万年茸の娘

 昔、蓮花山の麓に王小という息子とその母が住んでいた。王小は働き者で親思い、この辺り一の若者である。
 ある日、王小が山仕事から帰ると母が息苦しそうに床についている、慌てて「おっかさん、どっか具合悪いの?」と聞くと、母は「体に力がなくて頭が痛いんだよ」と、やっと言った。見ると母親の顔はむくんで真っ赤である、風邪でもひいたのではないかと額に手を当てると火のように熱い、「おっかさん、いま熱い葛湯を作るから、飲んで汗を出すといい」と言って王小は熱い葛湯を作って母に飲ませ汗を出させた。

 ところがよくなるどころか却って悪くなってしまった。王小は急いで医者を呼び、薬を調合してもらった。だが十何日経っても少しもよくならない。
  母親は王小を呼んで「小や、あたしはもう駄目だよ、あたしに無駄なお金を使うのは止めておくれ。お金はお前がお嫁さんを迎える時のためにとっておきな」と涙を流した。王小も胸をえぐられる想いで涙を流し「おっかさんは俺をおむつの時から育てて、大きくしてくれた、その間、おっかさんは食べたい物も食べず、一日だって楽しい日はなかったんだ。俺は一生独り者だっていいんだよ、それよりおっかさんの命が大事だ」と言うと母親は「馬鹿なことを言うんじゃない、おっかさんは今日から薬は飲まないよ」と薬を入れた壷を投げ捨てて粉々にしてしまった。

 王小は悲しくなって母親にすがり、母子は抱き合って泣いた。この有様を見て誰も泣かない者はあるまい。 母子が抱き合って泣いていると一人の老婆が家の中に入って来て、王小に「泣くんじゃない、早く涙をお拭き、お前の母親の命を助ける薬が一つだけある」と声をかけた。「どんな薬ですか?」 「蓮花山の頂上にある泉の青い石の上に万年茸が生えている、それが生き返りの長寿の薬だ、もしお前が頂上の泉の水と一緒に万年茸を採って来て煎じて飲ませれば母親の病は治り、百歳の長寿が得られる」と言って去った。

 王小は喜び、母親を安心させると、食糧と水を持って蓮花山へ登った。 麓から蓮花山の頂上までは遥かに遠い、王小は九つの谷、十八の峠を越えて頂上の真下まで来た時には日は落ちて暗くなっていた。それでも王小は手探りで頂上を目指して登った、すると前の方に灯りが二つ見える。
 こんな険しい山奥に人家があるわけはない、何の光であろうと、急いで灯りに近づくと、なんと灯りと見えたのは大きな大きなウワバミの二つの目だった。ウワバミのしっぽは蓮花山の頂上に絡み、頭は王小の目の前にある、その太さといったら十抱えでもたりないくらいだ。

 ウワバミは驚いている王小に「王小、何しに来たのだ」と聞いた、「万年茸を採りに来たのだ」 「お前、わしが恐ろしくないのか、一呑みにするぞ」 「母のために薬を採りに来たのだ、怖くはない」 「だが、わしは腹がへっている」 「母の病気が治ったら、お前に食べられに来る、それまで待ってくれ」と王小が答えるとウワバミは頷き、一陣の風になって消えた。
  王小は再び頂上へ向かった。すると風の音が聞こえ生臭い血の臭いがしたかと思うと、一頭の猛虎が山を揺るがして吼え、王小の前に躍り出た。「王小、何しに来たのだ」 「万年茸を採りに来たのだ」 「お前、わしが恐ろしくないのか、一口に食べてしまうぞ」 「母のために薬を採りに来たのだ、怖くはない」 「だが、わしは腹がへっている」 「母の病気を治ったら、お前に食べられに来る、それまで待ってくれ」と王小が答えると、虎は何も言わず、頭を振ってゆっくりと去った。

 翌日、王小は赤い太陽が昇る頃やっと頂上に着いた。林の中では鳥が鳴き、花畑には蝶が飛び、大きな鏡のように青々とした草地が広がり、その向うの泉の傍らに巨大な石があった。石には角ばった所がなく丸い車輪のように切り立ち、そのてっぺんに一株の真っ赤な万年茸が生えていた。王小はゆっくり大きな石を登りはじめたが石はすべすべで手をかける所がない。
 王小は必死になって何度も何度も手をかけて登るが半歩登るとすべり落ちどうしても登れない、すっかり疲れ果て泣きたくなっていると、天女のように美しい娘が現れて「立派な若者が泣くなんてどうしたのです?」と聞いた。

 「万年茸がないと、病の母が助からないんです」すると娘は顔を赤らめ羞ずかしそうにしながら「王小さん、あなたのお母さんはもう歳でしょう、病気が治ったって何年も生きられるわけじゃありません、あなたが心配したってしょうがないわ、それよりここであたしと夫婦になって暮らしましょうよ」と言って手を上げると、そこに大きな宮殿が現れた、壁は銀で作られ雪のように白く、屋根の瓦は金で作られている。

 王小はあっけにとられ“へえ大きいな”と思っていると、娘は艶やかな目で王小を誘惑するように「王小さん、此処には使い切れない金銀財宝、数え切れない絹や緞子の布や服、食べ切れない山海の珍味があるわ、此処にいれば一生幸せよ」と言った。
 それを聞くと王小は顔を曇らせ「私は母から生まれました、あなたも石の割れ目から出たのではないでしょう。父母を放り出して自分だけが幸せをむさぼるなんて、そんなこと鴉だってしません」と答えた。 娘は王小の言葉を聞くと、「フフ、フ」と笑い、サッと石のてっぺんに飛び上がると「あなたに万年茸を上げます、お母さんの病気はこれでよくなるでしょう。王小さん、あたしをお嫁さんにしてくれるかしら?」と言った。

 王小は顔を赤くして「私は母の病が治せるならあなたの言う通りにします」 「真実をお話しましょう。わたくしは万年茸の仙女です、ずっと前からあなたが好きで、あなたをそっと試していたのです」王小は喜んで万年茸の仙女の手をとって家へ帰り、母親の病気が治ると二人は結婚した。     

           薛天智故事選                                00.8.02

     はじめに戻る