商人と狼と虎と亀
昔、商人がいた。ある日、金を持って商品の仕入れに出かけ、森のわきを通ると森の中から大きな狼が出て「俺は喉が渇き腹が減っている、お前を食わせろ」と牙をむき爪を立て道を阻んだ。
商人は震えて驚き「優しい狼さん、わたしを食べないで下さい。わたしが狼さんに食べられて死ぬと、わたしの年老いた母と妻や子は生きていけません、狼さんがわたしを放してくれれば、わたしは狼さんのために何でもします」と言った。
狼はこれを聞くと嬉しくなり心の中で、“人はみんな俺を貪欲で残忍横暴だと罵るのに、この商人は俺を優しいと言った、本当は俺は今、腹は一杯だからこいつを食べきれない、ここは情けをかけておき代わりに何かさせてやれ”と考えた。
「お前、何をしているんだ」 「商売です」 「何しに行く」 「商品の仕入れです」 「そうか、ちょうどいい、俺は人間の叩く太鼓が欲しい、仕入れのついでに持って来てくれ」 「わかりました」と商人が承知すると、狼は意地の悪い顔で「お前が言うだけで持って来なければ、今度会った時は許さんぞ」と言った。
商人は大丈夫だと何度も言って急いで逃げた。
すると、山の嶺から真っ赤な盆のような口を開けた虎が「わしは喉が渇き腹が減っている、お前を食わせろ」と行く手を阻んだ。
商人は“狼からやっと逃げたら今度は虎、わたしはなんと運が悪いのか”と驚き嘆き、「慈悲深い虎さん、わたしを食べないで下さい。わたしの家には年老いた母とそれに妻と子がいます、わたしが死ぬとみんな死んでしまいます、虎さんがわたしを放してくれれば、わたしは虎さんのために何でもします」と言った。
虎はこれを聞くと嬉しくなり、“人はみんな俺を残忍で横暴だと罵るのに、この商人は俺を慈悲深いと言った、本当は俺は今、腹は一杯だからこいつを食べきれない、ここは情けをかけておき代わりに何かさせてやれ”と考えた。
「お前、何をしているんだ」 「商売です」 「何しに行く」 「商品の仕入れです」 「そうか、ちょうどいい、俺は人間の叩く銅鑼が欲しい、仕入れのついでに持って来てくれ」 「わかりました」と商人が承知すると虎は怒った顔で「お前が嘘をつけば、今度会った時は許さんぞ」と言った。
商人は天を指差して誓って見せ、転ぶようにして急いで逃げて行くと大きな河に行き当たって前に進めない。
東を見ても西を見ても橋もなければ舟もない。どうしようと考えていると、大きな亀が悠々と河を泳いで来て「あんた何しているんだい」 「商売です」 「何しに行くの」 「商品の仕入れです」 「河を渡りたいのかい」 「そうです」「渡してやるから乗りな」それを聞くと商人はとても喜び、亀の背に乗り、“さっきわしは狼と虎に脅かされ、どうなるかと思っていたのに、今度は思いがけず亀の親切に遇えた”と嬉しくなって亀に礼を言った。
ところが亀は河の真ん中まで来ると突然止まって進まなくなった、商人が「亀さんどうしたの?」と聞くと、亀は首を伸ばして振りかえり、フフフと冷たく笑い「商人なら金を持っているだろう、出さなければ河の中に落すぞ」と言った。商人は驚いて震え「亀さん止めてくれ、欲しいものを言ってくれれば、帰りにきっと持って来て上げるから」と頼むと、亀は目をギョロリとさせ「俺は品物はいらない、お前の金が欲しい」 「なんだと」 「お前の巾着の中の金を全部俺に出せ」と言った。
商人はそれを聞くと長い溜息をついて「狼には太鼓、虎には銅鑼、亀には金をやらねばならぬ、一歩進めば一つの厄、生きて行くのはなんと難しいことか」と嘆いた。
薛天智故事選 00.11.27