516 姉妹の宿屋
姉と妹で営む宿屋があった。男手はないから姉が番頭である。ある日、二人の行商人が来た、一人は少々意地悪なおどけ者。姉が「お休みなさいませ」と声をかけた。
おどけ者の行商人は「泊まるよ」と返事をすると、腰に提げた袋から大根を出し、大根をさすりながら「姐さん、牛殺しは?」と言った、牛殺しというのは菜切り包丁の隠語で、このおどけ者の行商人は女番頭の姉をからかったのだ。
すると姉は「牛殺しは菜っ葉姐さんを斬った罪で“箔州”へ行ったわ、お客さん取りに行って」と答えた。おどけ者の行商人は“箔州”って何処だかわからず驚いてポカンとしていると奥から妹が出てきて「姉さん、子供は何処へ寝かすの?」姉の番頭が「瓶の中」と答えると妹は「わかった」と頷いた。
それを聞いた行商人は自分たちのことを言っているのかとびっくり「それじゃ息できない」と言って慌てた、姉妹はおどけ者の行商人にからかわれたので仕返しをしたのだ。それから姉は振り返って米びつにかけた“すだれ(箔)”の上に置いた菜切り包丁を取っておどけ者の行商人に渡した。そこでやっとおどけ者の行商人は大根を切って食べた。
さて、夕飯になって姉の番頭が「お客さん、何を食べますか」と聞くと、このおどけ者の行商人はまたこう言った。「米は食べない、麺は食べない。一個二斤半、三回吹いて叩いて揉んで、半生、半煮え」それを聞いた姉妹は先ず二斤半の藷を鍋に入れ、弱火で焼いて藷の皮が赤くなると、半生半煮えのまま藷を三回吹いて、三回叩き、三回揉んで意地悪なおどけ者の行商人に差し出した。
もう一人は真面目な行商人でおどけ者の行商人に「あんたは何を食べようと言うんだ、宿屋に任しておけばよくも悪くも食べられるのに半生半煮えでは食べられないではないか」と言った。おどけ者の行商人は何も言えなかった。
翌朝二人の行商人が出かけようとすると宿屋の妹が「あなたたち商売に行くの?」と聞いた。「そうだ」「あたし頼みたい物があるのよ」「何だ」「あたしにね、頭をぎゅっと、足を綺麗に、胸に抱えた笑顔、首にかけ腰に巻くを買って来て」「………」
二人の行商人は今度は宿屋の妹に謎をかけられて困り、歩きながら互いに「頭をぎゅっと、足を綺麗に、胸に抱えた笑顔、首にかけ腰に巻く」と言い合って考えたが二人とも何の事かわからない。二人はしばらく歩いて三叉路に来ると道端で一休みし、またこの問題を話していると、西北の方から商人がやって来た、この商人は大商人で二人の行商人は嘴の黄色い小雀のようなものだ、二人の行商人は大商人といろいろ話しているうちにこの大商人が何でも知っていることがわかり、「頭をぎゅうと、足を綺麗に、胸に抱えた笑顔、首にかけ腰に巻くという物は何ですか」と聞いた。
すると大商人は笑って「あんた方、そんな事わからないんじゃあ、臍の緒は一生とれませんよ。頭をぎゅっとは縄、足を綺麗には鞋に巻く帯、胸に抱えた笑顔は鏡、首にかけ腰に巻くは腹掛けですよ、わかりましたか」と教えてくれた。
二人の行商人はやっとわかり、市場へ行って三尺の縄、三尺の鞋の帯、鏡、腹掛けを買って帰り宿屋の妹に渡した。妹は「あなたち何でもわかるのね」と喜んだ。それから二人の行商人はこの宿屋の姉妹をからかったりせず、きちんとした態度で泊まるようになった。 (四老人故事集)