九官鳥と皇帝
古代、ある皇帝が年をとり、もう苦労は嫌だと皇位を王子に譲ろうと思った。
老皇帝には二人の王子がいる、いずれの王子に譲るにしても、玉座は一つしかない。
さて、どっちの王子に譲ったものか?と考えたが、どうも考えが定まらない。そこで宮廷の文武の大臣たちと相談した。
だが、大臣たちは老皇帝が心の中でどの王子が次の皇帝になるのを喜ぶのかわからない、もし間違えば皇帝の怒りに触れて殺されるかもしれない、そこでどの大臣も異口同音に「聖なる皇帝、自ら立つ賢者こそ君主です」と奏上した。
これが二人の王子に伝わり、王子は二人ともいろいろ知恵を絞った末に、思い切って老皇帝の前に自らの最高の徳を表明するのが得策と考えた。
さて、兄王子は一羽の九官鳥を飼っている。
この鳥は何でも話すことが出来、人よりよほど利口である。九官鳥は兄王子が老皇帝に自らの何をどう表明したらよいか?と思い悩んでいるのを見て「兄王子、あなたは皇帝にまず弟王子に皇位を譲って下さいと言い心の寛大と慈悲を表明しなさい」と進言した。
兄王子はしばらく考えて「つまり、わざと譲ると言うのか」 「そうです」 「もし、嘘が真にならなかったらどうする?」「それはありません、老皇帝は必ずあなたを謙虚とみます。早くお行きなさい、ご成功を祈ります」
兄王子は九官鳥の話を聞いて老皇帝の皇宮へ行った。
つぎに九官鳥は弟王子の王宮へ行った。すると弟王子も考えがつかず思い悩んでいるところであった。そこで九官鳥は「弟王子、あなたは皇位継承を公明正大に争いなさい」と進言した。
弟王子はしばらく考えて「つまり、単刀直入に私に皇位を譲って下さいと言うわけか」 「そうです」 「うまくいくかな?」 「大丈夫です、皇帝は必ずあなたの熱意をみます、早くお行きなさい、ご成功を祈ります」
弟王子は九官鳥の話を聞いて老皇帝の皇宮へ行った。
先に兄王子が老皇帝の皇宮に着いた。「聖なる皇帝父上、どうぞ天下の継承は弟王子に…」 「何故だ」 「弟王子は私より聡明です」 「皇位は人臣の極み、天下羨望の的、それを争わぬとは何故だ」 「一つの宝を二人で争えば、皇帝父上のお心をさわがせ、兄弟の情も壊れます。父子の情は山よりも高く、海よりも深く、兄弟の情愛は値千金と申します。私は皇位を弟王子に譲るのがよいと考えました」老皇帝は頷いて「よい、下がれ、わしも考えておく」と言った。
その後に弟王子が老皇帝の皇宮に着いた。「聖なる皇帝父上、どうぞ天下の継承は私に…」 「何故だ」 「私の才能は高く、私こそ聡明なる君主の器です」 「わしの皇位を継いでわしを越えるか」 「藍より出でて藍より青しと申します、私は越えます」老皇帝は重々しく「よい、下がれ、わしも考えておく」と言った。
老皇帝は弟王子の去った後で心を定め、兄王子を即位させた。
皇帝になった兄王子は弟王子の皇位奪還を日夜恐れて止まなかった。
そこで九官鳥は「聖なる皇帝、天下の人民は君主の不義無情を怨むものです」と進言した。兄の皇帝は九官鳥の言を容れて弟王子の息子に領地を与えた、これを臣下、人民は賞賛して天下は安泰した。
一年が過ぎ二年が過ぎると、兄の皇帝は皇位の安楽に溺れ、この安楽が千年万年も続けと不老不死の妙薬を求めた。
九官鳥は「聖なる皇帝、心配無用、西王母の仙桃園の仙桃を一口食べれば若返って不老不死、わたしが一個採って参ります」と言った、九官鳥は西天に飛び仙桃園に入ろうとして仙桃を守る神仙に捕まり「大胆不敵な九官鳥、お前は仙桃を盗んだ天罰を知っているのか」と糾された。「わたしの主人は天下の聖なる皇帝、皇帝の不老不死ためにはわたしは死をもいといません」と答えた。
