507 乾隆帝の誤解

 竇光鼎(トウコウダイ)は清朝乾隆年間の学者で、長く朝廷の高官を勤めた。
 ある日、乾隆帝は竇光鼎の家に遊び、その書斎に入ると北側の壁に竇光鼎自筆の聯がかけてあった。  

  明月松間叫(明月は松の枝に鳴き)  
  黄犬臥花心(赤犬は花に中に臥す)

 乾隆帝はこれを見て「卿は我が朝廷の才子だが、この聯は道理に合わぬではないか」と言って、竇光鼎の返事も待たず、筆をとってこの聯を、  

  明月松間照(明月は松の枝を照らし)  
  黄犬臥花蔭(赤犬は花の蔭に臥す)

と書き替えた。竇光鼎は乾隆帝が書き替えた聯は間違いだと思っていたが、敬意を装って「よろしいです、よろしいです」と言った。

 数年を経て乾隆帝が江南を巡幸し、竇光鼎を従えて江南の大きな松林を観光した時、突然、松の木の上から“ツエンツエン”と何か鳴声がした、乾隆帝は竇光鼎に「卿、木の上で鳴いているのは何か」と聞くと竇光鼎は「陛下、この土地の者に御下問するのがよろしいかと存じます」と答えた。そこですぐ土地の者が呼ばれると、皇帝は「木の上で鳴いているのは何か」と下問した。するとその者は「あれは松につく“明月”という小虫でございます」と奏上した。乾隆帝はそれを聞くとハッとしたが何も言わなかった。

 何日かして、乾隆帝は竇光鼎を従え、花を見に花園へ行った、するとある花の花芯からよい鳴声が聞こえる、皇帝は不思議に思って竇光鼎に「卿、花の中で鳴声がするが花芯に何がいるのだ」と聞いた。竇光鼎はまたわざととぼけて「陛下、愚かな臣は存じません、やはり花を育てる花守に御下問するのがよろしゅうございます」と言上した。花守が呼ばれると、皇帝は花守に「この花芯で鳴いているのは何だ」と聞いた、すると花守は「これは“赤犬”と申す小虫が鳴いているのございます」と言上した。

 乾隆帝はそれを聞いて、竇光鼎の肩を叩き、済まなそうに「卿、わしが卿の書斎の聯の詞を書き替えたのは誤りであった」と言った。
 それを聞くと竇光鼎は乾隆帝の前に跪き、「陛下のお言葉に感謝いたします」と奏上した。   (宋宗科故事集)