獅子と蟻
昔、獅子は全身が長い毛で覆われていた。が、今はどうして首の周りにしか残っていないのだろう。それにはこんな話がある。
獅子は虎が百獣の王を争っている時、俺は虎より強いから最後は俺が王に決まっていると、たかをくくり、もう自分が百獣の王になったつもりで、獣たちの争いを横目で睨みながら、グウグウ寝てしまった。ところが、獅子が目を覚ますと、天帝はすでに虎を百獣の王に決めてしまっていた。
獅子は虎と百獣の王を争えず不満であったが、天帝を恐れ不満を表沙汰にもできず、亀を橋桁にぶつけたりして、周りに当たりちらした。
だが獅子はそれだけでは気が晴れず、小さな獣に八つ当たりして今日は鹿、明日は兎をと捉まえては食べてしまうので小さな獣たちは連日その災難に苦しんだ。
そこで蟻は獅子に「獅子さん、百獣の王は虎と決まってしまったんだ、もうあきらめて弱いもの苛めは止めてくれ」と言った。獅子は初めから蟻なんか相手にしていないから、「小さな蟻が何を言う、余計な事を何時までも言っていると容赦しないぞ」と凄んで見せた。
でも蟻は恐れず「獅子さん、わたしの話をよく考えた方がいいよ、やがてみんなに獅子さんの罪が知れ渡れば、誰も獅子さんを避けるようになり、鍋の中の魚のようにほったらかしにされてしまう、その時になって後悔しても無駄だよ」と忠告した。
だが、獅子は蟻の好意を悪意にとり、癪にさわって前足の爪で蟻を一撃し、ひねり潰してお喋りを止めさせようとした。だが蟻は機敏で素早く地面の隙間に潜り込み、獅子の後ろに出ると、獅子に「お前って奴は話の分からない奴だ、俺たちが小さいからと言って馬鹿にするな」と怒りをぶつけた。獅子は「ハハハ、可哀相なチビ奴、俺さまと喧嘩する気か」と、せせら笑った。
「やるなら、やるぞ」と蟻は伝令の蟻を出すと、たちまち大蟻、小蟻が隊を作って続々とやって来て、獅子に這い上がり、獅子の全身を噛み始めた。
獅子はあっちに転がり、こっちに転がり、爪でやたらに体を引っ掻きやっと首の前にいた蟻を振るい落としたが、体の後ろには爪が届かない、一匹ずつの蟻が獅子の一本ずつの毛の根元を噛みきり、たちまち獅子の体の後ろ半分はすっかり毛が無くなってしまった。
さすがに獅子もこれにはお手あげで、遂に「蟻さん、もう止めてくれ、俺の毛が無くなってしまう」と悲鳴を上げた。蟻は獅子を殺すのが目的ではないと、獅子を許す事にしたが、それから獅子の後ろ半分の体にはもうもとのような長い毛は生えてこなかった。それで今でも獅子は前髪しかないのだ。
薛天智故事選 00.8.5