虫の王

 古代、鳥には鳥の王、獣には獣の王がいたように虫にも虫の王がいた。サソリである。虫の王サソリは毎年六月六日、人々に線香と供え物で自分を祭らせ、少しでもそれを怠る者があればその者の畑に虫を放し、作物を荒らさせた。
  村娘の苗姑はお金がみんな老母の薬代に消え、六月六日に一本の線香も買えなかった。苗姑が「おっかさん、今日は六月六日だけど虫の王の祭りの供え物が何も買えないわ」と言うと老母はため息をついて「虫の王はきっと心が大きく情け深いから小さいことをいちいち気にかけ、わたしたちを責めはしないだろう、お線香が買えなければ草の根を焚き、供え物が買えなければ草団子を供えればいい」と言った。苗姑は老母の言う通りにした。

 虫の王は苗姑が草の根を焚き、草団子を供えているのを見て大いに怒り、袖を振るなり害虫を呼び出し、苗姑の畑を覆い、たちまち芽を出した苗を食い尽くさせてしまった。人は作物を食べるのだから、作物が収穫できなければ生きていけない。苗姑の老母は心配のあまりに病が重くなり死んでしまった。

 苗姑は老母を抱き、身の不運を嘆きながら「虫の王よ、お前は災いの虫をわたしの畑に出し、苗を食べさせたばかりか、母さえ死なせる酷いことをした、わたしはお前の虫たちを火祭りにしてやる」と畑の虫を大きな籠で捕らえ鍋にいれ、母の墓の前で火をつけ虫どもを鍋で焼いた。
 すべての虫は虫の王の精霊だから虫の王は飛び上がって驚き、苗姑に「火を消せ、火を消せ」と怒鳴った。苗姑は「お前はわたしの作物を荒らし、わたしの母の命を奪った、消すものか」と言い返し、更に薪をくべ、ふいごで火をめらめらと燃え上がらせ、鍋の中の虫を焼け焦げにした。

 虫の王はたまらなくなって弱気になり、苗姑に「娘さん、参った、参った、これ以上焼かれたらわしの命はない」と哀願した。だが苗姑は「お前を生かしておいては母の仇に報えないし、作物の豊かな収穫も望めない」と聞かず、薪を増やしふいごを押すとみるみる鉄鍋は赤くなって、虫の王はごろごろ転げまわり「娘さん、娘さん、やめてくれ、金銀を山ほどあげる」と叫んだ、「フン、お前の汚れた金なぞ誰が貰うか」と苗姑は答え、更に火を燃やした。 虫の王はもう泣くことも叫ぶこともできず、まさに死ぬばかりになり、苗姑がまた火を燃え上がらせると、とうとう両足をガックリと折った。

 すると天界から“トントン”太鼓の音が響き、「苗姑よ、わしは何の咎もないお前を苦しめ、天界の掟に背いた虫の王を許しはしない。だが下界の虫を絶滅させることもできぬ、もっと焼けば人に有益な虫も死んでしまう、命だけは助けてやれ」と玉皇大帝の声がした。そして玉皇大帝は天兵を下し、虫の王を縛り上げ天界で罰を与えた。

 六月六日に苗姑が虫を鍋で焼いたことは、たちまち人々に伝わり、作物の収穫を豊かにするには虫の王が火を恐れるから虫を火で焼けばよいとわかったが、有益な虫まで焼いてはいけないと、毎年六月六日になると人々は火で虫を焼く代わりに畑の周りに小さな赤い旗を立て虫の王を脅かすことにした。     

             薛天智故事選                              00.7.13 

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