虎、王となる

 はじめ、獣には王がいなかった。統率する王がいないから獣たちは乱れ、人にも災害を及ぼした。
 天界の玉皇大帝がこれを憂い、獣徳星を下界に派遣し、獣の王を決めようとした。

 獣徳星は獣を集め、「家には主、国には君主がいる、お前たち獣も王を立てろ。誰かいないか」と言うと、獣たちは急に、俺が俺がと互いに己を主張して騒ぎ、争いはじめた。獣徳星は「静まれ、静まれ」と制したが少しも効き目がない。
 獣徳星は慌てて天界へ戻り、玉皇大帝に「駄目です、獣たちは我こそ王になろうと争いだしました」と言上した。それを聞いた玉皇大帝が「たいした事でもないのに何を騒いでいるのだ、争いを制する獣はいないのか」と言うと、獣徳星は「でも獣たちの殺しあいを見るには忍びません」と答えた。

 すると、玉皇大帝は「古代より王位は争奪の戦いだ。勝者は王、敗者は賊、これは天地の定めだ。 早々に勝者を天界へ連れて参れ、わしが自ら勝者を王に封じる」と言った。
  再び大帝の宣旨を拝した獣徳星は下界へ降り、獣たちの争いの場を見ると獣たちは争いの真っ最中でその屍は山野に累々と横たわり、ただ勝ち残った虎と豹がもんどりうって闘っていた。獣徳星は「虎よ、豹よ、お前たちはもともと同じ母から生まれた兄弟ではないか、一つの王位のために骨肉相い争うのは止めろ」と諫言した。

 虎は「万物の主、人さえ、王位のために兄弟相い争い殺しあう、なぜ止めるのだ」とせせら笑った。獣徳星は虎のこの一言にたじろぎ、ただ虎と豹の噛み合い、掴み合いの闘いを見るばかりであった。
 やがて豹は次第に弱まり虎に組みしかれ、いまや虎に喉を噛み破られそうになると、「虎の兄、同じ腹の弟に免じて、命だけは許してくれ」と哀願した。
 虎は「まだ俺と王位を争う気か」と糾し「いやもうその気はない」と豹が答えると虎は豹を放した。

 獣徳星は勝者の虎を連れて天界へ行った。玉皇大帝は「虎よ、わしは百獣を破ったお前の勇猛果敢を見、また最後には豹を放したお前の仁徳を見た。わしはお前を百獣の王とする」 「有難き幸せ、玉皇大帝さま」 「早く下界へ戻り百獣を統率せよ」 「もし百獣が私に従わぬ時には何としましょう」 「わしの宣旨を持たしてやる、従わぬ獣があればそれを見せよ」 「しかし、私の四肢の爪では宣旨を持てません」と虎が答えると、大帝はしばらく考えてから、四天王を呼び「お前たち、筆で虎の体に王と書いてやれ」と命じた。

 ところが四天王たちは誰も字を知らない、それでも四天王は書かなければ大帝の怒りに触れると恐れ、仕方なく、一人ずつ筆を持って黒々と線を虎の体の左に一本、右に一本と出鱈目に書いた。
 それを見ると玉皇大帝は怒って玉座を下り、筆をとると虎の頭に王と書いた。それで今でも虎の頭には王の字が残っているのである。     

           薛天智故事選                                00.8.8

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