から病気になってまだよくなっていません、今、生姜湯を飲ませ、汗を出させているところです。今日はみなさん私のためにお出でになって下さって有難うございますが、花嫁の病気が治ってから二人でみなさんの家へ伺います、花嫁は今、本当に起きられず、みなさんに会えません、どうか許して下さい」と挨拶した。
村人たちも花嫁が病気ではしょうがない、またにしよう、それに晩くもなったと、村人たちはそれぞれ祝いの言葉を述べるとみんな帰った。村人たちが帰り、張福は茶碗や箸を片付け、暗くなったので灯をつけ、気を紛らわすように笑いながら紙人形に近づき、「汗が沢山でたかい?お客はみんな帰ったよ、お前も起きて少しご飯をお食べ」と言うと、床の上の紙人形が動いた、張福は目を疑いながらよく見ていると、紙人形は起き上がって座った。張福はアッ、紙人形がどうして娘になったのだと驚き、慌てて「あなたはどちらの娘さんですか、どうしてここに来たのですか」と聞いた。床の上の娘は笑って「あなたがあたしを負ぶって来たんじゃない、忘れたの、あたしが器量が悪いから嫌になったんじゃないでしょうね」と言った。
張福は何が何だかわからず、この娘さんとは何処かで会った事があると急いで頭を巡らして思い出そうとした。すると娘は「どう、何処か気に入らない処があるの?」と言った、張福は慌てて「いいえ、いいえ、あなたはとても美しく綺麗ですよ。でもまた聞きますがあなたはどちらの娘さんですか」と聞いた。娘は張福に身をすりよせると笑って「あなたもう聞かないで、あたしはあなたが良い人だから好きになったの、あたしあなたと一緒に暮らしたいわ、あたしが嫌いでなければ里帰りの日がきたらみんな話すわ」と言った。その夜、張福と娘は新居で一緒になった、でも娘は自分の家の住所を明かさなかった。
それから新婦は張福に愛情を注ぎ、張福も新婦に真心を尽くして暮らした。だが張福の疑問は解けてはいなかった。この娘が紙人形であるのは間違いない、それがどうして生身の人間になったのか?幽霊や狐が化けたのか?もし、幽霊か狐なら何とかわが身を守らなければならない、何か守る方法があるだろうか、張福はむかし年寄りから桃の木は邪気を避けると聞いたことを思い出し、家の裏にある桃の木の枝を伐って剣のかたちに削りそれを身につけて里帰りする事にした。やがて里帰りの日がきて張福は土産物を用意し新婦と一緒に新婦の実家へ向かった、歩いて歩いて日が落ちてもまだ着かない、やっと三ツ星が高く光った時、新婦は前に見える灯のついた村を指し、「着いたわ」と言った。
村はあまり大きくなく、新婦は村の中の三間の母屋、東西に部屋のある家を指してわたしの実家だと張福に告げた。門の中は静まりかえっていた。新婦は張福を家に入れて座らせると、東の部屋に母親を迎えに行った。長い時間が経ってやっと年を取った老母が杖をついて来ると、老母はいきなり張福に「あんたはわしの娘と夫婦の縁を結んだが、もう娘とは会えません」と言った。張福は慌てて、「私の新婦は何処へ行ったのですか」と尋ねた。老母は気味悪く「ヘ、ヘ」と笑い「あんたはわしの娘と夫婦の縁を結んだがもう娘は帰っては来ません」と言った。張福がそのわけをしつっこく聞き質すと、老母は「それは恐ろしい話ですよ」と言った。それでもなお張福が問い質すと、老母はそのわけをすっかり話し始めた。
「これはもう三年前の話ですが、わしは娘と二人で親戚を訪ね、あんたの村の西の河の一本橋を渡った、わしは年を取って足が悪くおまけに河の流れに眩み、河に落ちてしまった、川幅はないが流れは早くわしは溺れてしまった、娘は川に落ちたわしを見て「助けてー」と叫びながら泳げないのに川の中に飛び込み娘も溺れてしまった。その時あんたは丁度川辺の林で薪を伐っていて、娘の叫び声を聞いて駆けつけてくれわしたち母娘を助けてくれたがわしはもう死んでいた、娘はまだ息をしていたが少しして死んだ。あんたはわしたち母娘を可哀相に思ったが何処の人か知らない、村の人は土饅頭の墓を作ってわしたちを埋めてくれた、生娘だった娘は独り者のあんたの様子を見て好きになりあの日あんたが紙人形を背負ってここを通ったので娘の霊は紙人形に憑き、初夜の新居で幽霊となってあんたと夫婦の縁を結んだがもう終わりです、娘はあんたに会いません」と言った。
