一生食べても食べ切れない物  

 阿朱尼と車羅長者の召使い諾瑪は相思相愛の仲であった。

 二人はこの事を長者に話すことに決め、ある日、阿朱尼は酒を提げ、鶏の丸焼きを持って長者の屋敷に行った。すると、長者は阿朱尼が何も言わないうちに先に「阿朱尼、お前は結婚の申し込みに来たのだろう」と言った。阿朱尼は贈り物を長者の前に差し出して、笑いながら「旦那、あなたのおっしゃる通りです、私と諾瑪は心から愛しあっております、それで今年結婚することに決めました」と言った。

 すると長者は顔をなでなで「うむ、諾瑪の両親がまだこの世にいた頃、わしは大きな貸し金があって、諾瑪はその貸し金のかわりにわしの家に来たのだ、お前が諾瑪の亭主になるのはいいが、その貸し金をお前と諾瑪が一緒になって返してくれ」と言った。阿朱尼は「旦那、その借金をどうして私たちに返させるのですか」と真剣に尋ねると、長者は冷ややかに「まだそんなことを聞くのか、お前が金を持って来て、借金を清算するなら諾瑪を連れて行ってもいい、だが金がなくて借金が返せないなら、お前は諾瑪と一緒になってわしの所で働け、どっちでもお前のやりたいのを選べ」と言った。

 阿朱尼は笑いながら「もし私がお金がないから返せませんし、あなたの所で働くのも嫌ですと言ったら」と尋ね返すと、長者は驚いて目を丸くし「ああいいよ、お前がわし家に一生食べても食べ切れない物を持って来ればな。できなきゃあ諾瑪はお前にやれないよ」と言った。 阿朱尼はにこやかにうなづいた。長者は得意満面になり、心の中で何を言うか阿朱尼の奴、これで奴はわしの手から逃げられないぞと思い、得意気に「できもしないのに、何故うなづくのだ、おとなしくわしの家の下男になって働けばいいんだ」と言った。

 阿朱尼は落ち着いて「旦那、違いますよ、私はあなたの話を信じられませんよ、あなたの話は口先だけではありませんか。旦那が本当に一生食べても食べ尽くせない物が欲しいなら、すぐ村の全部の旦那方に来て貰って証人になって貰って下さい」と言った。車羅は阿朱尼が一生食べても食べ切れない物を持って来るなど信じないが、持って来れば自分は得するし、どっちにしても悪い事はないと思い同意した。  村の旦那たちがみんな揃ったところで、長者は満面に笑みを浮かべて「みなさん、お聞き下さい、阿朱尼は一生食べても食べ切れない物を持って来て諾瑪の借金の替わりにします。それを持って来た時、私は阿朱尼に諾瑪を連れて行かせます、できなければ阿朱尼は私の家で一生下男になります、双方とも雷に遭って天に焼かれても後悔しません」と言った。

 長者の話を聞き終わって村人はみんな、阿朱尼は素寒貧だし、何処に一生食べても食べ切れない物があるのだ、と可哀そうに思った。何人かの心のいい人は、雷に遭い天に焼かれるように負けるのだから、この賭はやめるように阿朱尼に勧めた。阿朱尼は、ハハハと笑って親しい仲間たちや村の旦那たちに「みなさん、ご安心下さい、私は明日一生食べても食べ切れない物を車羅の旦那にあげますから、その時みなさんは、私のために証人になって下さればいいのです」と言い終わると、悠々と歩いて行った。  

 翌日、車羅長者が床に横になって楽しい夢を見ている時、阿朱尼は満面に汗を流して、長者の屋敷に行った。「旦那、一生食べても食べ切れない物を用意しました、どうか急いで馬や牛をひいて運んで下さい。諾瑪も呼んで下さい、一方で品物を、一方で人を渡して貰うのですから」「ええ、品物は何処にあるのだ」と長者は目を丸くし、呆れて聞いた。阿朱尼は「遠くありません、村のはずれの大河の岸辺です」と答えてから、真っ直ぐまともに「私が旦那に差し上げる物は本当に少なくありませんよ、これは二、三代かかっても食べ切れない物です」と言った、長者は疑って「わしが欲しい物は、しかし食べる物だぞ、わしを騙したら、大変な事になるのだぞ」と言うと、阿朱尼は胸を叩いて「わかってますよ、私が旦那に上げるのは、千人、万人が食べる物で、誰もそれなしにはいられないのですから、信じないなら行って見る事です、もしそれが誰も食べない物なら、私は自分からお願いして旦那の下男になります」と言った。

 車羅は半信半疑で、雇人たちに馬を用意させ、阿朱尼について、その一生食べても食べ切れない物を見に出かけた。大河の岸に着くと阿朱尼は新しく掘った井戸を指して「旦那、私は半日かかってあの井戸を掘りました、井戸の水はとうとうと外に溢れ出でています、この水は旦那の一家ばかりか村の人がみんな来て食べても一生食べ切れません。旦那、すぐあれを屋敷に運んで下さい」と言った。車羅はこの井戸を見て、全身から気が抜けてしまった。阿朱尼は諾瑪の手をとって笑いながら「旦那、いわれもない借金を負わされた諾瑪を返してもらいますよ」と言い終わると、二人は笑って行ってしまった。    

       西双版納哈尼族故事集成              1992,12,29 

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