兄と弟  

 昔々のそのまた昔、洛西寨に車先という働き者で真面目な愛尼人が住んでいた。聡明で賢い妻があり、二人の男の子を生んだ。兄は先嗄、弟は先明。先嗄は小さい時から怠け者で薄情者、村の有名な道楽息子であった。先明は身の丈六尺の偉丈夫でしかも聡明善良、人には誠実で村では誰一人として先明を嫌う者はなかった。

 先明が十四才の年のある日、村の十何人かの若者と山へ狩りに出かけた。山の窪地に来た時、空が俄かに曇り大風が吹いて、雷鳴の轟く暴風雨となり、若者たちはみんな窪地から飛ぶように走り村に帰った。その時、先明は豹が小犬を追い、掴みかかって食べようとするのを見て、豹をめがけて銃を一発はなした、豹は「ギャア」と一声叫んで万丈の谷底に転げ落ち、先明は傷ついた小犬を抱いて村へ帰った。

 翌日、先明は山に登り峰を越えて薬草を探し、小犬の傷につけてやった、何日かの心を込めた看護で小犬の傷は治った。やがて小犬は大きくなって、先明が外に出ると尾を振って従い、夜は先明の部屋の前に寝て、忠実な衛士のようであった。それから何年かして、老いた車先は病に臥し、臨終の前に息子二人を呼んで「わしはもう長くはない、わしが死んだら先嗄は弟をよくみて、分家させず仲よく暮らせ……」こう懇ろに言い聞かせると息絶えた。やがて母もこの世を去った。 

 母の死の翌日、兄の先嗄は弟を分家させた。先嗄は十段歩の畑を自分が七段歩、先明に三段歩、家畜は自分で一頭の牛、三頭の馬、二頭の豚を取り、先明には一羽の雌鶏とあの犬しか分けず、分家した後は村の東に小屋を作って住み、毎日薬草を取ったり、日雇い仕事で暮らせと言った。翌年の春、先明は畑を耕す牛がないので、兄の先嗄に牛を貸してくれと頼んだが先嗄は貸してくれるどころか先明を怠け者と罵るのであった。先明は声を呑んで耐え家に帰り、仕方なく犬に犂を引かせて畑を耕すしかなかった。ところが、犬は十分に犂を引いて畑を耕す力を持っていて、昼にならないうちに三段歩の畑を耕してしまい、先明は大喜びした。

 翌日、犬が犂を引いて畑を耕した話は、村中にひろがった。先嗄はこれを聞いて早速、先明の家に行き、わざと悲しそうな顔をして優しい声で「お前、俺の牛が病気になってしまって、俺はまだ畑が耕せないのだ、お前の犬を貸してくれないか」と言ったので、先明は兄に犬を貸してやった。先嗄は犬に犂をつけて畑を耕した、ところが犬は言う事を聞かず昼になっても二畝も耕さないで、大声で吠えて噛み付こうとした。とうとう先嗄は怒って犬を切り殺してしまった。夜になって先明は兄の先嗄に犬はどうしたか聞きに行くと、先嗄は犬はもともと犂を引いて畑を耕す事なぞできないではないか、お前は俺を騙したと怒鳴り、犬はもう殺してしまったと言った。

 先明は犬が死んだと聞いて、嘆き恨み泣きながら畑へ行ってみると犬は切り殺され、周りは血だらけで、思わず大きな声をあげて泣いてしまった、ひとしきり泣いた後、犬を家の前の山に埋めた。  翌日の朝早く先明はまた犬の墓の土饅頭へ行って泣いた、先明が身も世もなく嘆き悲しんでいると、大きな音が響いて土饅頭の上から、一本の黄金の竹が伸びてきた、そよ風が三丈も高く伸びた金の竹に吹いていた、金の竹は先明に「御主人様、御主人様、あなたは世の中で一番いいお方です、働き者で優しくわたしはあなたの御恩を永遠に忘れません。今後何か困った事があったら、火吹竹でわたしを三回叩いて下されば、あなたを助けてあげます、金でも銀でも何でも出してあげます、けれども叩くのはその度に三回だけですよ」と言った。先明はこれを聞いて、悲しみが喜びに転じて、急いで家に帰って火吹竹を持ってくると、金の竹を三回叩くと果たして金と銀の塊が落ちてきた。先明は喜んで金と銀を持って市場に行き、穀物の種や酒、肉ととり換え、翌日、人を雇って種を播く事にした。 

 先明が市場から帰ってから、心の悪い兄が来て、弟が酒を飲み肉を食べているの見て思わず涎を垂らし、猫撫で声で「俺はお前の犬を殺してしまって悪いことをした。それで俺はお前に御馳走しようと思って来てみると、お前の所には穀物や酒や肉があるとは思いもしなかった、お前は何処から金を算段してきたのかね、教えてくれないかね」と言った。人のいい弟は兄の嘘に騙され、兄は本当に自分に優しいと思い込み、犬の墓から金の竹が出てきた事、その金の竹から、金や銀が出てきた事などを詳しく話し、それから兄に御馳走した。食べ終わると先嗄はまた悪い心を起こし、いかにもお願いするように装って、弟に「なあ、弟よ、俺たちは仲のいい兄弟だ、今の俺は暮らしにとても困っている、お前の火吹竹をを借りて俺もひと叩きして、金銀をとらしてくれないか」と言った。  

 先明が先嗄に火吹竹を貸してやると、先嗄は火吹竹を持って家に飛んで帰り、二つの袋を提げて、一気に犬の埋めてある所に行って、嬉しそうに竹を叩くと果たして金銀が竹の上から落ちてきた、欲張りな先嗄は先明に言われた事をかまわずに、ただ金銀を袋に一杯にしたいと、竹を叩き続けると金銀は犬の糞尿となって落ちてきて、先嗄は全身糞まみれになってしまった。先嗄は怒り狂って、竹を切り倒し、ほうほうの体で家に帰った。  翌日、先明が火吹竹を取りに行くと、それを知った先嗄は隠れてしまった、先明は半日待っても先嗄に会えず、不思議に思って急いで犬の墓に行ってみると、墓の上の金の竹は見えず、竹は兄に切り倒されていた。

 先明は嘆き悲しみ竹を担いで家に帰り、その竹で母鶏が卵を生む籠を編んだ。夕方、先明が畑から帰って籠を見ると籠の中は卵が一杯になっていた。先明はとても喜んで、翌日市場に行って卵をいろいろな物ととりかえた。先明は家に帰る途中で兄に会った、先嗄は先明が沢山の品物を背負っているのを見て、癪にさわり腕を振り上げて先明を罵った「お前は良心のない男だ、また俺を馬鹿にした、何が金銀だ、俺は全身犬の糞だらけになった」と言いながら先明を殴ろうとした。先明は「兄貴は欲張ったから、そうなるのはあたりまえだ、三回叩くだけと言ったのに、叩き続けるから犬の神が怒ったんだ」と言うと先嗄は顔から耳まで赤くして、自分が悪かったと言うようなふりをして、また先明に鶏籠の秘密を聞いて「亡くなった父母に見せたいから鶏籠を一日貸してくれないか」と言った。

 人のいい先明は今度もまた兄を許し、鶏籠を貸してやった、先嗄は鶏籠を家に持って帰り、床について金持ちになったいい夢を見た、しかし二度と目を覚まさなかった。翌日、鶏籠は無事に先明の家に戻っていた。この年洛西寨は大豊作であった。先明は心にかなった妻を娶り、父母の残した家に帰り、幸せに暮らし、亡き父母を祭る務めを受け継いだ。   

       西双版納哈尼族民間故事集成           1992,12,27   

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