宝の数珠の縁
昔、遼河の近くに周という大金持ちがいた。周は何時も自分が大金持ちなのは先祖の墓の風水がいいからだと言い、他人が周家の墓地の草を刈ったり木を切ったりして、墓地の風水が破られないように老人の墓守りを雇っていた。
ある年にその老人が死んだので、すぐ石頭という山東人を代わりに雇った。
石頭は三十過ぎで家族はいない、数年前に流浪し、ここに来て周家の墓守りに雇われたのである。真面目で何をしても察しがよく周家の墓守りになるとすぐ身の回りの物をまとめ墓守小屋に住み、時々周家に食料を貰いに行くほかは一歩も離れず墓地を守っていた。
周家の墓地は遼河のほとりにあり、後ろは黄土の丘で、“後ろを山に守られ、前で金の盆で顔を洗う”得がたい風水の相だと人は言っていた。墓地は非常に広く大小の墓が幾十も並び、風が吹けば一抱えもある百本の大木がビョウビョウと鳴り人を驚かして寄せつけない。
“冬寒ければ夏暑い”という。ある年の特別暑い夏の晩、石頭は晩飯を食べ終わり、蒸し暑いので体を洗おうと、遼河の岸の砂地に行くと、裸の子どもたちが追いかけっこをしてキャアキャア叫んでいる。石頭は“この辺りは人家から遠く昼間でも人が来ないのに、夜になってどうしてこんなに大勢の子どもが集まったのだろう?、珍しいことだ”と何気なく子どもたちに近づくと、子どもたちは「人が来た」と叫んで、押しあいへしあいしながら大きな柳の後ろへ逃げておとなしくなった。
どうやら見知らぬ石頭に驚いたらしい、子どもたちは一人ひとり探るようにそっと石頭を見ている、俺を怖がっているのかなと思っていると、突然、白い髭の老人が現れ楽しそうにしながら「石頭、お前に福運がついた」と言った、「何の福運ですか」 「お前は金持ちになる」そう言うと老人は柳の下の子どもたちを指差すと、子どもたちは空に飛び上がり老人が袖を振ると一人ひとりが“サッサッサッ”と三回ひっくり返り、たちまち銀色に輝く珠になって繋がり一連の宝の数珠となると石頭の首にかかった。
「石頭、この世に稀な宝の数珠をお前にやる」 「ご老人、どうしてこのような貴重な宝物を私に下さるのですか」「そんなこと聞かないでよい、お前はそれを大切にしまっておけ、時が来ればわかる。お前にもう一つこの数珠の偽物をやるから、周家に食料を取りに行く時に首にかけて行け、きっといいことがある」老人はそう言うと河を指差し、「カァ」と一声すると水の中からまた一連の数珠が飛び出し石頭の手のひらにのった、そして老人の姿は消えた。
さて、石頭は老人に言われたとおり、周家に食料を貰いに行く時にあの偽の数珠を首にかけて出かけた。偽の数珠は本物そっくりで人には偽物とはわからない。石頭が周家の門をくぐるとすぐ周がこれを見て驚き「石頭、その数珠は何処から持って来たんだ」と聞いた、「神様がくれたんです」 「嘘だ?」 「本当です」 「わしは生まれてから一度も神様なんて見たこともない、その珍しい数珠はきっとわしの先祖の墓から盗んだのだろう」 「ご主人、変なこと言わないで下さい、嘘だと言うなら墓地を見回りどれかの墓に掘り返した跡があれば俺を盗掘の罪で訴えてもいいですよ」と石頭は言い返した。
周はもともと周家の墓にこんな珍しい貴重な副葬品などないことを知っていたのだが、貧乏人は何でもごまかすと思い込んでいるからちょっと脅かしたのだ。
ところが石頭が少しも動じないないので慌てて手をかえ「いや、石頭、冗談冗談」と言いはぐらかし、石頭が米を担いで帰ると母屋へ行って女房とある悪巧みを話し合った。