これで張福はこの母娘が幽霊で紙人形が変わった幽霊娘に自分がかって会っていたとわかった。でも張福は少しも恐れず却って老母に「でもお義母さんも娘さんも悪い幽霊ではありません、娘さんを呼んでわたしと一緒に帰りましょう」と言うと、老母は怒り「わしは本当の事をあんたに話した。娘にはもう近寄らないで、早く帰りなさい」というと張福を門から押し出した。その時鶏が鳴いた、張福が見るとそこは墓場で、よく見ると張福の家からそんなに離れていなかった。張福が家へ帰ると紙人形は床に横たわっていた。張福は咳払いして「私がお前を助けたのは当たり前だ、お前は私と夫婦の情を結んだのだ、私たちは夫婦だったのだからこのままにしておくことはできない」と独り言を言った。
翌日、張福は棺桶を買って紙人形を納めた。村人は張福の新婦が病気で死んだと聞いて“張福には運がなかった、やっと娶った綺麗な新婦が十日もしないで死ぬなんて佳人薄命だ”と惜しんだ。村人は張福を助け村の北の墓場に埋めた。張福はみんなが帰ったあとで新しい墓に向かって「お前が幽霊だって私たちの愛情は誰の愛情にも負けない、私の心は変わらない」と言った。張福は妻のために紙銭を焼いき、桃の木で作った剣を墓に埋めた。張福が家に着いたのはもう夜であったが何も食べる気にならずすぐ床に横になって寝た。
夜中になって門の外で声がする。張福が門を開けると幽霊妻が帰って来た。張福は驚いたり喜んだり慌てて「お前どうして帰ったのだ、まだ夫婦の情を断ち切れないのか」と言うと幽霊妻は笑って「馬鹿ね、夫婦の情に終わりなんてないわ」「でも、お前の母はお前にもう会えないと言ったんだ」「あたしを家に入れてくれないの」張福は幽霊妻を家に入れると幽霊妻は涙を流して張福の胸にすがり、わけを話し始めた。
「あの老母はあたしの継母で、何時もあたしのする事なす事何でもけなし、あたしを苛めていた。父が財産を遺して死ぬと継母はわたしに財産を分けねばならぬと考え、あたしが邪魔になり、ある日あたしを騙して連れ出しあの川であたしを殺そうとして川に突き落とした、ところが思いがけず、継母は自分も滑って川に落ち、あなたに助けられたけれど死んだ。あたしはまだ息をしていた。だからあたしはあなたに助けられた時からあなたが好きだった、けれどもあたしも死んだ。でもあなたが忘れられずあたしの陽気は満ち陰気はなくなった、あたしは継母より強い。継母の力を借りてあなたの担いでいた紙人形に霊魂を戻した、継母は始め反対だったが、あたしが何度も言ったから承知した、陰界へ行って継母に会うと継母はあたしを西の部屋に閉じ込めあなたに会わせなかった。あなたが桃の木の剣を持っていたからあなたを恐れ、恨んでいました」「今晩お前はどうして出て来たの」「あの二つの桃の木の剣の一つは継母の東の部屋の戸を封じ、もう一つは窓を封じたから、あたしは西の窓から飛び出したのです」張福は「ア、どうしよう。村の人はお前が死んだことも今朝早く棺桶を墓場に埋めたことも知っているのだ」「あたしにいい考えがあります」と幽霊の妻が言っている時、鶏が鳴いた。幽霊妻は慌てて外へ飛び出した、張福も後を追った……。
張福は足を伸ばして目を覚ました、夢を見ていたのだ。
張福は起きて着替え、朝食の用意に火をつけると、戸を叩く人がいる、開けてみると隣の爺さんだ、爺さんは働き者で朝早くから起きて仕事を始め、村の墓場のそばを通ると、新しい土饅頭のあたりで音がする、大胆な爺さんが近づくと「助けて!早く助けて、あたしは生き返りました」と声がする、爺さんは張福の新婦が急に死んだことを知っているから、もしかすると、棺桶の中で汗が出て張福の新婦が生き返ったのかもしれないと、土饅頭を掘り返して棺桶の蓋を開けると、張福の新婦が起きあがり、棺桶の中から出ると爺さんに叩頭の礼を捧げた。爺さんはびっくりして「張福の嫁さん、あなたは死んだのにどうして生き返ったのです」と聞いた。「お爺さん、笑わないで下さい、あたしは急いでご飯を食べたものだから、ご飯が喉に詰まって一度は死んだのですが、今はよくなったのです」と隣の爺さんに一部始終を話した。張福は喜び「それで私の妻は何処にいますか」と聞くと隣の爺さんは「わしの家でお前の嫁さんの死装束をわしの息子の嫁の服に着替えさせているよ」と言っていると、隣の爺さんの女房と息子の嫁が張福の新婦に付き添って家に入って来た。張福は幽霊妻を見るなり泣き出した。隣の息子の嫁が「張福さんあなたは新婦が死んだ時泣かなかったのに、生き返ったらどうして泣くの」と言うと、張福は「誰が泣くものか、人間は喜びで泣くものなんだ」と言った。
村人たちは張福の新婦が生き返ったと聞いてみんな駆けつけ、いろいろと聞き質してから、「張福は天性の福運を持っているから、娶った新婦が死ぬわけない」と言ったが、張福だけは自分の妻は幽霊である事を知っていた。 (譚振山故事選)