505 好色幽鬼

 人々は淫らでふしだらな者を見ると、墓場の好色幽鬼にとり憑かれたのだと言うが、君は好色幽鬼の由来を知っているか。これは隋代に遡る話である。

 隋の煬帝は多くの婦女子を誑かして天下を乱した、その奸臣も煬帝にならい毎日、酒池肉林、女色に溺れた。その一人に葉という高官がいた。葉と息子の葉合は多くの妻妾にあきると、包丁で白菜を切るように捨て、世間の婦女子を無理やりに奪い、従わねば殺し、また婦女子を漁った。新たな婦女を一日弄べば、もう翌日は取り替えるという横暴さであった。それでどれだけ良家の婦女がこの人間の皮をかぶった二匹の獣に苛まされたか知れない。

 だから人々はこの葉父子を歯軋りして恨んでいた。
 ある日、葉合はまた欲心を激しく昂ぶらせ、家人の婦女に目をつけたがどれも気にいらず、一人、馬に乗って屋敷を出た。よい景色を眺めて気を静めようと、馬の行くままにあちこち行くと、美しい流れの小さな河に行きあたった。

 両岸は緑の若草に映え真紅の花が咲いていた。そして河辺の青い石の上で淡い黄色の衣を着た女が洗濯していた。女の姿態はなよなよと艶やかで美しく、葉合はたちまち目を奪われてしまった。二重の瞼、うりざね顔に二つの笑くぼ、もう葉合の目は呆然と女の色っぽい姿に釘づけになってしまった。そして俺は千人の美女を見、百を越す婦女と遊んだが、この美しい女に勝る女は一人もいなかったと思わず唾を飲み込んだ。美女は葉合に流し目を送り、可愛い口をすぼめて微笑んだ。これで葉合の心はすっかり惑い、“サッ”と飛んで近寄ろうとすると美女は盥を持ち身を翻して去った、すかさず葉合は尻尾を振って後を追う犬のようについて行った。

 ところが美女はあるこじんまりした家に入ると、“カチッ”と戸を閉めてしまった。葉合はあきらめ切れずそこに立ち尽くした、とうとう月は高く昇り星はまたたく夜になったが、それでも美女は姿を現さない。葉合は屋敷に帰り人を遣わして美女を奪おうと考えたがそれでは美女に嫌われると思い、人の寝静まった深夜に美女のそばに忍んでやろうと、門のしんがり棒をはずし、うきうきしながら庭に入り母屋の戸の前にじっと座り込んだ。

 葉合が長い間ポケッと座っていると、“カチッ”と音がして戸が半開きになり、雪洞を持った美女が笑みを浮かべながら身を乗り出すと「あなた、こんなにおそくなったのにまだお屋敷へ帰らないの?」と言った。葉合は慌てて立ち上がると、喜んで「ここの天下第一の美女に我が魂を奪われたのだ!」と答えた。すると美女は「あなたがわたしに真の心を寄せるならお入りなさいな」と誘った。葉合はもう嬉しくなって美女と一緒に部屋に入るやいなや、待ち切れないように美女の胸を抱いたまま寝床の上に倒れた……。こうして二人は七日七晩昼夜を問わず抱き合い転げまわり、葉合は美女の家で色事を楽しんだ。

 さて、葉合の父は息子が何処へ行ったのかわからず、四方八方、内外の花街まで捜させたが、行方が知れない。葉は父子して婦女子を誑かしていたから、息子は誰かに恨まれ殺されてしまったのではないかと騒ぎ立てた。ところがひょっこり八日目に息子の葉合が美女を連れて帰って来た。そして葉もまたその美女を一目見て魂を奪われ、どうしてこの女はこんなに美しく育てられたのか、仙女、皇妃よりも美しく艶やかだ、横から見ても竪から見ても、前、後ろ何処から見ても譬えようもなく美しい。こんな美女と一晩でも一緒に寝られたら死んでも悔いはない、だが惜しいかな美女は息子のものだ、息子の奴、死んでしまえばいいと思った。美女は葉合の父の想いがわかり、流し目を送って微笑んだ。それを知った葉は心をふるわせ、すぐにでも美女を抱いて口づけしたかったが息子や人の前ではそうもいかず、ぐっと唾を飲み込んだ、そして股の下は気が立っていた。

 葉合は美女を家に住まわせると、美味いものを食べたり飲んだり、ただもう美女にしつっこくまとわりつくばかりであった。美女も葉合を嬉しがらせ、まるで膏薬のようにべったり葉合にくっついて離れず、昼も夜もかまわず肉体を求めてきた。やがて三ヶ月もしないうちに葉合は眩暈でふらふらになり、瞼も開けられず、薪のように痩せ衰え、百日過ぎると紙のように薄くなって起きられなくなった。これを見た葉合の父は喜んで「息子、わしが医者の薬で治してやる」と言った、葉合は安心して「うん」と返事をした。まさか親が息子を早死にさせるとは思わず、一日も早く美女を抱きたかったからである。そして親が盛った毒薬を飲んだ。

 葉合が毒を飲んで死んだ晩、葉合の父はすぐ美女の部屋へ押しかけた。美女は「あたしはあなたの息子の女ですよ、まだ葉合が死んだばかりなのにその親があの事をしょうというの?」と言うと、葉合の父は「情事に老若があるものか」と笑って答えた。美女はため息をついて「こうなったら、あたしはあなたと仲良くなるわ」言った。

 それから美女は葉合の父にまとわりついて情事を重ね、父親もまた美女を放さず毎日情事にふけり、一ヶ月もしないうちに痩せ衰え骨と筋ばかりとなり、息も絶え絶えになってしまった。
 ある日、仏法の老僧が葉の屋敷に鬼気があると、宝剣を提げて邸内に入り、美女を見ると、激しい声で「大胆不敵な陰界の霊鬼め、陰界で修練をせず、現世に危害を加えるとは何事だ、わしがお前を退治してくれる」と呪文を唱え宝剣を振り上げ、まさに美女を斬ろうとすると、美女は笑って「惜しいかな老僧、善悪がわからぬのか、葉家父子は道理をはずし良家の婦女を犯すこと数しれず、故に身を捨てて良家の婦女を救うわれに何の罪があるというのだ?」と言った。
 老僧が「お前がしたのは殺生の罪だ」と言うと、美女は「殺生ではない、あの父子は陰界へ言って好色幽鬼になるのだ」と言った。これを聞くと老僧は宝剣を収め、何も言わずに立ち去った。そしてこの日に葉合の父が死ぬと、この美女の姿も見えなくなった。                                       (薛天智故事選)