509 李白の受験
伝説によれば李白は天界の太白金星の転生で、生まれた時の胞衣(えな)の中には酒壷と酒盃があったという。
ある年、李白は長安で国家試験を受けた。二人の試験官は李白の高い才能に驚き、李白の才気が自分たちの才能を超えてしまうと不安になり、ぐたぐたと文句をつけ、「こいつは甚だしく酒気を帯び、気がおかしい」と追い返してしまった。
怒った李白は二人の試験官を罵り「一ヶ月もたたぬうちにわしの鞋をお前に脱がさせ、もう一人にはわしの書の墨を摺らさせてやる」と言って去り、それからある宿屋に泊まった。
この宿屋は客がなく借金が重なって金が返せず、借金のかたに娘を連れて行かれようとしていた。李白はその事情を聞くと三十両の銀子を出してこの宿屋の借金を返してやり娘を救った。娘は李白のその恩義に報いて鞋を作り李白に贈った。李白はその鞋を履かずにずっと大切にしていた。半月たってその娘は皇帝に気に入られ皇宮に召されたが李白を忘れることはなかった。
この頃、外国から皇帝に貢物があり、書面が添えられていたが宮廷にはそれを読める者が一人もいない。そこで皇帝はこの書面の読める者を天下に求める高札を掲げた。これを見た李白はその高札を持って宮廷に参内した。皇帝は李白に謁見すると書面を示し、「汝はこれがわかるのか」と下問した、「わかります」「読んでみよ」李白はすぐ一字を読んだ、皇帝が更に促すと、李白は「酒を飲めば」と答えた。皇帝は「誰かある」と言い、跪く群臣に「酒を持て」と命じた。
群臣は慌てて酒壷を提げて来ると、素焼きのとっくりに酒を移し李白に差し出すと、李白はそれを“とくとく”と数口で呑み干し、「足りませぬ」と言う、皇帝は更に酒瓶を担いで来らせ、李白の左右に置かせた。すると李白は大きな柄杓で一気に百杯も呑んだ。赤い布のような顔になり、ふらふらしている李白を見て皇帝は「そんなに酒を飲んで、大丈夫なのか」と言うと、李白は「私は一分の酒で一分の才、十分の酒で十分の才を出します、すっかり酔いました」と答えた。皇帝は「誰か李白に太師椅(ゆったりとした椅子)を与えよ」と命じた。
李白は太師椅にゆったり腰掛けるとすぐ「陛下、私を追い出したあの試験官に私の鞋を脱がさせて下さい」と言った。あの日の試験官が来て、李白の鞋を脱がそうとしたができない、李白は怒って試験官を蹴飛ばし「無能な奴、もう一度やれ」と何回もやり直させ、李白はあの試験官に自分の鞋を脱がさせた。
それから「あの時のもう一人の試験官に墨を摺らさせて下さい」と言った。もう一人の試験官が呼ばれると、李白は墨を濃く摺らさせたり、また淡く摺らせたりした。そうして外国からの書面を読み、返書をしたため両国に争いを起こさせず、李白は人民のために一つよい事をした。
(四老人故事集)