石成と天女

 昔、山里に石成という若者が住んでいた。朝早くから夜暗くまで斧と天秤棒を担いで山へ行き柴を刈って暮らしていた。
  ある日、石成は道を歩いていて何かにつまずいて転んだ、見ると真っ白な大きな狐である。猟師に撃たれて死んだのかと思って、触ってみるとまだ温かく息もしている、それに酒の匂いがする、はて、これは修行を積んだ狐仙に違いない、何処かで酒を飲みすぎたのだろう、こんな処で寝ていては町に入って来る車に轢かれ、ペシャンコにされてしまう、助けてやろうと狐を抱えて家へ帰り、床に寝かしておいた。

 やがて狐仙は夕方になって目を覚まし、身を翻すと青年の姿になり辺りを見回して、すぐどういうことかとわかり、急いで床から起きると石成に叩頭の礼をして「石成さん有難う、あなたはわたしの命の恩人です」と言った、「こんな小さな事で礼には及びません、さあお立ち下さい」と石成は恐縮して答えた。
 そう言われて狐仙は立ち上がり「わたしは天界の狐仙です、西王母の仙桃の宴で飲みすぎました。こうして誠実なあなたと遇えたのも何かの縁があったのでしょう、見ればあなたはまだ独り身の様子、わたしがあなたに妻女をお世話しましょう」と言った。

 石成は顔を赤くして「エッ、何ですって」 「恥ずかしがることはありませんよ、よい男がよい女を求めるのは当たり前です、天界の玉帝には七人の娘がいます。
 この天女たちは毎日天界の池で水浴びをしますから、あなたは草むらに隠れていて、天女たちがみんな衣を脱いだら、そっとその一人の衣を隠してしまうのです。水浴びを済ませてその天女が来たら天女の衣を返さず『わたしの妻になって下さい』と頼むのです」 「天女は承知するでしょうか」 「承知しますよ」 「でも天界は高くてわたしには昇れません」 「方法がありますから大丈夫です」
 狐仙はそう言うと一粒の赤い高粱の種を石成に渡し「この種を植えれば昇れます。困った事が起きたら三回『白大哥来てくれ』とわたしを呼んで下さい、すぐ助けに行きます」と言うと風のように消えた。

 石成は庭にその高粱の種を植えると、種はみるみるうちに芽を出し葉を繁らせどんどん伸びて一刻もたたぬうちに大きな高粱となって空の雲を突き抜けた、それを見ると石成は腰の帯をしっかり締め直し、高粱を昇り始め、やがて天界へ着いた。
 天界は美しく楼閣や宝殿が霧の中に建っている、雲の間には木立があり花が咲いている、その向うに清らかな水をたたえた緑の池が見える。石成が草むらに隠れていると七色の雲が飛んで来て池のふちに降りると、七人の花のような美しい天女の姿に変わった、天女たちは衣を脱いで池に入り、楽しそうに笑い声を上げながら体を清めていた。

 石成は腰をかがめ静かに天女の脱いだ衣に近づき、その一枚をそっと抱えて立ち上った、六人の天女の姉たちはびっくりして池からあがると急いで衣を着て飛び去った、ところが一番末の七妹は衣がなくて岸に上がれず、顔を赤らめて「お優しいお方、衣を返して下さい」と哀願した、「あなたが妻になってくれれば返します」 「もし嫌と言ったら」 「あなたは水の中に何時までもいることになります」と石成は言った。七妹は自分の願いを堅く拒む石成が逞しく凛々しい好男子なので気に入り「いいわ、あなたと一緒に下界へ行きます」と答えた。

