周成と仙人

 昔、遼南山の麓の周家村に周成という人が住んでいた。子沢山で女房は何人もの子育てに疲れ何時も薬を飲んでいた。
  ある年の暮れ、近所の家では年画や春聯を飾り、正月の準備で賑やかなのに周成の家では何時ものように薄い粥を作るだけで竈も鍋もさびれたままだった。周成や女房はそれでも仕方がないが、子供たちは近所の家が豚や羊の肉をさばいたり、新しい服を用意しているのを見ているのだから可哀相たらない。

 蝋月二十八日、とうとう女房は我慢できず「お前さん、あたしの実家で助けて貰っておくれ」と言った。周成は前から貧乏でも親戚知人に助けて貰うのは好きではなかった、だが今はそんなこと言ってはいられないと、思いきって女房の父親にすがることにした。
 女房の実家も余裕があるわけではないが、義父はけちや欲張りでもない。周成が来ると義父は正月の物を借りに来たのだなと察し、料理や酒を出したあとで豚肉十斤、粉二十斤、豆、凍豆腐、米粉の麺などを持たせてくれた。
 周成はどうやら助かったと借りた食料を担いで家へ急いだ。途中で白い髭の老人が道端に涙を流しながら座り込んでいるので「お爺さんどうしたんです」と聞くと「食べる物がなくて年が越せそうもないのだ」と言った。周成は老人が可哀相になり持っていた食料をみんな少しずつ分けてやって、また暗くなった道を急いだ、まだ家は遠い。

 すると突然二人の追剥ぎが出て「この道もこの木もみんな俺たちのものだ、ここを通るなら金を出せ」と脅かした、周成は貧乏人が追剥ぎに遭うなんてと思い「わしは素寒貧の貧乏人です、お二方どうかわしを通して下さい」と言うと二人の追剥ぎは笑って「俺たちはもっと貧乏だ、背負ってる物は何だ、早く言え」 「正月の食料です」 「俺さまたちの欲しいのもそれだ、早く寄越せ」 「でもこれは恥を忍んで借りた物です、盗られてしまってはわしも女房も子どもたちも年が越せません」と言うと、鬼のような二人の追剥ぎは大きな棒を振り回し「黙れ、二度と言えばお前を閻魔の処へやるぞ」と怒鳴った。

 周成は女房も子どもたちも待っているのにこんな追剥ぎに遭ってしまってと大声で「助けてくれー」と叫んだ、とたんに追剥ぎの大きな棒で脳天を打たれ気を失った。しばらくして気がつくと、担いで来た食料はみんな追剥ぎに持ち去られていた。何も持たずに家には帰れない、死ぬしかないと、周成は木に縄をかけて首を吊ろうとすると“ガサッ”と枝が折れてしまった、お天道様が俺を首吊りで死なさないなら河に飛びこもうと、フラフラと河辺まで行くと河は真冬の寒さで凍りついている、アア、お天道様は河でも死なしてくれない、それなら井戸に身を投げようとまたフラフラと井戸へ行って“ドン”と身を投げると井戸は空井戸で水はなく井戸の底に頭をぶつけただけだった。

 周成は天を恨み「お天道様、お天道様、わたしは貧乏で追い詰められ、死のうと首を吊れば木が折れ、河に身を投げようとすれば河は固く凍り、井戸に飛び込めば空、貧乏人は生きも死ぬもできないのですか」と天を恨んだ。すると井戸の外から「周成、死ぬな」と人の声がする、こんな真夜中に何処に人がいるのかと不思議に思うとふいに、周成の足は井戸の底から離れ軽々と井戸の外へ飛び出した。
 頭を上げると、あの道端で涙を流していた白い髭の老人が笑いながら立っていて「周成、わしが正月の物を貸してくれる所へ連れて行ってやる」と言った。
 周成は老人について山に登ると、老人は崖の前で“パンパンパン”と三回手を打ち、“開け開け開け”と三回声を上げた、すると“ガー”と岩の崖が開いた。中に入ってみると山があり水が流れ、青い瓦などの堂が幾つかある。老人はその中の金銀珠宝をちりばめた小さな堂に周成を連れて行くと「周成、何を借りたいのだ?」と言った。周成は金銀を借りれば後で返せなくなると思い、「お米を少し貸して下さい」と答えた、すると老人は「じゃあ米をやろう」と言って、懐から小さな布の袋を取り出し、傍らの小さな瓶から真っ白な米を出すとその袋に入れ袋を周成にくれた。

 周成がこの米袋を担いで家に帰り、袋の米をあけるとそれは宝の米袋で幾らでも米が出てきて、たちまち米置き場は満杯になった。周成は近所や周りの村の貧しい人々にもこの米を分けてやった。 こうして周成はこの米袋のお蔭で家を買い畑を買って豊かな家になり、何年もたった。周成は「人さまから物を借りなくても済むようになれば、借りた物は返さなければいけない。わしはこの米袋をあの老人に返して来る」と言って米袋を持ってまたあの山の崖に行き、三回手を叩き三回開けと唱え、岩の崖が開くと中へ入った。

 するとあの白い髭の老人が黒い髭の老人と大きな柳の木の下で一心に碁を打っている、周成は言葉をかけて碁の邪魔をしてはいけないと、そっと傍に立って見ていた。だが周成は碁ができず退屈してきた、木の葉は青から黄に変わりまた青になって黄に変わり、枯れ葉になってひらひら散っていく、周成は何もすることがないので枯れ葉を掃除しょうと思うと、目の前に箒と箕と籠が出てきた。周成は枯れ葉を掃いては籠に入れ掃いては籠に入れ忙しく働きどれほど経ったか分からない。

 周成はお腹が空いたなと思っていると、白い髭の老人が「周成、お腹が空いたら麓の桃を取って食べるがよい」と声をかけてくれた、「有難うございます」と言って周成は麓の桃園へ行ってみると瑞々しい大きな桃が鈴なりになって甘い香りが漂っていた、周成は桃を三つ食べるとお腹が一杯になった、そこへまた白い髭の老人が笑いながら現れ「周成、家が恋しくないのか?」と聞いた。

 周成はその言葉で夢から覚めたようになり我が家を思い出した、そうだ家へ帰ろうそう思って村へ帰った。 ところが村は全く変わって町になっていた。町を歩く人々は周成の知らない人ばかり、人々は周成という人は五百年前に米袋を返しに行って仙人になって天界へ行ったそうだと話してくれた。     

            薛天智故事選                              00.10.19

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