510 雁の訴え

 ある日、猟師の趙三は二人の子供が道端で脚の折れた雁を互いに俺のだと取り合っているのを見て雁が可哀相になり、「わしがお前たちに一分ずつ金をやるから、その雁をわしに売ってくれ」と言った、子供は「いいよ」と言って雁」を趙三に売った。
 趙三は雁を家へ連れて帰り、餌をやって世話すると脚も治り、羽もしっかりしてきたので女房に「雁が元気になった、あとは雁の好きなようにさせよう、飛んで行きたければ行かせよう」と言って雁を放すと、この雁は人の言葉がわかってすぐ飛び去った。

 しばらくして、雁は趙三が誰かに殺され首は箱に詰められて、胡魁という男と母親が住んでいる家の天井裏に隠されたことを知った。胡魁はある晩、天井でガタンと音がしたので見てみると天井裏に箱が置いてある、何かいい物でも入っているのかと下ろすと、母親は「泥棒がそれを盗んで追い駆けられ慌てて置いて逃げたのかも知れない、外に放り出したほうがいい、あとで泥棒が戻って来て、却ってお前が泥棒だと言われる」と言った。胡魁は「中に何が入っているのか見てから外に出そう」と、箱を開けると中に五枚の大元宝の金があった、胡魁は欲張りだから、泥棒と言われたっていいやと箱を捨てず、床の下に隠してしまった。

 胡魁は二晩この箱を見張っていると、箱から小さな五人の子供が出て家の中で遊びまわり、胡魁に「おいらたちはもうここに飽きたから行くよ」と言う、胡魁は「わしの家を出て何処へ行くんだ」と言うと「おいらたちは両官屯へ行く」と言って子供も箱も消えてしまった。
 胡魁はすぐ両官屯の芦の生い茂った処まで追い駆けて行くと、あの箱があった。胡魁は“あの五枚の大元宝がまた俺の所に戻ったんだ”と、箱を抱えて走り出すと途中で二人の捕り手役人に遇ってしまった、「胡魁、何を持って行くんだ?」「泥棒が俺の家の箱を盗んだのでここまで追い駆け来て取り返したんだ」「箱の中は何だ」「品物だ」「どんな品物だ、見せろ」胡魁はあの五枚の大元宝を役人に取り上げられてはいけないと箱を開けないでいると役人は胡魁を通さない。胡魁は“ええい見るなら見ろ!”と箱の蓋を開けると、中は血のついた生首。「大胆不敵な胡魁め、人を殺して首を何処へ持って行くんだ」と叫んだ。こうして胡魁は牢獄に投じられた。

 清廉潔白な裁判官石不全が「胡魁の殺人事件はどう解決したか」と聞くと捕り手役人は「犯人は胡魁です、証拠があります」と答えた。その時、屋根から雁が飛んで来て“ア、ア”と三回鳴くと、石不全は「雁は胡魁は冤罪だと言って、お前を恨んでいるぞ」と言った。「どうしたらいいでしょう」「雁について行き調べて来い」そこで二人の捕り手役人が「雁よ、天へ昇るな、俺は天へ昇れない。雁よ河に入るな、俺は河に入れない」と言って雁について行った。  

 雁は三、四里飛んで大きな松林に入り、一本の松の木の下の土饅頭の前に降りた。二人の捕り手役人もそばの石に腰掛け“雁は俺たちをいったい何処に連れて行くのだろう”と考えていると、西南の方角から包みを抱えた女が来て土饅頭の前で紙銭を焼いた。これは趙三の墓で女は趙三の女房であった、「趙三、陰界から帰っておくれ、わたしがあんたの替わりに死にたいよ、わたしを世話してくれる人は誰もいなくなってしまった。あんたは悪い人じゃないのに、誰があんたを殺したんだい、わたしは年々こうして紙銭を焼くからあんたの霊の力でわたしを助けておくれ」と言っていた。すると反対の東北の方角から胡魁の母親が来た。

 趙三の女房は胡魁の母親を見ると「お前の息子がわたしの夫を殺したのに、ここに何しに来たの」と言い、胡魁の母は「あたしの息子はお前の夫を殺してはいない」と言い争いを始めた。これを見た捕り手役人は「互いに喧嘩はやめてわしらと役所へ行ってくれ、雁が冤罪だと鳴いているし、清廉潔白な裁判官もいる、どう判決するかあんたらも見たほうがいい」と言った。

 こうして、胡魁の母親と趙三の女房は裁判所へ連れて行かれ、石不全に事情を聞かれた。胡魁の母親は息子がどうして箱を拾ったか、どうして逮捕されたかと説明した。石不全はすべてを聞き終わると、胡魁を牢から呼び出し「お前はどうして箱を拾ったのか」と聞くと胡魁も事の成り行きを母親と同じように話した。それから石不全は趙三の女房に「お前の夫は猟に何を使っているか」と聞いた、「鉄の刺叉です」「猟の相棒はいるか」「おります、兄の趙大です」「趙大は猟に何を使うか」「刀です」「そうか、趙大を呼べ」実は趙三を殺したのは趙大であった。趙大は趙三を殺し五枚の大元宝を手にすると、壁に穴をあけ大元宝を隠しておいたのだ。

 捕り手役人が趙大を呼びに来ると趙大は青くなった、捕り手役人はこれは怪しいと趙大を裁判所へ連行した。石不全が「趙三を殺して取った五枚の大元宝は何処へ隠した」「五枚の大元宝なぞ知りません」石不全は捕っ手役人に趙大の家を捜させ壁に隠した大元宝を見つけ趙大に見せると、趙大は隠しきれず「あたしは弟の趙三と猟をしていて西の畑で箱を拾い、開けてみると五枚の大元宝が入っていました、わたしが三枚取ろうとすると趙三も三枚取ろうとするので、わたしは趙三を斬り、箱に詰めて西の畑のそばの他人の家の天井に隠し、大元宝は家へ持って帰り壁の中に隠しました」と白状した。

 石不全は「事実はこういうことで、胡魁は冤罪だ、雁のお蔭で趙大が犯人とわかった」と言い趙大は断罪された。こうして胡魁は許されて母親と家へ戻り、趙三の女房も気を晴らしたということである。                                                          (四老人故事集)