 こうして二人は人間界に降り夫婦となった。石成は毎日山で柴を刈り畑を耕し、妻の七妹は家で糸を紡ぎ布を織り、ますます互いの情を深かめて暮らした。しかし幸せな暮らしは長くは続かない。半年経つと玉帝は末娘が下界に行ったことを知り、雷のように怒り天兵を下界にやって七妹を天界へ連れ去った。
 残された石成は悲しみのあまり三日も水も米も喉を通らなかったが、白大哥に言われていたことを思い出して「白大哥来てくれ」と三回呼ぶと白大哥が風とともに石成の前に現れた。

 「石成さん心配はいりません、すぐ玉帝に会って七妹を返してもらいなさい」 「もし返してくれなかったら」 「わたしがなんとかします」白大哥はそう言うとまた高粱の種を土に植えると、高粱はズンズン伸びて雲を破り、石成は高粱を伝って天界に昇った。
 すると七妹は二人の大きな天の神に左右から見張られ、池のふちで泣いていた。「石成、早く父の玉帝に二人を許してもらって」 「玉帝は何処にいるのですか」 「凌霄宝殿です」 石成は凌霄宝殿へ行って玉帝に会った。

 玉帝は人間界の娘婿を見るとすぐ殺して七妹の情を断ち切ろうと思っていたが、口先では「おお婿か、遠い処よく来た、少し休め」と言った、「それではわたしと七妹の結婚を許してくれるのですか」 「出来てしまった事だ、許す、許す」石成はこんなにすんなり話が進むとは思わず、喜んで天神に従って宝殿に入るとすぐ白大哥が来て「石成さん、玉帝が許したと思ってはいけません、今晩玉帝は大百足の精にあなたを食べさせるつもりです」 「白大哥さんどうしたらいいんです」 「慌てないで、あなたにはわたしがついています」白大哥は懐から一羽の雄鶏を出して「この雄鶏を抱いて今晩夜が明けるまで寝ないでいれば大丈夫です」

 その晩、石成が雄鶏を抱いて座っていると、真夜中になって外に土や砂を巻き上げる風の音がするので、外を見ると、ヤヤ、青い顔、鋭い牙の黒い大男が血の色をした盆のような大きな口を開けて入って来た、すると雄鶏が「コッコッ、コッ」と叫ぶと大百足の精は驚き、光の玉になって消えた。
 夜が明けて玉帝は天の神に石成の死体を取りにやったが石成は死んでいない。玉帝は「あいつが大百足の精に勝つとは気がつかなかった、よし、北海龍王を呼んであいつを凍死させてやる」と怒った。

 石成はその日、一日を無事に過ごした。夜になるとまた白大哥が来て、自分の狐の毛皮を脱いで「玉帝は今晩あなたを凍死させようとしています、これを着て難を避けなさい」石成は白大哥の狐の毛皮を見ると涙ぐんで「白大哥、あなたは毛皮がなくていいのですか、わたしはたとえ凍死してもあなたの毛皮は要りません」 「石成さん、余計なことを考えず早く着なさい、わたしには法術があります」そう言って白大哥が走り去ると、北海龍王が雲に乗ってやって来た、竜王は口を開いて冷たい霧を吹雪のように出し、たちまち石成のいる宝殿を氷の穴倉で囲ってしまった。だが石成は氷の穴倉の中の宝殿で白大哥の毛皮を着て汗をかいていた。

 さて、また夜が明けて玉帝は天の神に石成の死体を取りにやると石成はまだ元気に生きている。玉帝は「こいつの力がこんなにあるとは知らなかった、今晩はあいつに食事をさせて殺してしまおう」と考えた。 石成はまた一日無事だった。
 夕方になるとまた白大哥が来て「しばらくすると玉帝が食事を出しますが、うどんには虫、餃子には毒が入っているから食べてはいけません、ご飯だけ食べなさい、忘れないように」 「わかりました」玉帝は石成がご飯だけ食べるのを見てこの人間はなかなかの能力を持っているとわかり、娘の七妹を石成に返した。
 こうして石成と七妹は白大哥のお蔭でそれからも幸せに暮らすことができた。      

            薛天智故事選                               00.10.4

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