520 亀が蛇に変わる  

 昔、李という兄弟が隣り合わせに住んでいた。兄は貧乏人、弟は金持ちで仲が悪い。
 ある年、旱魃で作物がとれず、貧乏な兄の家では子供たちがお腹を空かしてワーワー騒ぎ、兄は父親として家の中で熱い鍋の中の蟻のようにウロウロと歩き回ったがどうしていいかわからない。女房は鼻水を流し涙声で亭主に「お前さん、辛抱して隣から食べ物を借りて来ておくれ、このままじゃ子供たちは死んじゃうよ」と言ったが亭主は「あいつのとこへ行ったって無駄だ。あいつが貧乏な俺のことを心配していればとっくに助けてくれてるよ」と答えた。
 それでも女房は何度も何度も亭主を責めるので、亭主は恥じを我慢して弟の家へ食べ物を借りに行った。弟の家に行くと弟の一家は食事の最中で、八人用の食卓の上には鶏、アヒルや魚の料理が並べられ、弟の女房や子供の口には料理の滓がついている、足下には赤犬が大きな油肉をくわえて尻尾を振っていた。兄は弟の家に入って何も言わずに食卓の傍に立つと弟はフンと鼻を鳴らし、「ヘイ、兄貴は来ると思っていたよ。兄貴の家に食い物がなくてもやる物はないよ、兄貴にやるくらいならこの犬にやるよ、犬は俺の家の番をしてくれるからな」と言ってわざと兄の前で犬に大きな肉をやった。兄は怒りで顔は真っ青、言葉も出ないままいきなり弟を殴った、弟だって黙っていない、兄を蹴とばし、二人は殴り合いの喧嘩になった。

 さて、兄は何日も米を食べていないから弟を殴るにも力が出ない、たちまち弟にさんざん殴られ顔が青くはれ上がった、それでも弟は止めず兄を柱に縛り付けてしまい、酒を呑みながら意気洋々と兄を見ている、兄が弟に縄を解いてくれと頼んでも弟はあざ笑って「ざまあみろ、もう俺の家の敷居を跨ぐなよ」と言うと腹一杯になった口を拭きながら部屋を出て行ってしまった。

 やがて暗くなってからまた弟は鼻唄を唄いながら手に亀を提げてやって来ると柱に縛り付けた兄に亀を見せ「どうだい大きい亀だろう、今晩こいつに酒を呑ませるからお前、亀をパクついたらどうだ、ハ、ハ、ハ」と笑い、柱の上の梁に亀を吊るして出て行った。しばらくして兄が部屋を見回すと、梁に吊るしたあの亀が突然蛇に変わって体を伸ばし、口から赤い舌をペロペロ出した。
 兄はびっくり、これは大変だ、蛇が変った亀を食べると人は死んでしまうと聞いたことがある、弟が知らずにこの亀を食べれば死ぬ、どうしたらいいだろう?、弟に教えてやろうか、いやよそう、あいつは俺に酷い事をしたんだから死んだって当たり前だ。だが、またそんな不義な事はできない、俺たちは何と言おうが父母から生まれ、同じ乳房の乳を飲んだ兄弟だ、弟に知らせてやらなければと思い直し、外に向かって「オーイ、弟、来てくれ」と叫んだ。すると蛇はそれを聞いて伸ばした首をスルリと縮めると、もとの亀に変わった。

 弟は兄の呼び声を聞くとやって来て「何だ?兄貴が何と叫ぼうと俺の言う事を聞かないうちは許さないぞ」と言って梁に吊るした亀を持って行こうとした。「弟、その亀を食べるな、その亀は蛇が変わったのだ。それを食べると死ぬぞ」「ヘ、ヘー、兄貴、人を脅かそうというのか、こんな美味そうな亀がどうして蛇なんだ、兄貴はあとでこの亀を食べようって嘘ついてんだろう!ハ、ハ、ハ」と弟は言って亀を持って行こうとした。兄は弟が自分の言っている本当の事を聞かないのかと、涙を流しながら「俺たちは同じ母の乳を飲んだ実の兄弟だ。弟、俺を殴っても、罵ってもいい、お前が俺に無情でも俺はお前が毒を食べて死ぬのを見ていられない。お前、俺の言う事を聞いてくれ、この亀を絶対に食うな」と言った。弟は兄が泣いて訴えるのを不思議に思いながら、でも不機嫌な顔で「よし、兄貴の言う通りこの亀をまた吊るして置いて、兄貴の言う事が本当かどうか見てみよう、もし兄貴が俺を脅かしているなら俺にも考えがあるからな」と言って亀をまた天井の梁に吊るし、フウフウ言いながら出て行った。

 晩飯の時に弟はさっきの事を思い出し、そっと亀を吊るした部屋の戸の隙間から覗いてびっくり、「アッ、大変、本当だ!」天井の梁にヌルヌル光った蛇が口から赤い舌をペロペロ出して吊る下がっているではないか。弟は驚いて後ろに下がったとたんに尻もちをつき、尻をパタパタ叩きだんだん気持ちが和らいできた。アアー兄貴が俺に教えてくれなかったら、俺の一家はみんな毒で死んでいた、それなのに俺は兄貴に酷い事をしてしまった、弟は考えれば考える程、兄に済まないことをしたと恥ずかしくなって戸を開け、兄を縛った縄を解きながら「兄さん、今、亀が蛇に変わったのを確かに見た、兄さんのお蔭で俺の一家は助かった、今まで本当に俺が悪かった、兄さんたちに済まな事をしてしまった、兄さん、俺を殴り罵ってくれ済まなかった」と謝った。

 兄は弟が後悔してくれた事を喜び、穏やかに笑って「お前がわかってくれればいい、俺もお前をもう何とも思っていない、もう晩い、俺は帰るよ、お前の女房に宜しく言ってくれ」と言った。「兄さん、待ってくれ、俺たちは庭の塀を取り壊し、俺お前の区別なしに一緒に暮らそう」「アア、いい兄弟になれた」
 それから兄弟は塀を壊し、兄弟の二つの家は一緒になって仲良く暮らした。            (譚振山故事選)