翌日、周は焼酎の壷と四品の料理を用意して石頭を招き「石頭、お前三十過ぎてまだ所帯を持っていないが、どうだわしの娘の桂蓮と婚約しないか」と言った。「ご主人、俺は家も一坪の土地もないから結婚なんてできません」「心配するな、お前があの数珠を俺にくれれば娘と婚約させる」と周が言った。だが石頭は誠実で愚直だけの男ではない、心の中では周が娘をだしにして俺からあの数珠を奪おうとしているのだと勘づいていた。それで婚約を承知したが実は偽の数珠を周に渡しておいた。
案の定、半年たったが周からは何の音沙汰もない。「お義父さん、俺と桂蓮は何時結婚できるのです?」と石頭が聞くと、周は娘を本当に石頭の嫁にする気はないから「わしはいい日柄を考えているのだ」と嘘をついた。また半年たち、周は石頭に娘との結婚を迫られないうちに早く娘の嫁ぎ先を決めてしまおうとしたが、そのうちに桂蓮が病気になって寝つき、水も米も口にしなくなってしまった。医者や占い師に診て貰っても病気は重くなるばかり、フウフウ息をついて今にも死にそう、周は熱い鍋の上の蟻のように慌て、易者先生にすぐ桂蓮の嫁の口を探して貰ったが、死にそうな娘と結婚するような人は誰もいない。そのうちに娘は死んでしまった。
周は最後の手段に死んだ馬を生き馬にするには石頭を騙すしかないと思いつき「石頭、わしはお前たちの結婚の吉日を選んでいたが、急に娘が病気になったからすぐ結婚させる」と言った。石頭は周が無理に病気だと言って死んだ娘を自分に押しつけ、あの数珠との引き換えにしようとしていることは分かっていたが石頭も初めは娘との婚約を承知していたこともあり、今更引き返すこともできぬと思い承知した。
周は喜んで笛や太鼓で囃しながら死んだ桂蓮を担いで石頭の墓守小屋へ運んだ。
人は誰でも夫婦の床入りを喜ぶものだが、石頭は死んでいる新妻を前に困り果てていた。そしてあの宝の数珠をくれた老人を思い起こし、心の中で“ご老人あなたは『宝の数珠を首にかければいいことがある』と言いましたが今はこのざまです、何処にいいことがあるのです?”とつぶやいた。
するとこの時、戸が開いてあの白髭の老人が天女のような美しい娘を連れて入って来ると笑いながら「石頭、お前に花嫁を連れて来たぞ」と言った。
石頭は驚いて、床に仰向けになって死んでいる桂蓮と老人の後ろにいる娘を見比べながら「ご老人、これは……」 「石頭、今話してやる、驚かなくていい」 「どうぞお話し下さい」 「わしは遼河の神、この娘は小芹、三年前に無理に妾にされ、それが嫌で遼河に身を投げて死んだが、恨みを抱いた小芹の霊魂は遼河を離れず浮遊し、たまたま誠実なお前を見て惚れた。
それでわしがお前たちを結婚させようとあの宝の数珠をお前にやったのだ、お前があの偽の数珠で周の気を引いて周の娘の桂蓮と婚約し、その桂蓮が死んで霊魂が出て行ったからその娘の死体に小芹の霊魂を入れてやるのだ。
小芹、早く桂蓮の体に入ってお前の願いを叶えろ」と言うと老人は小芹を桂蓮の死体の上にのせ「カァ」と一声上げると、小芹の霊魂は桂蓮の死体に入り、小芹は桂蓮の姿を借りて生き返った。
翌日、周は娘の桂蓮が生き返ったと聞くと急いで家へ連れ戻そうと石頭の墓守小屋へ行った、だが石頭小芹夫婦はすでに故郷の山東へ帰ったあとであった。
後に聞くと石頭はあの遼河の神から貰った宝の数珠を元に幾つもの質屋を営んで財をなし、小芹も何人もの息子や娘を生んで幸せに暮らしたということである。
薛天智故事選 00.11.6