神仙は九官鳥の忠誠に感動して仙桃をやろうと思ったが、西王母に知られれば大変と仙桃の種を九官鳥にやった。
九官鳥は仙桃の種をくわえて帰り、兄の皇帝に「皇帝、これを蒔いて三年経てば仙桃がなり、皇帝がそれを食べれば不老不死になれます」と言った。兄の皇帝は三年と言えば三六五日が三回、千日以上だ、長すぎると思ったが、せいては熱い豆腐は食べられない、慌てず我慢して待とうと考え、仙桃の種を宮廷花園の老使丁に渡した。
花園の老使丁は七十過ぎの白髪の老人である。老使丁は仙桃の種を丁寧に土に埋め、芽が出れば土をならし、心血を注いで仙桃の木を育て一日一日と大きくした。
三年が過ぎ、桃の木は花を咲かせ、やがて赤白半々に色づいた瑞々しい大きな仙桃が二つなった。
それを見た老使丁は一目で食べたくなり、皇帝はこれは仙果で人間が食べると不老不死になると言ったが、わしは苦労してこの仙桃を育てたのだから、そっと一口食べてみてもいいだろうと考え、老使丁はほんの少しと思いながら大きくガブリと齧って食べてしまった。
一口の仙桃の実が喉を通り腹の中に入ると老使丁は気分爽快になり、骨の節々が軽くなり鏡を見ると、なんと老使丁は十七八の若者になっていた。
さて、弟王子は事の次第が自分には九官鳥の言う通りにはならなかったので、九官鳥を何時か口実を見つけて殺してやろうと思っていたがなかなか機会が掴めないでいた。
そこに不老不死の仙桃の事が起こり、不老不死、若返りなど信じていない弟王子は機会到来と、毎日、宮廷花園に出入りして桃の成長を眺め、仙桃が熟した時にそれを文書で讒言するつもりでいた。
ところが花園の老使丁が仙桃を食べて本当に若返ったと知り、驚いた弟王子は切羽詰って老使丁を仙桃を盗んだ罪で殺したあと、仙桃に毒を入れて兄皇帝に捧げ持って行った。
兄皇帝は非常に喜んで仙桃を食べようとすると、弟王子は「皇帝、食べてはなりません」と言った、兄皇帝は目を丸くして「何故だ」と問い返した。「仙桃は天界に実るもので、下界ではなりません、九官鳥は仙桃の名をかりて皇帝に危害を加えようとしたのです」 「あいつはわしの忠誠無二の臣、そんなわけはない」 「真偽は試してみればすぐわかります、誰かに仙桃を一口食べさせれば明々白々です」 「よし」 兄皇帝は臣下に命じ人を捕まえ仙桃を食べさせた、するとその罪もない人は血を吐いて死んだ。
兄皇帝はびっくりして、九官鳥は何故わしを殺そうとしたのか?不思議だ。そうだ、あいつはわしが即位したあと、その功績を誇り、わしになんだかんだと文句をつけていたが、わしを怨んで毒殺しょうとしたのだ、死罪にしてやろうか?いや、あいつはわしの即位に尽くしてくれた、それに免じて許してやろうか?だが、今は天下泰平、あいつの知恵を借りるまでもない、ここはうるさいあいつを除けてしまおうかと、自分自身に言い聞かせ、命を下して九官鳥を捕らえ、「九官鳥、覚えがあろう」と言った。
九官鳥はすっかり事情を捉え「知っております」と答えた。「何の罪か言ってみろ」 「暗君を補佐し、狭量な凡人を許した罪です」と言うと九官鳥は翔び上がって皇宮の金殿に頭をぶつけて死んでしまった。
兄皇帝は九官鳥が死んでしまうと、口うるさい奴がいなくなったと、思うままに振舞い、酒池肉林、酒と女に溺れた。その間に弟王子は人心を治め皇位を奪った。
やがて兄王子は天罰の雷に打たれて死んだあと幽鬼となった。
薛天智故事選 00.12.10