泥人形

 昔、邱竜吉という泥人形作りの名人がいた。
 この名人の作った泥人形は話をしたり歌を歌ったりした。そして嫁を娶れない若者に天女のような美しい泥人形を作り、息を吹きかけて娘に変え弟子たちの嫁にしてやったという。
 また邱竜吉の作った仏像は常に世の中を探り、ひそかに霊験を現わし、貧しい人を救い、悪人を懲らしめたという。こうして邱竜吉が作った生きた泥人形や霊験を現わした仏像は数知れない。邱竜吉はどうしてこのような優れた技を持つようになったのだろうか。

 邱竜吉は父子相伝の泥人形作りの技を受け継いでいたが、また心の中で“邱家何世代もの間に作られた泥人形、仏像は星の数より多いが泥人形を本当の人間に、泥の仏像を生き仏に変えることは出来なかった、わしは何時か泥人形を本当の人間に、泥の仏像を霊験あらたかな生き仏に変えられるようになりたい”と考えていた。 邱竜吉は日夜それを考え二十年が過ぎ、妻を娶り子が生まれ、弟子を持つ師匠となった。

 ある年、ある処に九天玄女の廟が建ち、邱竜吉はその廟の女神の像を作るように頼まれ十数人の弟子たちを連れて行った。
 邱竜吉や弟子たちは廟の中で寝起きして七七四十九日で幾つかの堂の中の神仏の像をほぼ完成させた。だが肝心な大正殿の九天玄女の女神像はまだ出来ていなかった。邱竜吉は女神像を作っては壊し、壊しては作り九九八十一回作り直したが、納得できる女神像が出来なかったのである。邱竜吉は優しすぎる女神でも荘重すぎる女神でもない理想的な女神像をどうしたら出来るだろうかと悩んでいた。

 ある晩、弟子たちがみんなぐっすり寝てしまうと邱竜吉はただ一人大正殿に入って、女神像が出来ないのを嘆いていると、外から女の笑い声が聞こえてきた、こんな夜半に何処の娘が来たのだろうと思い、外に出てみると二人の美しい娘がいた、前の一人は赤い提灯を提げて道を照らし、後ろには星に囲まれた花のように美しい天女がいた、二人の美しい天女は笑いながら近づいて来る。すらりとしたその姿は艶やかで荘重さを失わず、美しい花のようであった。
 邱竜吉は驚き喜んで「アー、これこそわしの心にあった女神だ」と叫んだ。すると天女たちの姿は静かに消えた。邱竜吉はハッと気がつくと窓の月の光りは水の流れのように大正殿を照らし、神殿の赤い蝋燭の光りが揺れていた。今のは将に夢だったのだ。だがあのほほ笑んだ艶やかにも荘重な天女の姿ははっきりと覚えていた。

 邱竜吉は起き上がるとすぐ泥を捏ね、天女の姿を作り始めた。やがて鶏が三回鳴き夜が明け、弟子たちが大正殿に集まると、師匠の邱竜吉は手に泥をつけたまま地に伏して寝ていた、そして傍らには尊厳な女神像が出来上がっていた。
  その晩、邱竜吉はこの尊厳な女神像は幾十年も泥人形を作ってきた自分の最高の傑作だと何度も寝返りをうち、転々として眠れず、女神像をもう一度見ようと起き上がり、上着を着ると女神像の前へ行って、上から下、左から右へと眺めていると、女神像はまばたきして袖を振るい神殿の上から下へ降りて来た。

 邱竜吉はびっくりして思わず身を引いた、すると九天玄女の女神は笑いながら「邱竜吉、なぜ後ろに下がる?」と聞いた、「女神様のお怒りに触れぬかと思いまして」 「わらわがお前の何を叱るというのか」 「私の技が女神様のお気に入らぬかと存じまして」 「よく出来て悪い所はない、だがまだお前の技は泥の神像が霊験を現わしたり、泥人形が生きた人間になったりするまでにはなっていない」 「何とぞご指導下さい」 「わらわについてお出で」そう言うと九天玄女は邱竜吉を連れて舞い上がり、風光明媚な山里に来ると、積んである泥の山を指して「あの泥でお前の思う通りの人形を完成させたら、またお前を迎えに来る」と言った。

 邱竜吉はそれを受けて、空に鳥が飛び地に虎豹の駆け巡る山里にただ一人、その泥を昼夜を問わず少しも休まず捏ねて泥人形を作り、飢えれば山の木の実を食べ、渇けば山の清水を飲んだ。 日が一日一日と過ぎ、やがて泥も少なくなり、あと六七個の人形を作ればなくなるほどになって、邱竜吉は弟子たちに長年嫁を世話していなかったことを思い出し、何人かの娘の泥人形を作って持ち帰り、弟子たちの苦労に報いようと考え七個の天女のような娘の泥人形を作った。
 出来上がった娘の泥人形を一個一個並べていると、穏やかな風が吹いて柳の花の白い綿毛が泥人形に降りかかった。邱竜吉は泥人形が乾いて花の綿毛がとれなくなるのを心配して、つぎつぎと泥人形についた柳の花の綿毛を息で吹き落していった、七個の娘の泥人形をみんな吹き終わると娘の泥人形は本当の娘に変わり邱竜吉に声をかけた、邱竜吉は目を輝かせて喜んだ。

 やがて九天玄女が五色の雲に乗ってくると、笑いながら「邱竜吉、お前は技を極めた、早く帰るがよい」と言って邱竜吉の体に触れた。邱竜吉が目を開くと身の周りは光りに包まれ、全身が静かな夜の露に打たれたようにしっとりと湿っていた。邱竜吉は廟の裏の草地に寝ていたのだ、あれはすべて夢であったのかと、目をこすってよく見るとあの七人の美しい娘が邱竜吉の前に立っている、いったいこれは夢なのか、真実なのか。

 邱竜吉が呆然として立ち尽くしていると弟子たちが急いで駆け寄り「師匠、何処へ行かれたのかと捜しましたがここに寝ておられたのですか」 「わしは何日寝ていたか」 「いいえ一日です」 「本当か、たった一日か」 「はい、私たちが朝起きましたら、師匠は廟においでにならず、驚いて捜してやっと今師匠を見つけたのです」邱竜吉はこの時、突然心が澄んですべてを悟った。
 一人の弟子が邱竜吉の後ろにいる美しい娘を見て、小さな声で「あの娘たちは?」と聞くと、邱竜吉は笑って「お前たちの嫁だ」と答えた。娘たちはそれを聞くと顔を赤くし、弟子たちもはにかんで下を向いてしまった。泥人形師の名人邱竜吉はそれを見て「ハ、ハ、ハ」と笑い廟の中へ入って行った。      

             薛天智故事選                             00.11.14

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