玉皇大帝を打つ
胎里窮という男と胎里富という男がいた。胎里窮は年中忙しいのに貧乏で衣食にことかき、住まいは寝ると空が見える。胎里富は年中閑なのに金持ちで旨い物を飲んだり食ったり、住まいは大きな屋敷で上等な布団で寝ている。
ある時、胎里窮が病気になった、女房は亭主の胎里窮を抱いてシクシク泣きながら「とうちゃん、どうしてこんな貧乏なのかわからないまま死ぬのかい、死ぬなら貧乏なわけをはっきりさせてから死んでおくれ」 「かあちゃん、お前どうして俺にそんなこと言うんだ」と胎里窮が聞き返すと女房は「だって土地神は土地を、財神は財産を、閻魔は寿命を管理しているんだろう、それなのに貧乏人は何時までも貧乏、金持ちは何時までも金持ち、世間はどうしてこうも不公平なのか聞いておくれよ」と言った。
胎里窮も尤もだと思い土地神の廟へ行って「土地神さま、土地神さま、あなたは世間の土地を管理しているのに、どうしてわたしに土地がなくて、胎里富に土地があるんですか」と聞いた。すると土地神は「お前は貧の運を持って生まれた、だからお前には畑がない。胎里富は富の運を持って生まれた、だから広い畑がある」と言った。 「誰が決めたんです?」 「玉皇大帝だ」 胎里窮はそれを聞くと何も言わず、財神の廟へ行った。
そして、「財神さま、財神さま、あなたは人の財産を管理しているのに、どうしてわたしには金がなくて、胎里富には金があるんです?」と聞いた。すると財神は「お前は貧の運を持って生まれた、だから一文もない。胎里富は富の運を持って生まれた、だから数え切れない金銀がある」と言った。「誰が決めたんです?」 「玉皇大帝だ」 胎里窮はそれを聞くとまた何も言わず閻魔の廟へ行った。
そして、「閻魔さま、閻魔さま、あなたは人の寿命を管理しているのに、どうしてわたしの寿命は短くて、胎里富の寿命は長いのです?」と聞いた。すると閻魔は「お前は貧の運を持って生まれた、だから寿命が短い。胎里富は富の運を持って生まれた、だから寿命が長い」と言った。「誰が決めたんです?」 「玉皇大帝だ」 胎里窮はそれを聞くとまた何も言わず、玉皇廟へ行った。
玉皇廟へ行くと門番が「胎里窮、何しに来た?」と聞いた、「玉皇大帝に会いに来ました」 「玉皇はいない」 「何処へ行ったんです」 「天界だ。一日と十五日に胎里富の焼香と供え物を受けに来るから用事があるならそのどちらかの日に来い」胎里窮はそれを聞いて家へ帰った。
家へ帰ると女房はすぐ「わかったかい」と聞いた、「わかった、あいつらみんな同じように俺に畑も金もなく寿命も短いのは玉皇大帝が決めたんだと言った」 「お前さん、玉皇に会ったのかい」 「会ってない、あいつ今天界にいて、一日と十五日にまた帰って来るんだとさ」
それを聞いた女房はしばらく考えてから「お前さん、人が寝静まったら玉皇廟へ行って玉皇大帝の冠と服をそっと盗んでおいで」 「何するんだ」 「帰ってきたら教えてやる」 そこで胎里窮は夜になると玉皇廟から玉皇大帝の冠と服を盗んで来た。
女房はその玉皇の冠を被り服を着て鍋底の墨で自分の顔に黒い髭を描き玉皇に化け、亭主の胎里窮に土地神、財神と閻魔を呼びにやった。
胎里窮は土地神の廟へ行って「土地神さま、土地神さま、玉皇大帝を我が家へお招きしました、すぐ財神と閻魔さまを連れて来て下さい」と告げた。土地神は玉皇大帝と聞くと二つ返事で財神と閻魔を呼びに行き、一緒に胎里窮の家へ行った。
