519 猫と犬と蛇と人

 昔、愛尼山に母と息子がいた。息子は村人がみんな商売に出かけるので自分も商売に行きたくて母親に村人と一緒に商売に行くから元手の金が欲しいと言った。母親は息子の話しを聞いてやるには愛尼の村人から借金するしかなく村中を聞いて回ったが誰も貸してくれない。そこで隣村の村長から元手の金一千銀を借りて息子を商売に行かせた。
 母親は息子が商売に出かけてから毎日、家の前に立って息子が儲けて帰って来るのを神様に祈って待っていた。するとある日、息子は一匹の犬を連れて帰って来て「おっかさん、今度の商売で犬を儲けたから、犬の面倒をみておくれ」と言った。母親は息子の言う通りに犬の世話をしたが相変わらずの貧乏暮らしであった。

 翌年の春になるとまた村人たちが大勢して商売に出かけるので息子はまた母親に何処かで元手の金を借りてくれと言うと母親はまた隣村の村長に一千銀借りて息子に持たせた。数ヶ月たって息子は一匹の猫を抱いて帰って来て「おっかさん、今度の商売で猫を儲けたから、猫の面倒をみてくれ」と言った、母親は「人さまは商売をするほどお金を儲けるというのにお前はどうして儲けが一匹の犬と一匹の猫で、何時になったらお金を儲けるのかね」と言いながら、それでも母親は河へ行って小魚を捕ってきて猫に食べさせた。それで犬と猫はよく言う事を聞いて母親と息子になついた。

 三年目の春、村人はまた商売に出た。息子はまた母親にクドクドと元手の金を借りてくれと言うので仕方なくまた隣村の金持ちに一千銀を借りて息子に渡すと息子はそれを持ってまたまた商売へ行った。数ヶ月たって息子は一匹の蛇を持って帰って来た。母親はそれを見てとうとう「お前はおっかさんに負んぶに抱っこで、ガンバル気がないなら、おっかさんはどうやって借りたお金を返したらいいの?」と怒り出した。息子も自分ながら癪にさわって、蛇の鼻に穴をあけ天井の梁に吊るしてしまった。
 すると蛇が「金や銀を出すから俺を放してくれ」と言うので息子は蛇を放した。蛇は地面に降りてトグロを巻くとたちまち金の燭台に変わった。息子は燭台を手に持った後、何処でもその手で触るとそこが金や銀に変わった。それから母親と息子は急に金持ちになった。

 母親が隣村の村長に金を返しに行くと村長はどうしてこの母子が金が返せたのか不思議に思い、村長は何日か経って母子の家に行って確かめてみることにした。
 村長がこの母子の家に入ると何処も彼処もみんな金と銀なのでびっくりして、母子にそのわけを聞くと、正直な母子は燭台の事をすっかり話すと、ずるい村長は母子を騙して金の燭台を自分の物にすればわしはこの地方一の大富豪になれると悪知恵を考え出した。村長はわざと真面目な顔をして「あんたたちに神様が永く福を授けたのだ、この授かった福を一人占めにして大勢の村人を忘れてはいけない、村人にこの珍宝を見せてやるべきだ」と言った。母子はそれも道理だと思って、村人をみんな呼んで、息子が金の燭台を捧げ、大勢の村人の中に入って村人に、見せたり触らせたりしているうちに何時の間にか金の燭台が見えなくなってしまった。宝物がなくなった母子が悲しんでいると、犬と猫が「ご主人、悲しがる事はありません、金の燭台はあのずるい村長が村人の中に混じっていて盗んで逃げたのです、わたしたちがきっと取り返して来ます」と言った。

 犬と猫はすぐ隣村へ急ぎ、途中で大きな河にぶつかった。犬は泳げるが猫は泳げないので犬は自分の尻尾を猫にくわえさせて一緒に河を渡った。猫は犬を河辺に待たせ、村長の屋敷へ行くと表門はしっかり閉まり、周りは板塀に囲まれ中に入れない。猫は屋根の隅の鼠の巣を見つけると母鼠に板塀を齧って穴を開けないと子供たちを食べてしまうぞと脅かした。母鼠が板塀を齧って穴を開けると、猫はその穴から屋敷の中に入った。

 さて、貪欲な村長は表門をしっかり閉めてあるから安心して、独りで煙草を吸いながら盗んで来たあの金の燭台を机の上に載せて眺めていると、そこへ忍び込んだ猫はひとっ跳びに机の上の金の燭台をくわえ屋根に跳び上がると、塀の穴から飛び出した。  河辺で猫を待っていた犬は金の燭台を持った猫を連れて河を泳ぎ始めると、何処からか雉が飛んで来て金の燭台をつっ突き河底に沈めてしまった。犬と猫は河を渡ると雉の巣を見つけ、雉に「早く金の燭台を河底から掬い上げて俺たちに返せ、返さなければお前たちの巣をメチャメチャにして子供たちを噛み殺すぞ」と言った。雉は慌てて河の中に飛び込み金の燭台を掬い上げて犬と猫に渡した。犬と猫は金の燭台を持って母子の家へ帰った。それから母子と犬と猫は幸せに暮らした。       (西双版納哈尼族民間故事集成)                                   

<注> 日本昔話『犬と猫と指輪』(岩波文庫・日本の昔ばなし1)