白馬と妖怪

 沈陽の西約三十里に后馬村という村がある。この村の北に一つの泉がある、水面はあまり広くはないが、どんな旱魃にも水がなくなることはない、機械で水を汲み上げても深くて底が見えない。ある人はこの泉の底は東の海につながっていると言うが、本当は何処につながっているのかはっきりしていない。
 この泉をある人は“馬大坑”と言い、ある人は“白馬坑”と言う、どうして両方に“馬”がついているのだろうか。これにはある話が伝えられている、年寄りに何時頃の話かと聞くと、ずっと昔のことだと言ってこんな話をしてくれた。

 昔、后馬村は人家のない平坦な低い土地でよく遼河の水が出た。ある年のある日、ここに東から逃れて来た馬家の兄弟が来て、先ず仮小屋を作りそれから家を建て荒地を拓いて畑を耕し始めた。
 兄は二十、弟は十九で一つ違い、二人とも気立てはいいが兄は弟よりも背も低いし顔立ちも平凡、それに比べると弟は背丈もあり顔立ちもよく兄より早く結婚した。
 だが弟夫婦は何かにつけて兄をたて、食べるのも着るのも常に兄を先にした。しかし、人はよくされればされる程、済まない気持ちになるものだ。
 兄は弟夫婦に面倒をかけると自分から分家すると言い出した、弟夫婦は驚いて止めたが兄は頑固で、こうと決めたら九頭の牛で曳いても動かない性質だからすぐ南甸子(今の前馬村)に小屋を建てて引っ越した。そして朝早くから暗くなるまで荒地を拓き畑を作り、馬があればなあと思っていた。  

 ある晩、兄は不思議な夢を見た、一人の白い髭の老人が現れ「明日の朝早く起きて真南に五百八歩行くと一塊りのネジアヤメがある、そこを掘ると綺麗な泉がある、その泉の水を汲み上げるとお前の欲しいものが得られる」と言った。
 兄は翌日早く起き、半信半疑で真南に五百八歩行くと、確かにネジアヤメがある、そこを掘ると青い石の板があり、それをどけると綺麗な水が涌き出ていた、桶に水を汲み上げると西南の方角から一頭の痩せた真っ白な馬が駆けて来て桶の水を一気に飲み干した。
 兄はそのさまを見て馬の首をたたきながら「可哀相に、骨が見えるほど痩せてるじゃないか、お前の飼い主は水もろくに飲ませてくれないのか、よしよし今日は十分飲みな」と言い、続けて桶に二杯、水を汲んでやると白馬はすっかり飲み干した。

 白馬は桶三杯の水を飲み干すと突然頭を上げ、人間のように「あなたは本当にいい人だ」と言った。兄はたまげて後ろに飛び下がり、“この馬はどうして口がきけるのだろう、妖精じゃないか”と思うと、白馬は兄の驚いた様子を見て「わたしは妖精じゃありません、天界の掟に触れ下界に落された天馬です、わたしの新しい主人はあなたです、わたしは痩せて見えますがあなたの仕事を何でもして上げられます」と言った、それを聞いて兄は夢で見た神さまの言う通りだと喜んだ。
  兄は白馬の小屋を作ったり細かい干草を食べさせたり、心を込めて世話をした。この白馬は本当に力が強く、普通なら二頭の馬で曳く犂を力もいれず一頭で曳き、四頭立てで曳く穀物も、ある時は車一杯の石でも軽々と曳いた。
 兄は白馬を宝のように可愛がり、人々は無限の力を持つ馬だと褒めた。兄は白馬に助けられて豊かな収穫を得、それを穀物置き場に入れ終わると白馬は兄に「明日早く馬車でお嫁さんを迎えに行きましょう」と言った、兄が聞き返しても白馬はそれっきり何も答えなかった。

 翌日、兄は鶏が三回鳴くと起き上がり白馬を車に繋いで家を出た、白馬は日が傾くまで遠く走り、やがてある辻で止まった。
 すると二十歳位の娘が急いで走って来ると涙を流しながら「あたしは遼河の北の新民県から来ました、水害に遭って一家は流され、あたし一人だけ逃げて来ました、どうか助けて下さい」と言った。兄は可哀相に思って「誰だって災難に遭わない者はありません、さあ、車に乗りなさい」と言った。
 娘は千恩万謝の思いを込めて車に乗ると、白馬は兄に向かって頭を振り車を回して走った。途中で娘と兄は親しくいろいろ話をしていて知らぬ間に兄の家へ着いた。兄は自分が独身なので娘を泊められないと思い、娘を弟の家へ連れて行った。
 翌日、弟夫婦は嬉しそうに娘が兄が真面目なので結婚したいと言っていると伝えた、それを聞くと兄は喜んだ。

  兄の家に白馬が来て三年目の年、雨がよく降り夏になってやっと畑を耕し終わりいよいよ真夏に入る晩、白馬は「ご主人、明日の朝早くご主人一家、弟さん一家は高台に小屋を作り、荷物を運び込んで避難して下さい、あさって午後の三刻に遼河の妖怪がここを洪水にしますからその時わたしの縄を解いて下さい、わたしはやらなければならぬことがあります」と言った。
 兄はこれを聞いて白馬と別れる時が来たのだ悟り、涙を流し「白馬よ、解いてやるよ、行くがいい、わしらはお前の恩義を孫の代まで忘れない」と言った、白馬は兄に体をこすりつけて別れが辛い様子だった。

 その日の午後になると、高台に避難した兄と弟の一家は西の方からゴウゴウ音を立て数丈もある高い大水が押し寄せるのを見た。すると白馬は一声嘶き、空に飛び上がりそのまま河に跳び込んだ、すると続いて真っ黒な妖怪が十数丈もある波頭に乗って白馬に挑んで来た。白馬と黒い妖怪は白と黒の塊りになって天に昇り、また天から水面に落ち互いに一刻も打ち合い、やがて水面に大きな渦巻きを残して白馬と黒い妖怪は見えなくなった。

 そして巻き上がった水が地面に撒かれるとそこが大きな泉となった、それが今の白馬坑である。後にある人は白馬が水の妖怪を東海に連れ去ったと言い、ある人は白馬が妖怪を泉の底に閉じ込め、妖怪がまた大水を出さないように監視しているのだと言った。      

            薛天智故事選                               00.12.2

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