三人の神が胎里窮の家に入ると、小さな灯の薄暗い中に玉皇大帝が端座している、三人の神が一斉に跪くと、偽の玉皇大帝が怒った声で「お前ら三人、なぜ遅れた?」 「夜道が遠く暗くて遅れました、お許し下さい」 「死罪を免じてやるが罰を与える。胎里窮、おるか」 「ハイ、お前に」 「三人のホッペタを思いきり殴れ」 「畏まりました」 胎里窮は袖をまくり腕をブンブン振り回すと三人の神を一人一人順ぐりにパンパンと力まかせにぶん殴った。
三人の神は胎里窮に殴られ、顔と鼻を青く腫らし口をゆがめ目をしかめて、ギャアギャア叫び痛がった。偽の玉皇大帝はもうよかろうと「お前らすぐ胎里富の土地と財産、寿命を胎里窮にやれ」 「仰せに従います!」 「行け!」 「畏まりました」土地、財神と閻魔は慌ててつまずきながら走り出した。
その晩、胎里富の屋敷が大火事になり、胎里富は焼死し財産は一つ残らず焼けてしまった。
さて、胎里窮はその日から病気がよくなり何をしても順調で、おまけに鶏は銀の卵を生むし、つまずいて転べば金の石を拾うし、たちまち家を買い畑を買って金持ちになった。
やがて一日になって玉皇大帝が下界の廟に帰ってみると、廟内は冷え冷えとして線香も上がってない、玉皇は怒って直ちに土地、財神と閻魔を呼んだ。
「胎里富はどうしてわしに線香も供え物もしないのだ」 「臣めらは玉皇大帝の仰せのとおり、胎里富の土地と財産、寿命を胎里窮にみんなやりました」 それを聞くと玉皇大帝は目を丸くして驚き「わしはそんなこと言っておらん、いったいどういうことだ」と聞いた。そこで三人の神は始めから事の次第を話した。
玉皇は聞き終わると大いに怒り、「胎里窮め、大胆不敵な事をしよったな、しかも女房はわしになりすまし、嘘の宣旨でわしの臣下を殴るとは、よし、わしについて来い、決着をつけてやる」 三人の神は胎里窮が恐ろしくて「玉皇大帝、あの夫婦は蠍と虎ですから行かないほうがいいです、わたしらは殴られたホッペタがまだ痛いくらいですから」 「馬鹿め、わしは天帝だぞ、怖いものなしだ。お前らが行かないならわし一人で行く」
こうして玉皇大帝は腕を振り振り一人で胎里窮の家へ行った。
玉皇大帝は胎里窮の家へ行って「胎里窮夫婦、出て来い」と怒鳴った。夫婦はちょうど餃子の皮を延ばしているところで、女房は「横柄な口をきくが、お前誰だい」と言い返した。
「玉皇大帝だ」 「アレ、玉皇大帝さまで」と女房は言いながら胎里窮に目配せした。胎里窮は“カチッ”戸を開けると玉皇大帝に「どうぞお入り下さい」と言い、玉皇大帝が家の中に入り腰を下ろすと、窓と戸に鍵をかけてしまった。
玉皇はドキッとして、「何をするんだ?」と聞くと、胎里窮はハハハと冷笑し「お前を薄く延ばしてやるのさ」と言った。
玉皇大帝はその意味がわからず「薄く延ばす?」とまた聞き返した、すると胎里窮は「すぐわかるよ」と言い、夫婦で玉皇大帝をしっかり抑えつけると胎里窮は鞋を脱いで鞋底で玉皇のお尻をところかまわず“ペタペタ”叩き、女房は麺棒を“ギシギシ”と玉皇のお尻に押し付けて転がした。玉皇大帝は痛くて逃げようとするが出る所がない、やっと窓に穴を見つけ、そこから小さな光の塊となって天界へ逃げた。
薛天智故事選 00.10.6