阿利と阿布
遠い昔、果てしない大地の上に人は兄と妹の二人しかいなかった。
兄の名は阿利といい、妹の名は阿布といった。ある日、天の神が下りて来て、温泉に入り地上を眺めた。山は青く水は清らかで地上は広大であったが、荒れ果てて人煙がなく、もの寂しかった。そこで神は阿利と阿布に、大地に人をふやすため夫婦になるように言った。阿布は羞かしそうに顔を紅らめ阿利は首をふり、二人は神に「私たちは兄妹ですから夫婦にはなれません、神様、どうか人を殖やす別の方法を考えて下さい」と言った、神は二人の願いを聞き入れてこう言った。「二人がいつも河に入り体を洗うなら、夫婦にならなくてもよい」 それから二人の兄妹は神に言われたように、いつも河に行って体を洗った。
兄は川上、妹は川下でそれぞれ体を洗い互いに見ることはなかった。何回か体を洗ったあとで、阿布はだんだん自分のお腹が大きくなるのに気がつき、やがてある日数が過ぎて阿布は肉の瓢箪を二つ生んだ、兄妹はこの肉の瓢箪をどうしたらいいか話し合い、最後にこの肉の瓢箪を河に流すことに決めた。阿利は阿布が肉の瓢箪を河辺に持って行くのを助け、深い河の淵に投げ入れた。ところが二つの肉の瓢箪は流れもせず沈みもせず、もとの所でぐるぐる回っていた。
ある日、烏がこの二つの奇怪な肉の瓢箪を見つけ、直ぐに飛んで行き天の神に告げた、神は即刻、地上に下りて兄妹二人を捜すと、三日のうちに必ずあの肉の瓢箪を割れ、さもなけば大水をだして龍王に大地を呑みこませてしまうと命じた 肉の瓢箪は深い淵に浮かんでいて、兄妹二人に割ることはできず、ただ河辺でほかの動物が助けてくれるのを待つしかなかった。ある日、一羽の鵲が河辺に水を飲みにきたので兄妹は鵲に肉の瓢箪を啄いて割ってくれるように頼んだ。鵲は河のなかの肉の瓢箪の上に飛んで行き肉の瓢箪を啄いた、けれども鵲が啄けば啄くほど肉の瓢箪は大きくなり、鵲は羽をパタパタさせるばかりであった。
鵲が飛び去ったあとに河辺に大きな蟹が這い出してきた、阿布は悲しそうに泣きながら蟹に急いで、ますます河のなかで大きくふくれた肉の瓢箪を切ってくれるように頼んだ。この蟹は具合よく蟹の王だったので河のなかの大小の蟹を呼び出し肉の瓢箪を河岸に運び上げ一斉に噛みはじめてくれた。蟹たちはせわしく半日噛んだけれども皮さえ破ることはできなかった。蟹たちは兄妹に「わたしたちの口は小さくて力もなく、この大きな瓢箪を食い破ることはできない」と言い終わるとみんなちりぢりに帰ってしまった。
それから間もななく林のから何匹かの狼が出た来たので兄妹は狼にも頼んだ。「狼さん、二つの肉の瓢箪をみんなで急いで切り裂いて助けくれ、そうしなければ大水になって龍に大地は呑まれ、私たちは河の底に葬られてしまう」と言うと狼は肉の瓢箪をろくに見ないで「俺たちは肉は裂けるけれど、瓢箪は裂けない」と言うと煙のように走り去った。
二日過ぎてもまだ肉の瓢箪は割れず、兄妹が泣いていると、鼠がそれを聞いて赤ん坊を抱いて真っ直ぐに河辺に走って来て、阿布に尋ねた「あんたたちは何が悲しくて泣いているのだ」阿布はわけを鼠に話して二つの肉の瓢箪を噛み切ってくれと頼んだ。鼠が瓢箪をよく見ると瓢箪の上に薄い肉の皮が被さっているのがわかり噛んでみると力もいらない、そこで鼠は噛んで噛んで噛みとおし、とうとう瓢箪に穴を開けた、すると穴からつぎつぎに何百とたくましい男と美しい女がでてきた。鼠は休まずにまたつづいてもう一つの瓢箪を齧った、そしてついに二つ目の瓢箪も噛み破ると、瓢箪のなかから穀物、野菜、大豆、ごまなどがでてきた。
それからその何百のたくましい男と美しい女が何百の夫婦になって男の子女の子を生み地上に人の群れができた。人は瓢箪からでてきた種を蒔いて、地上には穀物や野菜、大豆、ごまなどができたのである。
西双版納哈尼族民間故事集成 1993,1,9